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126 魔術師、ブレスをあびる

善は急げ。アリサが戻る前に片付けてしまおう。僕はノアを連れて、最初にドラゴンと遭遇した大きな木の脇にテレポートした。


さて、問題はドラゴンの番がいつも一緒に行動していることだ。離れて行動してくれれば、僕が1匹ずつ始末すれば良いだけで、ノアたちの手伝いはいらない。それは今回の魔道具のテストでも同じ事だ。一匹の後ろにとりつき、テレポートでもう一匹と引き離す。これしか思いつかないのだが、一匹にとりついたとき、もう一匹に攻撃される恐れがある。再度のテレポートをするわずかな時間をノアたちに稼いでもらう必要があるのだ。もちろん、その後も僕が戻るまで耐えてもらわなければならない。そのための魔道具だ。


仕方がない。魔道具のテストは2匹相手に行うしかない。2匹のブレスに耐えられれば問題はないのだ。


「ノア、近くにドラゴンはいるか」

「大きな魔力は感知されないよ」


前回見つけた巣の方向に向かってノアと一緒に飛行を始めた。

「周囲の警戒を頼む。前回は上空から襲われた。ノアが一緒だと不意打ちを受けるのはまずい」

「あたしなら大丈夫!」

「そうはいくか、ドラゴンだぞ」


幸いにも途中で襲われることなく、巣の見える位置までやって来た。2匹のドラゴンがつかず離れず巣の周囲を歩き回っている。上空高い位置でそのまま観察しているが、しばらく待っていても2匹が離れることがない。

「ぜんぜん離れないね」

「うむ、番のドラゴンの習性なのか、あの2匹が特別なのか…」

「へへ、あたしもこれからはミスターとくっついていようかなー」

「僕たちはドラゴンとは違うからね」


ノアの言うことを冗談扱いにして話題をそらす。

「いつまで待っても離れそうもないな。魔道具のテストをするだけだ、2匹を相手にするぞ。魔道具の防御を発動しておくんだ」

ノアに言うと、僕も障壁を纏う。


僕の障壁は、身体に密着した形でしか張れない。自分ひとりのときは問題ないが、ノアも一緒にカバーしようとすると、僕に出来るだけ密着してもらわないといけない。僕との接触がなくなると、数分しか持たずに消えてしまう。ノアにそのことを伝えると、僕の胴に背中から両腕を回してしっかりと抱きついて来た。魔道具は両手で持って僕の腹部にしっかりと押しつけている。発動中の魔道具は少し熱を発するようで、微かに暖かさを感じる。


「用意はいいか、ノア」

「いつでもいいよー」


僕は上空からドラゴンの近くまで降下していった。上空100メートルほどでドラゴンは気づいたようだ。2匹のドラゴンが上昇して、僕たちと同じ高さまでやって来た。爪や尾の物理攻撃をされたのでは魔道具のテストにはならない。僕は10数本の光の針を、2匹のドラゴンに向かって投げつけた。いくつかはドラゴンに命中したが、かすり傷くらいしかつけられなかった。しかし、魔法での遠隔攻撃があることを見せたことで、ドラゴンはブレスで対抗しようと思ったようだ。こちらの思惑通りだ。


2匹のドラゴンがホバリングで空中に静止し、僕たちに向かって口を広げた。口の中に光が生じる。


「氷のブレスだ!」

ノアが叫ぶ。いつでもテレポート出来る構えで、ブレスを待った。


2匹のブレスが同時に僕たちを襲った。僕の腹部に押しつけられている魔道具が急速に熱くなっていく。


魔道具は効果を発揮している。僕たちの前方数メートルのところで、ブレスは閃光を放って消滅している。魔道具がこれ以上耐えられないと思うくらい熱くなったところで、ブレスがふいに止んだ。ブレスの持続時間は20秒くらいか。


ブレスが効かなかったためか、ドラゴンが怒りの咆哮をあげた。飛びかかってくるかと思いきや、再度のブレスを放ってきた。

「雷!」

ノアが叫んだ。


稲妻の束のような電撃が僕たちを襲う。冷めかけた魔道具がたちまち熱くなっていく。

「だめ、持たない!」

ノアが叫ぶと同時に僕はテレポートをする。テレポートが発動するほんのわずかな時間で、魔道具の防御が切れ、僕の障壁を電撃が襲う。障壁内の温度が急速に上がるのを感じたとき、テレポートが発動した。



僕とノアはギルドの宿泊所に戻った。部屋の隅の基準点には絶対に近寄らないようにと念を押してあったせいか、トールたちは部屋の反対側の隅に集まって、僕とノアが戻るのを待っていた。


部屋に戻った僕とノアが、そのままの姿勢で息を整えてると、ソアが声を掛けた。

「ノアさん、いつまでミスターに抱きついているのでしょうか」

ノアは、僕の胴に回した腕にさらに力を加えながら答える。

「目の前でブレスを吐かれたんだよー。緊張で離れようにも手が…」


嘘ですよね、ノアさん

顔が笑っていますよ


僕はノアの両腕をそっと振りほどくと、近くの椅子に腰を落とした。ノアはその後ろにやって来て、僕の首に両腕をまわす。


「それで、魔道具のテストは」

トールに僕が答えた。

「2匹のブレスを耐えることが判りました。氷のブレスの場合ですが」

「氷のブレスの場合はって…」

ノアが口をはさんだ。

「氷のブレスの後に、雷のブレスを吐いたんだよ」

「氷竜じゃなかったのか」

「前にあたしが言ってたじゃん。炎竜も雷竜も、そして氷竜も実は全部同じ種のドラゴンだって。ドラゴンはどの種類のブレスも吐けるってことが実証されたよ。大発見だね」

「たまたま氷竜が氷と雷のブレスを吐けるだけじゃないのか」

「そう言われちゃうと…そうかもしれないけど…」

「それはともかく、1匹だけなら、ノアの魔道具は少なくとも2回はブレスを無効化できることが判ったわけです。ところで、ノア、雷のブレスで防壁を破られたとき、魔道具が壊れたなんて事はないよな」


ちょっと不安だった事を口にした。


「大丈夫だよ、壊れてないよ。試して見る。今作動させるよ」

ノアの言葉を聞いてソアが魔法を発動した。

「スリープ!」

ノアの近くで小さな閃光が起こり、ソアの魔法が打ち消された。

「どう、壊れてないでしょ」


ちょっと安心した。


「しかし…防げるのはブレス2回か…」

「1回目のブレスを防いだら、こちらも反撃をするから、ドラゴンだって続けて2回目のブレスは吐けないよ。ミスターが戻るまで何とか持ちこたえられるんじゃないかな」

「ミスター、1匹の始末にどのくらいかかる」

「十分に準備をしてから仕掛ければ、まだ飛竜程度の大きさだ、ドラゴンといえども1分もあれば…」

「本当か、すごいな」

「1分で始末できないときは、テレポートで遠方に飛ばして、そっちに向かいますよ。引き離しさえすれば、どっちから先にやっても同じですから」


相手は小さいといえどもドラゴンだ。本当は確信なんて持てないけれど、いざとなったらテレポートで全員を連れて逃げられるというのを頼りに、ちょっと自信を見せて皆の不安を取り除いておくことにした。




★★ 127話は4月10日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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