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125 魔術師、ふたたびドラゴンと

屋敷の庭で、ボーマンとマルガリータ様、そしてわたくしがテーブルを囲んで茶をいただいています。マルガリータ様は、その類い希なる回復魔法で、多くのハンターの傷、ときには致命傷を治癒しているのだそうです。


おふたりの話からハンターの能力の一端でもつかめないかと聞き入っていると、ふいにボーマンから話を振られました。


「ところで、アリスとやら、なぜボルグの話を聞きたいのかな」


マルガリータ様の登場で思わぬ展開になっていたためでしょうか、不覚にも口を滑らしてしまいました。


「ボルグとの闘うことに…」

「ほう、ボルグと闘おうと言うのか、冒険者がハンターと」


油断しました

マスターになんとお詫びを…

ヘタな言いつくろいは通用しない相手です

嘘をつかずに、マスターの力を隠しとおさなければなりません


「わたくしたちが望んでのことではありません?ボルグが…」

「ボルグは新参者とはいえハンターだ、冒険者と争ったらハンターの称号を失う。ボルグから仕掛けるとは思えんが」

「悪意はなかったのですが、冒険者の作法に疎い仲間がボルグに失礼を働いてしまったのです。それを挑発と受け取られてしまいまして…」

「やつは好戦的だからな。しかし、奴が相手にしようと思うほどなのか、アリサの仲間は」


マスターのことはできるだけ伏せておきましょう


「氷のエマ、そして王国一の魔力を持つ魔術師がいます」

「氷のエマか…それに王国一の…話には聞いたことがある。確か14くらいの少女ではなかったか」

「今は成人しております。魔法においては帝国のクレア様にも負けないかと」

「なるほど、その2人がいてはボルグも片手間では戦えんな」


マスターのことを出さずに済みそうと安堵したのですが…


「しかし、お主が命に代えても守ろうとしたのは、その2人ではあるまい」


見透かされてしまいました。


「マルガリータ様が救ったという、お主の主人ではないのかな。先ほどの言い方から、その2人は主人とは思えん。お主の主人について聞かせてもらいたいものだ。ボルグの狙いはその者なのであろう、違うか」


力を明らかにせず、嘘もつかず…


「わたくしのマスターは単独で飛竜を討伐し、ドラゴンとも互角に渡り合えるお方です」

「ドラゴンともか…」

「魔力がないために魔法は使えませんが、良き剣をお持ちです」

「魔法なしでドラゴンと渡り合うとは、なかなかだな」


嘘は申しておりません

マスターの力は魔法ではありませんから


わたくしの言葉に耳を傾けながら、ボーマンは、わたくしの目を見据えていました。嘘をつけば察知されていたでしょう。


「嘘ではなさそうだな。驚くべき事だ。ハンターでも魔法なしでドラゴンと対峙するのは難しい。ボルグの奴が興味を持つのも判るというものだ。いいだろう、ボルグについて話してやろう。ボルグの切り札は異常とも言える縮地だ」


ボーマンがボルグの縮地について説明を始めました。


体術にすぐれた剣士であれば、大抵の者が縮地、あるいはそれに類する技を使います。一瞬で距離を詰めて攻撃する。相手が魔術師であれば、魔法が発動する前に先手を取って攻撃する。剣士の常套手段です。相手が魔術師でなくとも、先手を取ることの意味は小さくありません。ボーマンが最後に付け加えました。


「アリサとやら、お主は魔法以外の未知の力があるといったら信ずるか」


わたくしはマスターの力を知っています

否定すれば嘘を見抜かれるでしょう

上手く切り抜けなければなりません


「はい、存じております」

「ほう、なぜ知っている」

「王国の王女の従者に、不思議な力の持ち主がいました。先ほど話した仲間の魔術師が魔法ではないと申していました」


ごめんなさい、ガーベラさん

利用させてもらいました

力の内容までは話していませんのでお許しください


「ならば話が早い。ボルグの縮地は体術でも魔法でもないと、俺は思っている。何か未知の力だ。本人が理解しているかどうかは判らんが、間違いない」

「一瞬で距離を詰めると言うが、ボルグの縮地は、その一瞬の間すら存在しない。どうだ、お主の主人は、そこからの一撃を防げるのかな。冒険者レベルでは、知っていても防げるようなものではないぞ」


「判りません」


本心だ

しかし、マスターならなんとかするはずです


「縮地以外には、これといった技はない。とはいえ一応はハンターだ。剣技も魔法も一流だ。お主も覚悟を決めて闘うことだな」


一対一ではなく、こちらは、わたくしを含めて全員で闘うのは当然という態度です。しかし、ボルグの異常に速い縮地のことを聞けたのは何よりでした。不意打ちの初見殺しさえ防げば、マスターなら必ずなんとかするはずです。


話を聞いてもわたくしが動揺を見せなかったのは失策だったのかもしれません。そんなわたくしの様子を見てボーマンが言いました。


「もしもボルグを倒すようなことがあれば、俺がその男に会いに行こう。そいつをハンターとして勧誘するか…あるいは…」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


トールがギルドから戻ってきた。


「ボルグの助力も、ギルマスの手助けもなしだ」

「弱りましたね…」

「うむ、ミスターが一匹を始末する間、どうやって俺たちでもう一匹を引きつけておくかが問題だ。ブレスが防げないと逃げ回るしか方法がない」

「あー、それなんだけど、あたしならブレスに耐えられるかも」


その場の全員がノアを見る。


「ほら、国を出るとき、残念王女から魔道具をもらったんだよ」

「そういえば…」

「あれって、魔法を無効化する魔道具なんだ。ドラゴンのブレスも魔法だから防げるんじゃないかな」

「そうかもしれんが、どんなに強力な魔法でも防げるものなのか…だいたい、ドラゴンのブレスでなんか実験できてないだろう」

「でも、あいつはアホだけど間違いなく天才だよ。魔術理論で王国はもちろん帝国まで入れても最高の天才だよ。ドラゴンのブレスだって伏せげるに違いないよ。それにもう一つ、魔法の発動を阻害する魔道具もあるんだ。両方を使えば…」

「だめだ、いきなり本番は許さねえぞ」


ノアは忘れているのか

それとも言わないだけなのか

残念王女は言っていたはずだ

小型なので「極大魔法は防ぎきれない」と…

それに魔法阻害は有効距離が短い

ドラゴンに近づかないと効果を発揮させられない


「僕が確かめてきましょうか」

「確かめられるのか」

「ひとりでなんて危険だよー」

「魔道具の防御が破られても、僕自身の障壁があるので大丈夫ですよ。結果だけ確かめて、すぐにテレポートで戻ってきますから。ノア、魔道具をちょっと貸してくれ」


ノアがポケットから黒い球を取り出そうとして、はっとした表情になった。

「だめだよ、ミスター。魔道具の使用には少しだけど魔力がいるんだ。ミスターは魔力ゼロじゃん。この魔道具は使えないよ」

「それではわたしが一緒に…」

言いかけたソアをノアが遮った。

「あたしが一緒に行く。効果があれば本番で使うのは、あたしなんだから、あたしが一緒に行った方がいい」


トールが僕を見て、真剣な口調で言った。

「ミスターに頼むことにする。ノアを頼むぞ、ミスター」




★★ 126話は4月8日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝

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