120 魔術師、仇討ちをする
さて、誰に飛竜のことを聞きましょう。そう思いながら掲示板に近づくと、冒険者に混ざって、場違いにも10歳くらいの子どもがいます。ノアみたいなこともありますから、実は冒険者という可能性もありますが、魔力はわずかしか感じられないので魔術師とは思えません。となると、やはり冒険者ではないのでしょう。では何故?
「ごめんなさい、ちょっとお話を聞かせてもらいたいのですけど」
後ろからその子に話しかけてみました。
「おいらのことかい、お姉ちゃん」
「そうですよ」
「お姉ちゃんも冒険者なのか」
わたしは黙って頷きます。
「女のくせに冒険者なのか」
このクソガキ…
いえ、子ども相手に大人げありませんね
「ええ、冒険者です。飛竜だって狩れますよ」
「ほんとうかい、ほんとうに飛竜を狩れるのかい」
飛竜と聞いて、顔つきが変わりましたね
飛竜について何か聞けるかも知れません
「ええ、仲間と一緒なら狩れますよ。すこしお話をしましょうか」
その子を誘って、部屋の隅に行きます。残念ながらテーブルは冒険者で占められていて空きがありません。立ち話になりますが仕方ありません。
「君は冒険者でもないのに、なぜこんなところにいるのでしょうか」
「冒険者を探してるんだ、飛竜を狩ってくれる冒険者を」
「飛竜を狩るには依頼料…お金がかかりますよ」
「お金ならあるよ、ほら」
そういってポケットに手を入れ、何かをつかみ出して、わたしに見せたのです。
握られた手を開くと、銀貨が3枚、掌の上に乗っていました。わたしがそれを見ると、すぐにポケットに戻します。
「どうだい、こんな大金、見たことあるかい」
確かに、10歳の子どもには大金ですね。しかし飛竜はおろか、鎧狼の討伐にも足りません。
掲示板の前の冒険者たちの方を向いて、その子は言いました。
「あいつら腰抜けで、俺の依頼を受けてくれないんだ。飛竜が怖いんだ」
つまみだされなかっただけ、ここの冒険者は優しいですね
「どうして君は飛竜を狩りたいのかな」
「親父の仇だ」
「それは…」
「親父は木こりで、親方の下で働いてたんだ。おいらも手伝ってたんだぜ。仕事場の森に危険な魔物が来ることなんかなかったのに、あるときから鎧狼が出るようになったんだ。鎧狼はもっと遠くの森にしかいないはずなのに…」
「そのせいで仕事が出来なくなったんだ。親方は冒険者を頼んで鎧狼を近づけないよういするって言いだしたんだけど、そもそもどうして急に狼たちが来るようになったのか調べる必要があるって言い出して、おいらの親父が調べに行くことになったんだ」
「お父さん、ひとりでですか」
「いや、親父の仲間がもう2人一緒だった。そして…ひとりしか戻ってこなかった…」
「お父さんは帰ってこなかったんですね」
「帰ってきた奴の話だと、親父たちは狼の縄張りの森まで行って、そこで飛竜に襲われたんだと。そこで…親父ともう1人は飛竜に殺され、そういつひとりが生きて戻れたって…。さっき見せた金は親方がくれたんだ。親父の香典だってな」
「あなたのお母さんは?」
「母さんはいない、おいらが小さい頃に死んじゃった。顔も覚えていないや…」
「あなたはひとりで暮らしているんですか」
「親方が雇ってくれてる。住むとこは親父の家がある。親父の仲間も良くしてくれるので心配ない。だから親方からもらったお金はなくても大丈夫なんだ。だから、その金で親父の仇を取ってもらうんだ。お姉ちゃんが飛竜も狩れる冒険者なら、おいらの依頼を受けてくれよう」
もうすでにギルマスから飛竜討伐の依頼を受けています。この子の願いを聞いてやってもいいでしょう。
「いいわ、お父さんの仇を討ってあげる。でもお金はいらない。依頼料は組合からもらうから」
ギルドに依頼したのは組合の長だから、依頼料の出所は組合ってことになる。
うん、嘘は言っていない
子供心にも、施しは受けたくないという表情をみせた。
「でも、それじゃぁ…」
「そのかわり、君にはお父さんたちが飛竜に出会った場所を教えてもらいたいの」
施しじゃぁない、ちゃんと仕事の対価だと思えたのだろう。元気な声で言った。
「おいらが案内してやるよ」
子どもに案内させるのは…
でも、いつものパターンでやればエマなしでもやれるはず
エマにこの子を見ててもらえば大丈夫かな…
「じゃぁ、お願いするわね」
「まかしとけ。いつ出発するんだい」
「仲間と相談してからね」
「おいらはいつでもいいぜ。いつでもギルドにいるから、行くときは声を掛けてくれよな」
「わかったわ」
「ソア、そのガキは何だ」
後ろからトールの声が聞こえました。
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僕たちがギルマスとの話を済ませて戻ってくると、ソアが隅の方で子どもと一緒にいる。トールが誰かとソアに声を掛けた。
「いいところに来ました、トール。この子が飛竜が現れた場所まで案内してくれるそうです」
「おいおい、そんなガキで大丈夫なのか。飛竜との闘いになるかもしれんのだぞ」
「ガキっていうな、おいらはもう10歳なんだぞ」
「場所の確認だけですから。それに、万一、戦いになったらエマにこの子をお願いしようかと。エマなしでも、いつものパターンで飛竜は狩れますから」
「そうだな。それに、場所の確認ができたら一旦戻ればいいか…。ミスター、具合はどうだ」
「今日休めば、明日には大丈夫かと」
「よし、アリサが戻る前にかたをつけるか。明日の朝出発と行こうか」
「飛竜と会えるといいなー。この子にあたしの活躍をみせてやるんだ」
「えぇ、こんなガキも冒険者なのかい。しかも女の子だし」
「ガキとはなによ、このクソガキ!美少女のあたしが主役なんだからね!見てなさいよ」
「おいらがガキならお前だってガキだろ。おいらより二つか三つ上だからって威張るな」
「な、なにが二つ三つよ。あたしは16よ。もう大人!」
「うそつけ!そんな小さいム…」
坊主!それは地雷だ!
ソアがとっさに手でその子の口を押さえた。
「この子はノアと言って、本当に16なの。あ、あたしはソアよ」
僕もフォローする。
「そう、立派な大人で、飛竜退治のエースだから。ノアも子ども相手にムキにならないようにな」
「そうね、大人はガキの言うことなんかいちいち気にしないー」
なんとか子ども同士の…いや、子どもとノアのけなし会いを回避し、明日ギルドで会う約束をして、その子と別れた。
「あの子の名前を聞くのを忘れてました」
「明日、会ったときに聞けばいいさ」
「このあと村を見て回るんだよな、ソアは」
「そのつもりですが」
「ギルマスとの話も終わったし、みんなで一緒に見て回るとするか」
僕たちは揃ってギルドから出て、村の中央の広場に向かった。
ノアじゃないけど…
何か美味いものが売ってるといいな…
★★ 121話は3月28日00時に投稿
外伝を投稿中です
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




