119 魔術師、雷鳴と話す
アリサを帝都に送り、アルルに村に戻ると、僕はトールを誘ってもう一度ギルドに行くことにした。
「すまんがトールも一緒に来てくれないか。ボルグというハンターについてギルマスからもう少し聞いておきたい」
「かまわんよ。お偉いハンター様がいなければギルドマスターも話せることがあるかもしれんしな」
「わたしも行きます。エンダーの友らしいので」
「あたしも行くよー」
全員ついてくるのではないかと思ったが、例によってゴードは無関心な様子だし、ソアはひとりで村を見て回るという。
「奴がまだ一緒にいたら出直しだな」
「そのときはみんなで村を見て回ろうよ。何か美味しい物があるかもよー」
「それよりも飛竜について聞いて回ったほうが良いのでは」
「エマは飛竜を狩ったことはないのかなー」
「スライム騒ぎでノアさんと別行動のときに一回」
「そうだったね。ソアの火力がたりなくてあぶなかったけど、エマのおかげで地上に落とせたんだったね。今回はあたしがいるし、エマが一緒なら楽勝だよ」
ゴードの盾でブレスを防ぎ、ノアの魔法で地上に落とす狩りは、エマがいても結構ギリギリだと思うけどな…
ギルドに着いて受付に向かう。
「おや、何かお忘れ物ですか」
受付嬢が尋ねた。
「ああ、ちょっとギルドマスターと話がしたい。例の奴はまだいるのか」
「ボルグ様なら職人組合の長の家に帰られました。ハンター様をお泊めできるような家は、そこしかありませんから。この村で一番立派な家ですし、何よりハンター様をお連れしたのが組合の長ですから」
「そいつは結構。ギルマスに会えるかな」
「ただいま聞いて参りますので、少々お待ち願います」
受付嬢はすぐに戻ってきた。
「ギルドマスターがお会いになるそうです」
僕たちが受付嬢についてギルマスの部屋に向かおうとすると、ソアはついてこずに、掲示板の方を向いた。
「わたしは向こうに集まっている冒険者に、飛竜のことについて聞いてみますね」
トールは了解したとばかりに頷き、僕たちはソアを残してギルマスと今日二度目の面会をした。
部屋に入ると、ギルマスは怪訝そうに僕たちを見た。
「話はさっき済んだと思ったのだが…」
「飛竜のことではない。あの野郎のことだ」
「仮にもハンターと名乗る男を野郎呼ばわりするのはどうかと思うがの」
「野郎で十分だ。あいつは何者なんだ」
「だからハンターだと」
「そんなことは判ってるよ。奴の性格とか実力の程はどうなんだ。ハンターって連中は、余裕綽々で俺たち一般の冒険者が何を言おうと気にするような手合いじゃねぇと、俺は聞いていたんだが」
「お前さんの言うとおりだな。わしの知っているハンターは安い挑発に乗ったりはしない」
そう言ってギルマスは僕とエマの方を見た。
「あんたはボルグに何をしたんだ。わしは何も気がつかなかったのだが…」
「ハンターと聞いてつい、彼の長剣と鎧の素材を調べてしまったんです」
「手にも取らず、そんなことが出来るのか、あんたは。魔法を使った様子はなかったぞ。それにあんたの魔力はこのわしでも感知出来ぬほど微々たるものだしな、そもそも魔法が使えるとは思えん」
「魔法ではなく、我が家に伝わる一子相伝の術です」
世話になりっぱなしだな、「一子相伝」さんよ…
「そんな術があるのか…。世の中は広いのう」
「それでボルグはどうなんだ」
「ボルグは1年ほど前にハンターに昇格した。飛竜の相手など、どのハンターもしたくはない。なんの手柄にもならんしな。しかし、帝国のお偉方、それも相当なお偉方から話を持ってこられては断りにくい。それで新参者のボルグが貧乏くじを引いたというわけだ」
「それで機嫌が悪いのかー」
「新参者と言うが、実力はどうなんだ」
「仮にもハンターだ。お前さんたちよりは上だろうよ」
「ミスターの方が強いにきまってるじゃん」
「ほう、それは面白い。わしに負けぬ魔力の持ち主が言うことだ、ただの強がりとも思えぬが…わしにはそこの男がそれほど強いようには思えんのだが…この雷鳴のダレルも老いぼれたということかのう」
「もし、万一、争いになって僕が勝ってしまったとしたらどうなりますか」
「ここ数百年、ハンターはハンターにしか負けていない。もしもあんたがハンターを倒せば、あんたの名前は帝国に鳴り響くだろうな」
「そうなったとすると…」
「他のハンターがお前さんに目をつける。あるものはお前さんをハンターにしようとするだろうし、またある者はあんたを倒そうとするかもしれん」
「王都のギャング組織以上にやっかいそうだな」
「まぁ、あれでも一応ハンターだ。あんたたちが剣を抜かなければボルグも手はださんよ」
「あいつ、魔力もかなり持ってたけど、魔法も使えるのかな」
「ああ、魔法も剣も一流だな。大抵のハンターはそうだ」
「ねぇ、ミスター、あいつになんか負けないよね」
「ああ、負けないよ。勝てもしないけど…」
「どういうこと?」
「あいつがきたら、謝っちゃうから」
「ええー、つまんない」
「それで駄目なら逃げる」
ギルマスが大声で笑い出した。
「おまえさんは、賢いのう。安心したぞ」
「ところでギルドマスター、あなたは何故ハンターになれなかった…いや、ならなかったんですか」
「わしか…わしは…ハンターの器ではなかったということかな…」
かつて雷鳴のダレルと呼ばれた男は、窓の外、遥か虚空を長めながら、小さな声でつぶやいた。
★★ 120話は3月26日00時に投稿
外伝を投稿中です
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




