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118 魔術師、知らない出来事

帝国のギルドカードも所持しているので、帝都の入り口は問題なく通過できました。まずは公爵様の配下に連絡を取らなければなりません。帝国に入り込んでいる配下の所在は公爵様しかご存じありません。ではどうするのか。ギルドに特定の依頼を出せば、向こうから連絡をしてくる手はずです。さっそくギルドに向かうことにしましょう。



マスターが皇帝との和平交渉にきたとき、ギルドに顔をだしましたが、あのときはほとんどクレア様が受付と話をして、わたくしは後ろで控えていただけですから顔は覚えられていないと思います。メイド服は目立っていたので記憶されているかもしれませんが、今日はインバネスで隠れていますから、わたくしとは思われないでしょう。


受付に向かいます。幸いにも、前回の受付嬢とは違う人物でした。

「依頼をお願いしたいのですが」

「はい、どのような依頼でしょうか」

「氷竜の討伐です」

「ええと…氷竜ですか…」

「はい、氷竜です」

「それでは、こちらの板に依頼内容を書いてください」


わたくしが板に依頼内容を書いて戻すと、受付嬢が顔をしかめた。

「ええと…報酬はこれでまちがいありませんか」

「はい、これで」

「氷竜ですよね」

「はい、氷竜です」

「この報酬では誰も引き受けないかと思いますが…」

「そうですね…でも、ひょっとしたら変わり者の冒険者もいるかもしれません」

「絶対にいないですよ、この報酬では」

「でも、お願いします。いなければ仕方ありません」

「手数料の無駄だと思いますが…」

「かまいません」

手数料の銀貨2枚を受付嬢に渡します。

「それでは受付させて頂きます。誰も引き受けなくても、手数料の返金はありませんからね」


受付嬢は、別の職員に声を掛け、依頼が書かれた板を掲示板に掛けさせた。今日中には連絡が来るはず。それまでに食事をすませておきましょう。


ギルドの向かいにある食事処で、昼食をとっていると、わたくしのテーブルに男がひとり近づいてきます。最初は公爵様の手の者が来たのかと思いましたが、身のこなしなど、とても公爵様の配下とは思えません。


「あんたかい、とんでもねぇ依頼を出したのは。氷竜の討伐たぁ豪気じゃねぇか」

「それで、どのような御用でしょうか」

「その依頼、俺が引き受けてもいいぜ。もっとも報酬にもう少し色をつけてもらわねぇとな。あれじゃあ誰も引き受けねぇぜ。金がたりねぇんだろう。俺なら金じゃぁなくてもいいぜ、あんたがちょいと俺といいことをしてくれりゃ、それでOKだ」


公爵様の配下でないことは決定です。


「失礼ながら、あなた様では氷竜の討伐は到底無理かと存じますが」

「人を見かけで判断すると火傷をするぜ。なんなら俺の実力を見せてやろうじゃねぇか」


この場で追い払っても良いのですが、つきまとわれたりしては公爵様の配下が連絡してこれません。


「そうですか、それでは実力を拝見させていただきましょう。食事はもうすみましたから」

「おお、そうかい、それじゃあ着いてきな」


男に着いていくと、しばらく前はスラムだった地区にやってきました。なんでもドラゴンのブレスで巣くっていたギャングもろとも焼き払われそうで、今は瓦礫の山の間に小さな小屋が乱雑に建っています。大きめの瓦礫の山の後ろに回ると、男は立ち止まりました。


「ここなら貧乏人の小屋もねぇし、人目もねぇのでちょうどいい。報酬の先払いをもらおうか、金じゃねぇほうのな」

「実力を見せてくれるのではないのですか」

「先払いを断ろうってのなら、見せてやるぜ」

「では見せてください」

そういってインバネスを脱ぎ、メイド姿になりました。

「なんだ、どこぞの貴族様のメイドなのか」

「メイドではありません」

わたくしは、隠し持ったダガーを取り出します。

「そんなおもちゃでどうしようってんだ、さあお楽しみ…」

男の言葉を待つようなことはしません。距離をつめて、下品な言葉を掛けようとした男の首を切り裂きました。そのまま男の後ろに回り込み、返り血を避けると同時に相手の反撃に備えてダガーを構えます。


男は首を両手で押さえ、後ろを振り向こうとしますが、そのまま仰向けに倒れます。何かを言っているようですが、あふれる血で何を言っているかわかりません。うつろな目をわたくしに向けていますが、もう何も見えていないようです。


「容赦ないな」


突然の声に、ダガーを構えて後ろを振り向くと、職人風の男がひとり立っています。声を掛けられるまで全く気配を感じとれませんでした。ただ者ではありません。


「いつもそのように言われます」

「死体の放置はまずいな…」

そう言って男が手を上げると、炎の球が生じ、横たわった男が焼かれます。


魔術師なのでしょうか。とっさに後ろに飛んで距離を開けます。


「次はと…」

わたくしのことは無視して、男が再び手を動かすと、誰とも判別できなくなった黒焦げの死体の脇に穴が空き、その中に黒い塊が落ちます。その上に土が被さりました。

「これでいいか…」


「何者ですか」

わたくしの問いかけに、男が答えます。

「氷竜の討伐なら、俺が引き受けてやるよ」


公爵様の配下でしょうか、ひやかしとは思えません、確認しましょう。


「わたくしはデイジーと申します。あなた様は」

「俺か、奇遇だな、俺の名前もデイジーって言うんだ」


配下の者に間違いありません。


「調べてもらいたいことがあります」

「誰の依頼だ」

「わたくしのマスターから」

「あの爺さんからではないのか」

「確認してください。アリサから言われたと」

「そうさせてもらおう。とりあえず内容を聞く」

「ボルグというハンターについて、明後日の朝までに判る出来るだけの情報を」

「了解した。明後日の朝、日の出の時刻にここでまた会おう」


わたくしを残して、男は去って行きました。後をつけたい欲求に駆られましたが、思いとどまりました。


ギルドに戻って依頼を取り下げてきましょう。また冷やかしが現れたら面倒です。インバネスを羽織ると、ギルドに向かって歩き出しました。


この廃墟、ほんとうにドラゴンの仕業なのでしょうか…




★★ 119話は3月24日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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