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115 魔術師、ハンターに出会う

王都のギルドマスターの部屋よりも立派な部屋に僕たちはいる。この村には金のなる木があるに違いない。部屋には応接用のソファーとテーブルが2組用意されていた。加えて壁際に幾つもの立派な椅子が置かれている。そのひとつに先客がひとり座っていた。長剣の鞘を床にあて、柄を肩に載せてかかえている。革の軽鎧のような出で立ちだが、よく見ると革ではない。薄い金属で造られているようだ。


あまり見つめるのは礼を失する。僕たちは先客の反対側に位置するソファーと椅子に分かれて座った。アリサは相変わらず僕の後ろで立ったままだ。


ルドマスターは正面の机に座ると、話を始めた。

「小さなお嬢さんが見ていたので、ギルドが出した依頼については知っていると思う。聞いてもらいたいのは、その依頼の件だ」

トールが口をはさむ。

「依頼を受けて欲しいという話なら、すまんが無理だ。馬と馬車を買うために立ち寄っただけで、旅の途中だ。すぐに出発する」

ソアが付け加える。

「それに、仲間が大きな怪我をしたばかりで体力が万全ではありません。仕事はしばらく受けられません」

「全員とは言わん。わしが依頼したいのは、そこの赤いマントのお嬢さんだ」


ギルマスが説明を始めた。


この町は隣接する森の木材を帝都に売ることで富を得ている。普通の木材ではない。珍しい貴重な木材で、この村の森に大きな群生地があるという。その森には魔物が生息している。鎧狼とフォレストベアである。フォレストベアも鎧狼も生息地が貴重な木の群生地から離れているので問題はなかったのだが、最近になって事情が変わったのだ。鎧狼やフォレストベアが貴重な木の群生地に頻繁に姿を見せるようになったという。


「そいつらを討伐してくれってことか」

トールが口をはさむと、ギルマスは首を横に振った。

「それは掲示板の前に集まっている冒険者にまかせる。そこのお嬢さん…氷のエマと呼んだ方がいいかの…氷のエマに頼みたいのは飛竜の討伐だ」

「飛竜とは?それに、なぜ、わたしを氷のエマだと」

「エンダーはわしの友人だった。その赤いマントはエンダーのマントであろう。エンダーは何も話をしなかったが、氷のエマの噂は聞いていた。エンダーを越えた唯一の弟子だと」

「ギルドマスターがエンダーの友人?」

「こうみえても昔はわしも知られた冒険者でな」

「ダレル…、雷鳴のダレル…お主のことか」

「雷鳴か…そんな二つ名で呼ばれた時もあった」


氷のエマという名が出たとき、それまで目を閉じていた先客が顔を上げ、エマを見た。氷のエマの名は帝国でも有名のようだ。それに対して、エマ以外の僕たちのことは相手にしていないようだ。帝国の皇女を巻き込んだ先の騒ぎは知っているだろうけど、僕たちがその当事者だと知らないのだろう。魔術師としてのノアの名声も、帝国まではとどいていなかったようだ。


ギルドマスターは説明を続けた。

「森を越えた先の山に飛竜が住み着いたのだ、しかも番いでな。森の半分、山に近いところがそいつらの狩り場になっている。もともとそこを縄張りにしていた鎧狼やフォレストベアは飛竜から逃げて群生地の方に移動してきたという訳だ」

「そいつらを冒険者が討伐すれば済むことでは。問題の群生地は飛竜の狩り場じゃないのだろう」

「今はな。しかし飛竜は番だ。繁殖して数が増えれば、貴重な群生地も狩り場になるかもしれん。そうなってからでは討伐は大変だ。2匹だけの今、飛竜を討伐したい」

「わたし一人で2匹は無理だぞ」

「そちらのお仲間と一緒ならどうかな。特に小さなお嬢さん、あんたの魔力は相当なものだ。わしの魔力感知が経験したことのないほど反応しているぞ」

「自分でやったらどうだ、雷鳴のダレル」

「雷鳴か…。昔の話だ。今は昔の栄光でギルドを任されているだけだ」



僕は隣に座っているノアに小声で尋ねた。

「知っているか、ノア」

「あたしは知らない。たぶんトールたちも知らないと思う」

僕の後ろで立ったまま控えていたアリサが僕の耳に顔を寄せてささやく。

「かつて帝国で名をはせた冒険者です。雷鳴の二つ名の通り、雷系の魔法が得意だったとか。ノア様たちが生まれたる前に引退していたはずです。もちろんわたくしも生まれていませんが、当時の噂では、すぐにハンターに昇り詰めるだろうと言われていたようです」

「なぜ、引退したのかな」

「理由は誰もしらないようです」

「アリサはどうしてそれを…」

「引退という噂が伝わったとき、その理由に公爵が疑いを持って、配下に探らせたそうです。わたくしが公爵の元にいた時にベテランの仲間から聞かされました」



「そちらの男は?」

エマが先客の方に視線を向けた。


ギルドマスターの返答を遮って、その男が答えた。

「俺はボルグ。ハンターだ」


たったひとりでドラゴンをも狩るというハンターが僕の目の前にいた。


ハンターと聞いて、僕はそっと男の持つ長剣と鎧の組成を調べた。どちらもアダマンタイトだった。エンダーの刀と同じだ。


調べるのに使ったのは僕の力で、魔法ではない。この世界の人間に気づかれることはないだろうと思っていたのだが、何かを感じ取ったのか、男が顔を上げて僕を見つめた。


その男が長剣を手に立ち上がり掛けたところで、エマがボルグに視線を向けながらギルドマスターに聞いた。


「ハンターがいるのなら、わたしに依頼するまでもないだろう。飛竜の2匹くらい問題ないはずだ。それとも飛竜に手こずるようなハンターもいるのか」

僕への敵意をそらそうというのか、エマはハンターと名乗った男を挑発した。


★★ 116話は3月16日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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