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108 魔術師、新戦法を試す

「ねぇ、ミスターたち、遅くない?」

「そうですね、ノア。遅いですね」

「何してるのかなー、ギルドに行って話をするだけなのに…」

「わたしたちが町を出る事が問題だと思われているのでしょうか」

「あたし、様子を見てこようか!」

「そうですね。でも、ひとりで行ってはいけませんよ」

「じゃぁ、アリサも一緒に来る?」

アリサが黙って立ち上がり、同意を示すと、続けてエマも立ち上がった。

「わたしも行くとするか…」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


二対二の戦いは、思った以上にやっかいだ。今までは多数を相手に戦った場合でも、ひとりひとりを見れば一対一の戦いだったが、今回は違った。相手は僕たちと戦いながら臨機応変に攻撃の目標を変え、僕もトールも、まるでそれぞれが一対二の戦いを強いられているかのように思ってしまう。それでもトールは慣れているのか、上手く戦っているが、僕の方は戸惑うことばかりで力を十分に発揮できていない。


長剣の相手は攻撃のほとんどをトールに集中させているが、ダガーの男は僕とトールの双方に攻撃を加えてくる。ひとつひとつの攻撃の威力は長剣の男よりも劣るが、それでもダガーの突きは相当な威力だ。僕の障壁でも不安で、まともに受ける訳にはいかない。この世界に来たばかりのときは、障壁さえあれば絶対安心と思っていたのだが、ガジンとの戦いからずっと、相手の攻撃力の強さに驚かされてばかりだ。物理攻撃で破られるなど理論的にもあり得ないと思っていたのだが…


相手の攻撃のコンビネーションの良さもさることながら、トールがすぐ近くで戦っていることが足かせになっている。トールではなく僕の問題だ。


マイクロブラックホールを機雷のように浮かべて相手の動きを封じようと思ったが、トールが触れてしまいそうで思いとどまった。


今までは、必要に応じてテレポートで距離を取り、戦いの流れをコントロールしてきたのだが、それをすると、トールが文字通り一対二の戦いになってしまい、さすがのトールでも分が悪い。


障壁だよりの強力な攻撃も、トールを巻き込みそうで使えない。


そんな事を考えていると、長剣の一閃が横から迫って来た。チャンスと見て、見えない剣で受けようとする。見えない剣で受ければ、長剣を両断できる。


そう思ったとき、ダガーの男が見えない剣を持つ僕の右手を狙ってダガーを突きだして来た。もう止められないし、避けることも出来ない。


見えない剣で長剣が両断される。遠心力で切断された切っ先は、僕をそれて飛んでいく。その一方で、恐れていたとおり、ダガーは僕の障壁を突破し、僕の右腕に突き立てられた。もうひとつのダガーが僕の胴を狙って突き出されてきたが、トールの剣がそれを弾いて難を逃れた。


「大丈夫か、ミスター」

「あまり大丈夫とは言えないな…」

僕は見えない剣を鞘に戻した。とてもじゃないが剣は振れない。今後は超能力での攻撃に頼るしかない。


さすがに長剣が両断されたことで、相手の攻撃のラッシュも一段落し、間合いを取って対峙している。この時間でなんとか攻め方を考えないといけない。


長剣の男は、半ばから切断された自分の剣を見ていたが、それを捨てると、背中に背負っていた短槍をとりだした。長剣よりも攻撃力で劣ると思いたい…


キーファーでの戦いで思いついた手を使って見よう。僕は痛む右手をポケットに突っ込み、銅貨を数枚つかみ出した。あの女子中学生のようにスマートには行かないだろうが、威力はともかく、連射性能は僕の方が上のはずだ。そして左手を前に出すと光る盾を作り出した。これはキーファー戦で全身を覆った高温高圧のプラズマの二重障壁だ。自分の身体から離して、盾のように展開することで自分へのダメージを避け、さらに視界も妨げない。とはいえ、かなりの熱は感じる。直接手で持てないので、超能力で目の前の空中に維持している。素速い操作は難しい。


さぁ、この世界にレールガンとリアクティブ装甲の初登場だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


途中で出会うかと思ったのに、ミスターたちと出会うことなくギルドまで来ちゃった。寄り道なんかするはずないのに…。あたしはちょっと不安を感じながらギルドの扉をくぐり、受付に向かった。


「お二人ならギルマスとお話を済ませて帰られましたよ」


受付の言葉に不安が増す。


あたしが受付に聞いている間に、アリサがギルド来ていた冒険者から情報を仕入れてきたようだ。

「マスターたちは、ギルドを出たところで誰か二人の男と会っていたようです。連れだって一緒にいくのを見かけたといいます」

「どこに行ったんだろう…」

「街中で戦いになっているなら、騒ぎにならないはずがない。きっと町の外にでたのかと」

エマの言葉に、あたしは町の出口にむかって掛けだした。途中で出会わなかったのだから、あたしたちが来たのとは反対側の出口に違いない。アリサとエマもあたしに続く…いや、あっという間にあたしを追い抜いていってしまう。

「ちょっと待ってよー」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ダガーを持った男が、前掲姿勢をとり、短槍をもった男がゆっくりと僕たちの方に歩を進め始めた。


まずはレールガンだ。大気中では、銅貨一つでアニメのように車を吹き飛ばすほどの威力は出ないと思うけれど、命中すれば身体に大穴が空くことは間違いない。槍やダガーで防ごうとしても消し飛ばせるだろう。続けざまに二人に向かってプラズマと化した銅貨を放った。


投げナイフはもちろん、弓矢も、そして僕が今まで放った光の針や槍よりも速い速度、熱で膨張する大気の音を置き去りにして、プラズマの流れが二人を襲う。


プラズマの光を見てからでは遅い。僕の手の動きを見て反射的に避けたのであろう。二人とも左右に跳んで、レールガンを避ける。避けた後から大気の熱膨張による風圧が二人を吹き飛ばし、二人の距離が空いた。


相手の距離が空いたのをチャンスと見たトールが、短槍の相手に向かって突進する。一対一の戦いに持ち込もうというのだろう。それを見て、僕もダガーの男に向かって突進だ。光る盾を前に出し、左手に銅貨を握りこんでいる。こんどはもっと近くからレールガンを撃つ。避けられるはずがない。


そのとき、僕の視界の隅に、丘の上のノアたちの姿が入った。



★★ 109話は3月4日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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