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11 魔術師、魔物を討伐する



馬車の前方でトールとノアが話している。

「ノア、ミスターの訓練だ。適当な魔物を探してくれ」

「なんでもいいのかなー」

「群れじゃないのを頼む。もちろん近くに強力な魔物がいないことが必要だ」

「了解だよー 」

「俺はタルトさんに了解をもらっておく」


小走りに、トールが僕らのところにやってきた。

「なにかありましたかな、トールさん」

「いや平穏無事です」

「では何か」

「実はミスターが今回は初めての仕事なので、安全そうな場所でちょっと経験を積ませたいのです。少し時間をとらせてしまいますがよろしいでしょうか」

「ああ、どうぞおやりください。馬での移動は久しぶりでちょっと一休みしたいと思っていたところです」

「ありがとうございます、ミスター、出番だ、ノアがすぐに適当な獲物を見つける」

「ミスター様、初陣ですな。ご武運を」

ちょうどそのとき、ノアがこちらに向かって叫んだ。

「トール!見つけたよー」

「お、早速か。それではタルトさん、ちょっと一休みしていてください」

「ゴード、すまんがちょっとの間ひとりでタルトさんを頼むぞ。万一があってもいいように、回復できるソアを連れていきたい」

「わかった…」

「ソア、一緒に来てくれ、ミスターの初陣だ」

「楽しみだわ」

「ミスター、ノアと合流だ」

そういうとソアと一緒にノアの方に走りだした。僕もあわてて走り出す。腰に下げているレイピアが揺れて足にぶつかり走りにくい。日本刀みたいに腰に差した方がいいのかな。

「どこだ、ノア」

「左前の丘の頂上付近。このあたりでこの大きさの反応だと角兎だと思う」

「まわりに他の魔物はいるか?」

「いない、こいつ一匹だけ」

「よし、ミスター、やるぞ、ついてこい」

トールと一緒に丘を登る、低い丘なのでなんということもない。ノアとソアが少し離れて付いてくる。恥ずかしいことにならなければいいのだが。

「あれだ、見えるか」

トールの指さす方向に小さな兎がいる。ただ額に10センチほどの角が生えている。


おお、初魔物、異世界だ~


「弱い魔物だが気性は荒く、角を向けて突進してくる。それさえ避ければ子供でもやれる」

「魔法でいきなりやるってのは?」

「それでもいいが、ここはレイピアでやってみろ。直接殺す感覚を憶えるんだ。魔法だと殺した感覚がうすい」

「どんな感じで始めたらいい?」

「相手が気がつくまで近づく。レイピアはあらかじめ構えておけよ。角兎がおまえに気がつくと頭をさげて突進の構えに入る。突進してくるのをしっかりと見て、左右どちらかに避ける。避けたらすぐに振り向いて角兎を見る。角兎は突進を避けられると、止まって振り返り、もういちど突進しようとする。この止まったところをレイピアで突くんだ。胴体ならばどこでもいい。突くときの注意は角にあてないようにすることだな」


トールに促されて角兎に後ろから近づく。気配か足音か、僕の接近に気がついた角兎が頭をあげ周囲を見回して、僕を発見した。僕の方に身体を向けると、角を前にして突進の構えにはいる。距離は5メートルくらいか。レイピアを構えて前傾姿勢をとる。その瞬間、角兎が消えた。いや、消えたのではない。僕の予想をはるかに超えた速さで突進してきたのだ。とっさに右に身体をそらす。かろうじて避けられたが、バランスをくずして尻餅をついてしまった。はっとして、あわてて振り向くと。すでに角兎は止まっていて、こちらに向きを変えようとしている。僕は立ちあがろうとして手をついたまま、這うように角兎に向かっていく。角兎は向きを変え終わって突進の構えに入っている。


まずい、遅れた!


僕は狙いもつけずに倒れ込みながらレイピアを突き出した。片手で突きだしたレイピアは運が良かったというべきか、角兎の眼を貫いた。ぐにゃっという嫌な感触に続いて、何か液体が僕の顔をぬらした。角兎が狙っていた僕の胸の位置に「トクギ」でとっさに不可視の障壁を展開したのでレイピアを外しても僕がやられる恐れはなかった。不可視の障壁というのは僕の超能力で発生させるバリアみたいなもので、運動エネルギーや慣性を無効化し通過させない。つまり動いていて質量を持つものはこの障壁で止まってしまう。しかし、なんとも無様な初勝利だ…


「おう、少しばかり予定とは違うやり方だったが、ちゃんと倒せたじゃないか」

トールが笑いをこらえている。

「ミスターの初勝利だねー」

ノアは笑っている。

「どんな形でも、勝ちは勝ちです」

と無表情なソア。

「お怪我はないでしょうか。回復を掛けましょうか?」

「あー、必要ないよー、ソア。かすり傷もなさそうだし」

「そうですか」


ノアさん、グッジョブです。

回復魔法を掛けられたら、干渉魔法が僕に効かないってことがばれてしまうかも知れない。


「ではこれを使ってください」

ソアがハンカチを差し出した。僕はそれを受け取ると顔をぬぐった。

「すみません、後できれいにしてお返しします、ソアさん」

「そのまま持っていてください。回復の必要がなくて何よりでした」

そう言い残して馬車の方に戻っていった。

「ミスター、怪我とかしてない?」

「ああ、大丈夫だ。ノアの機転で回復を使われなくて良かった。顔にかかったのは血ではなくて眼球の中の液体だったのかな。毒性もなさそうだ」

「回復も干渉魔法だからね、怪我がなくても術者には魔法が効かなかったことが判るかも知れない」

「やはり」

「ポーションなら効くと思うので、何本か渡しておくね。怪我をしたときに使ってね」

そういって、小さなガラス瓶を4本ほど渡してきた。

「これは…飲むのか」

「たぶんミスターは飲んでも効かないと思う。直接怪我に振りかけてね」

「ポーションか…後で仕組みとか説明してくれるか」

「機会をみてね説明してあげるね。あ、それから、そのハンカチ、ソアがとってもとっても大切にしているハンカチだからなくさないようにね」

ノアは角兎の死体を魔法の炎で燃やした。

「他の魔物が血の臭いで集まってくるからね」


そうか、アンデッドやゾンビになるとかじゃないんだな…

それとソアだけれど、そんなに大切なハンカチをこんな事に使って良かったのか…

なくさないように気をつけよう…


「反省会は後だ、さっさと戻るぞ。こっちの都合で馬車の足を遅らせちゃあまずいからな」

トールに追い立てられ、僕は馬車の所に戻った。

「お疲れでした、ミスター様」

「ありがとうございます、タルトさん」

「初陣としては合格です。恥じることはありません」

「タルトさんも経験があるんですか?」

「まさか、わたしは商人ひとすじですから。ただ、何回も旅を重ねていますから、初陣の冒険者もたくさん見ています。最初の魔物で命を落とした冒険者も大勢います。トールさんはミスター様をとても大切にあつかっていますね。今後も精進してくださいませ」

「ありがとうございます」

再度お礼をする。

「ところでタルトさんは僕の雇い主なんですから、様づけは止めてもらえませんか」

「とんでもありません、ミスター様はわたしの大切な取引相手です。憶えていますか、出会った時に譲ってもらった瓶を」

「あ、ペットボトル!」

「はい、あれは懇意の貴族様に金貨100枚で引き取っていただけました。ミスター様からは今後も何かが期待できそうなので、わたしにとっては重要な取引相手です。ミスター様と呼ぶのは当然のことなのです」

「そうですか…ご期待に添うよう精進させていただきます」

僕は頭を下げた。


100枚だって!

ええと、面倒くさいな…2400000円か!

コンビニ袋も買ってくれないかな…

機会があったらタルトさんに聞いてみよう。


「そうだ、タルトさん」

「なんでしょうか、ミスター様」

「あの角兎の強さはどのくらいなんでしょうか?」

「町の不良たちが度胸試しと小遣い稼ぎで狩っていますね」

「不良ですか…」

「ええ、広場にはいませんが、スラムに近いたまり場にたむろしている10歳位の子供たちが連れだって狩っているのをときどき見かけます」

「10歳ですか…何人くらいで狩っているんですか?」

「いえ、度胸試しですからね、ひとりで狩るのです。仲間は回りで見ているだけです。小さな女の子もひとりで狩っていますよ。防具もつけずに木の槍一本で良くやれるものです。それと不良ではありませんが、トールさんは7歳のときから狩っていたそうです」


ちょっとだけ付いた自信が消え去りました…


★あとがき(撮影現場にて)

★キャラを使ったショートコントです。邪魔と思われる方は読まずに飛ばしてください


ノア:「ちわー」

あっ、こら、ここは出演者は立ち入り禁止!

ノア:「次回は、あたしがただのアホな子じゃなかったという伏線回なんだよね」

ノア:「主人公のヒロインへの…」

ネタばらしは…、ロケ弁に肉串5本つけるから、はやく戻って、撮影始まるから。

ノア:「またねー。あっ、10本にしといてねー」

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