104 魔術師、反撃開始
ソアたちが治安部隊の兵士を連れて戻ってきた。キーファーの亡骸を見せて、冒険者同士の決闘であった旨を伝える。ゾンデルの件は伏せておいた。王国でもそうだが、国はギルドに干渉することはない。冒険者同士のいざこざにも基本的に無関心である。今回のケースも、一般住民に被害はなく何の騒ぎにもなっていないことから、兵士はキーファーの亡骸を回収しただけで、僕へのお咎めは特に無かった。最も上官と思われるを兵士が僕に言った。
「ギルドへは我々が知らせておく。ギルドの処分については、我々の関知するところではないが、何らかの沙汰があるだろう。それまで町を出ることのないようにな」
兵士たちが帰ってからしばらくするとトールたちもギルドから戻ってきた。
「供述書の力は絶大だな。ギルマスも俺たちの言うことを信じてくれたようだ」
「それでギルドはどうするつもりなのですか」
「やはり治安部隊に届けて何とかするしかないそうだ。ギルドだけで勝手に犯罪者を処断はできないからな」
「でも、その治安部隊が町長と通じていたら…」
「その可能性もギルマスに話したさ。結局、治安部隊の元締めに話を持って行くしかなさそうだ」
「元締めって…」
「治安部隊の本部だな、帝都にある」
「帝都って…何日かかると…」
「そこでミスターのテレポートだ。すまんがミスター、ギルマスを連れて帝都に行ってくれ」
「テレポートのことをバラしちゃうの?」
ノアが抗議するように言った。
「気にしないさ。スライムの件以降、王国の上層部や軍には魔法と思われてはいるが、テレポートや飛行のことは知られてしまっている。当然、帝国にも知られているだろうからな、今更だよ。幸い、王国も帝国も自分たちだけのところに止めていてギルドには口を閉ざしているので助かっているけどね」
「ギルマスに知られちゃうじゃない」
「まぁ、口止めはするさ」
「そう言うことだ。早速ですまんがミスター、俺と一緒にギルドまで来てくれ。ギルマスを待たせてあるんだ」
僕はトールと一緒にギルドに向かい、供述書を持って、ギルマスと共に帝都へとテレポートした。
まずは帝都のギルドに行き、事情を説明した。帝都のギルマスはすぐに治安部隊の本部に我々を案内して総隊長に僕たちを引き合わせてくれたので、キーファーの供述書を提出するとともに、ギルマスが町の治安部隊隊長の不正の疑惑を伝えた。
翌日、総隊長はゾンデルの取り調べを当地の治安部隊に命じると共に、隊長が不正を働いている件について調査をすることを決定した。
隊長の不正については調査員を派遣するという。調査員の到着まで待てないので、僕はテレポートの件を打ち明け、二人の調査員と一緒にゾンベルグの町に戻ることにした。テレポートのことは皇帝に報告されるだろうが、皇帝はすでに知っているはずだ、帝国が口止めをしてくれることだろう。
「ギルドのマスターから詳しい状況を聞き、明日一番で治安部隊の詰め所に行くつもりです。隊長の任を一時的に解いて、私が取り調べをします。その間に私の副官に治安部隊を率いさせて、ゾンデルとやらを捕らえることにしましょう」
ギルマスが付け加える。
「俺は町長のとこに言って話をしよう。ゾンデルを捕らえる間は何も出来んようにするつもりだ」
「では、僕たちは」
「ミスターたちには引き続きウェルナー一家の保護を頼みたいのだが」
「わかりました。できればゾンデルの捕縛に参加したいくらいですが…」
「騒ぎの当事者だからな。そこは我慢して結果を待っていてくれ」
打ち合わせを始める調査員とギルマスを残し、僕は宿へと戻り、トールたちに事の顛末を報告した。
翌日、僕たちは結果の報告を待っていた。ゾンデルの捕縛に突いていきたかったのだが、調査員に止められたので、仕方が無い。昼頃になって、調査員の副官が宿を訪ねてきた。
なんと、ゾンデルに逃げられたという。
「だから、あたしたちも一緒に行っていれば…」
ノアの言葉に調査員が詫びる。
「面目ない。同行した兵士の中にゾンデルと通じていた者がいて、土壇場で奴と一緒に逃亡されてしまったのです。ギルドの協力で、緊急依頼を受けた冒険者と一緒に治安部隊が行方を捜していますが、まだ捕縛に至っていません」
「町長は?」
「そちらはギルドマスターがずっと張り付いているので、息子を守ろうとしても何も出来ないはずです」
「何かして貰った方が手っ取り早いけどねー」
「無茶を言うな、ノア。ターニャたちがいるんだ、危険は少ない方がいい」
「町長については、執務室の帳簿類を押収して取り調べる予定です。不正に絡んでいれば必ず証拠を見つけ出します」
「緊急依頼が出されたっていうことは、俺たちもゾンデルを捕まえにいけるってことだよな」
「ターニャちゃんたちの守りはどうするのですか、トール」
「あたしは捕まえに行きたーい!」
「奴も破れかぶれで何をしてくるか判らん。守りは固めておきたい。奴を捕まえに行くのは…ミスターにノア、それと…アリサ…」
トールの言葉を聞いて、僕は言った。
「いや、アリサは宿の周囲を警戒していて欲しい。代わりにエマに来て貰うよ」
「承知いたしました」
「主殿の望みとあらば、よろこんで」
僕とノア、それにエマでゾンデルを捕まえに行くことになり、ターニャの守りはトールたちに任せた。
「で、そこから探すの?」
「そうだな、まずは奴の屋敷に行って、どうやって逃げ出したか、そこから調べてみようか」
街道はもちろん、町の外周辺は治安部隊が固めている。そう遠くに逃れてはいないだろう。まずは奴の屋敷から初めて、ノアの魔力感知で街中をしらみつぶしかな…
★★ 105話は2月20日00時に投稿
外伝を投稿中です
https://ncode.syosetu.com/n3559hz/
王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




