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101 魔術師、窮する

転移すると同時に剣を振り下ろした。これが躱されるだろうということは、織り込み済みだ。見えない剣は受けることは不可能とキーファーには知られている。これを躱してからの反撃をテレポートで避けて、元の位置に戻る予定だった。しかし、剣を振り下ろす前に左脇腹に打撃を受けた。キーファーは構えた槍を最小の動きで引き戻し、石突きで突いてきたのだ。障壁で止めたにもかかわらず、身体が押し戻され、振り下ろした剣は空を切った。相手の動作が最小の動きだったためだろう、障壁はダメージを通さなかった。しかし、運動量を消去しきれなかった。追撃を避けるために、剣が空を切ると同時に元の位置にテレポートで戻った。あの動作の打撃でこれだ、力のこもった突きならば障壁を突き破るに違いない。


「縮地…いや、まさか転移魔法か。お主の構えは素人同然で、なぜ剣でエンダーを倒せたのか不可解だったのだが…剣士と見せかけて魔術師だったのか、お主は」

「エンダーには戦う前に魔術師とバラしてしまったけれどね」

「それにしても今の手応えで無傷とは、たいした鎧だな、安物にしか見えんのだが」


エンダーが誤解したように、鎧の性能で防いだと思ったようだ。まだ障壁のことはバレていない。多少の想定外はあったが、予定通り今のをフェイントにして再度の奇襲を掛ける。今度も右後方だ。右利きの槍の構えでは、穂先を向ける暇はないはず。先ほどと同じように石突きで攻撃してくるか、躱してから穂先での突きがくるか、いずれかに違いない。土塊の盾があれば、再度のテレポートで相手の足下に転移し、攻撃をすることができるだろう。そう、あの女騎士を倒した攻撃だ。


「安物だよ」

そう言うと同時にテレポートした。僕が消えると同時にキーファーは自ら仰向けに倒れ、上を見上げる姿勢になった。土塊の後ろに隠れたつもりが、下からは丸見えである。槍の力のこもった突きが下からせまる。テレポートは間に合わない。必死に身体をねじって躱すが、再び脇腹に一撃を受けてしまう。


槍の穂先が僕を貫くことはなかった。その代わり、僕の身体が上空へとはじき飛ばされる。あぶなかった。念のための保険で助かった。テレポートの直前に、重力コントロールで体重を事実上ゼロにしておいたのだ。その結果、障壁が突き破られる前に僕の身体がはじき飛ばされたという訳だ。飛ばされながら再度テレポートで元の位置に戻り、体重を元に戻す。その隙でキーファーは起き上がり、再び対峙する。


「よく躱せたな」

「こちらの手はお見通しって訳か…ならば、こうだ」


右手で剣を構えながら、左手で光の針を作り出してキーファーに向かって投げる。キーファーは槍の柄の中央を持って回転させながら横に跳んで避ける。避けきれない針は、槍によって払われ、いくつかの爆音と閃光を発し、煙を残して消滅させられた。


光の針の威力では無理か…


そう思った瞬間、キーファーの槍が目の前に迫る。キーファーが投げつけてきたのだ。とっさに剣で横に払ったが、斬れすぎる剣の欠点が露わになった、槍ははじき飛ばされることなく、ただ剣によって両断され、そのまま僕に向かって直進してきた。必死に躱すが、穂先が、そして続いて切断された柄の後ろの部分が左肩に命中する。柄の方は障壁が完全に機能し、そのまま下に落ちたが、穂先の方は障壁を突破し、浅い傷を負ってしまった。


戦いに影響するほどの傷ではない。突進して反撃をと思ったが、すでにキーファーは戦いの前に突き立てておいた2本目の槍を引き抜いて構えていた。

「斬れすぎる剣も考え物だな。切断するだけではじき飛ばせない」


キーファーが突進してくる。一旦距離を取って体勢を整えないとまずい。僕は上空にテレポートして、そこに留まる。キーファーが投げてくるナイフを躱しながら、今度は光の槍を作り出し投げつける。槍で払っても無事ではすまない威力のはずだ。


針よりもわずかにかかる時間で、キーファーは避けるしかないと判断し、後方に跳躍する。光の槍は先ほどまでキーファーがいた地面に突き刺さり爆発を引き起こした。閃光と煙、そして土埃、これに隠してキーファーの周囲に黒く小さな球体をいくつか作り出す。煙と土埃が納まりキーファーの姿が見えるようになったとき、再度光の槍を投げる。これを避けようとして、黒い球体、マイクロブラックホールのひとつにでも触れれば僕の勝ちだ。


キーファーは周囲に浮遊する黒い球体に目をやると、光の槍に向かってナイフを投げた。それが命中すると同時に槍は爆発し、閃光が納まった時にはキーファーは黒い球体をかいくぐって、その囲みから脱して立っていた。


マイクロブラックホールは長時間維持できない。やむを得ず黒い球体をキーファーの方に向かって移動させ、内部のブラックホールを消滅させると同時に黒い球体の障壁も消す。ブラックホールの消滅時にわずかに残されたエネルギーが解放され、黒い球体が爆発する。さすがのキーファーも爆風に飛ばされ、体勢を崩すも、僕の姿はしっかりと捉えたままで、槍も手放さない。


僕はキーファーから離れた位置に、ゆっくりと着地する。


「今度は空中浮遊か。おとぎ話の魔術師のようだな。なぜ、空からの攻撃を続けんのだ」

「空からの攻撃は避けられてしまうからな。避けようもない範囲攻撃は発動までに逃げられてしまう。街中に逃げられれば、周囲を巻き込むような魔法は使えない。ここで決着をつける方がましだ」


僕にトールほどの剣の技量があればテレポートを使った奇襲が威力を発揮するのだろうが…障壁と剣の威力に頼った素人剣法の奇襲では通用しない。そもそも、障壁はすべての物理攻撃を無効化できるはずなのに、ドラゴンといい、エンダーといい、そしてこいつも一撃の威力がありすぎだ。体重をゼロにすればはじき飛ばされるだけでダメージは受けないことはさっき実証されたが、こちらの物理攻撃の威力もゼロになってしまう。何か、泥縄でもいいから障壁を強化する工夫が必要だ。


突破できないはずの障壁を突破してくる。一定以上の速度と力が原因であることは明らかだが、その理屈が判らない。理論がわからないので、障壁を複数個重ねて張ればいいとは確信が持てない。障壁をひとつ突破したときに、速度と力が減衰する保証がない。通用しなかったときは命がないのだ。ダメ元で試して見る訳にはいかない。


とりあえず、黒い球体をいくつか発生させ、僕の周囲を旋回させる。球体の内部にマイクロブラックホールは作っていない。ただのブラフ、時間稼ぎだ。


「エンダーの刀も脅威だったが、あんたの槍も大した物だな」

「お主の魔法の方が驚きだ。その回っている黒い物はなんだ。触れたらまずいと直感が告げているのだが」

「ちょっとした手品さ」

「転移魔法といい、空中浮遊といい、その手品とやらは幾つあるんだ」

「そいつは見てのお楽しみってことで…」


会話で時間稼ぎをしながら必死で考える。障壁強化の工夫を…。



★★ 102話は2月14日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

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