表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/175

100 魔術師、キーファーと戦う

キーファーは窓の隙間から僕の顔を確認すると、踵を返して去って行く。とっさにキーファーが立っていた場所にテレポートすると、僕は彼の後を追った。


すぐに彼の後ろ姿を捕らえ、声を掛けた。

「キーファーか」

彼は立ち止まって振り返る。

「そうだ。素速いな」


「口封じのために、ゾンデルに雇われているのか」

「山賊のときはな」

「では今は?」

「お主と手合わせをしたい。一対一でな」

「アリサやエマが承知しない」

「そいつは困るな。わしはエンダーほど自信家ではないのでな。アリサとやらはともかく、エマも一緒に相手をする気は無い。勝てる気がせんのでな」

「僕もひとりであんたと戦う気は起こらないのだが」

「お主が勝ったら、わしが証人になっても良い。まぁ、そのときに命があればの話だが」

「なんの証人だ」

「奴が山賊と手を組んで、あの嬢ちゃんを誘拐しようとしたこと。そして山賊の口封じをわしに依頼したこと。これでも戦う気にはならないかな」

「あんたを殺さないようにして勝つのは難しそうだな」

「簡単ではわしが困る。わしに勝てるならば、損はない話だ。上手くいけば証人が手に入る。わしが死んで証人になれなくとも、今より困ることはない」

「あんたに勝てなかったら、僕が困るじゃないか。死ぬのは願い下げだ」

「負ける気などないくせに…。お主たちが証拠など持っていないことは判っているぞ。山賊を襲ったときに何も手に入れていなかったはずだ。わしの証言がなければ、いつまでもゾンデルを始末できんぞ。ここは奴の町だ。時間が立てば何をしてくるか…」

「なぜ僕と…エンダーの仇ということか」

「仇を討つ義理はない。ただ、エンダーを倒した男だからだ。わしだけではない。エンダーに勝ったと言うことは、そういうことなのだ」

「この場であんたに降参して負けを認めたんじゃ駄目かい」

「わしを馬鹿にするのか」


いずれ戦うことになるかも知れないと思っていたが、とうとう戦わざるを得ないようだ。


「明日の朝、日の出の時刻に町の南の入り口で」

「今ではないのか。罠など張るつもりなら止めておけ。そのときは証人にはならんぞ」

「そんなつもりはないさ。一対一で真っ当に戦うよ」

「ひとりで来いよ。お主がその気でも、あのアリサとやらがお主ひとりで戦わせるとは思えん。必ず邪魔をするだろうからな」

「承知した」

僕の返事を聞くと、キーファーは闇の中に消えていった。



「キーファーだ」

「キーファーって、あの槍使いの?何しにきたのよ」

「落ち着け、ノア。山賊討伐の時の奴の依頼人はゾンデルだ」

「山賊の口封じというわけか…」

トールの言葉に

「じゃぁ、今度はあたしたちの口封じに雇われたってこと」

「いや、そうじゃないようだ」

「じゃ、何よ」

「奴が証人になってくれそうだ。ゾンデルと山賊が組んでいたということのな」

「ラッキーじゃん、これでゾンデルをやっつけることができるよね」

「そいつはありがてぇ…が、ただじゃあるまい。条件はなんだ?」

トールが真剣な表情に変わる。

「僕と戦って、僕が勝てば証人になるそうだ」

「命までは掛けない勝負ってこと」

「いや、命がけだよ」

「そんなのって、ミスターが不利じゃん。向こうは殺すつもりで戦えるのに、ミスターはキーファーを殺せないじゃん、証人にするには」

「僕も手加減はしないさ。証人にできなくても今より困った事になる訳じゃぁない。上手くいけばラッキーということで」

「わたくしも共に戦います」

「すまんがアリサ、一対一が条件なんだ。一緒に来るのは駄目だ。僕ひとりで行く」


皆が沈黙する。


「心配するな、僕の力はみんなが知っているものだけじゃぁない。負けたりはしないさ。ちょっと作戦を考えたいので、この後はひとりにしてくれないか」

そう言って僕は部屋を出ると、宿の受付で新たに部屋をひとつ借りた。


作戦を考えるというのは言い訳で、みんなと、特にノアと話をするのを避けたかったのだ。僕がピンチになれば必ず勝負に手を出そうとするだろう。冒険者は生き残ってこそ。卑怯も汚いもない。エンダーやキーファーは冒険者というよりは、僕の世界で言うところの武芸者なのだろう。証人とするには、手出しをさせてはまずい。明日の朝に戦うことを言わなかったのは、そのためだ。



どう戦うか、眠れぬ夜をすごし、僕は朝を迎えた。


空が明るくなり、もうじき日が昇るという頃になり、僕は窓を開け、上空へとテレポートした。町の南の入り口に向かって飛行する。入り口でキーファーが待っているのが見えた。キーファーから見えない位置に着地し、歩いて入り口に向かう。


「早いな…」

「来たか。ここでやるのか」

「いや、通行人が来ると面倒だ。あそこの丘の向こうでどうだ。罠を疑うのならあんたが場所を選んでくれ」

「お主を疑うわけではないが、そうさせてもらおう。向こうの丘の先ではどうだ」

僕が示した丘とは街道を挟んで反対側の丘を指し示した。僕が頷くと、キーファーは先に立って丘の方に歩き始めた。僕が後ろから襲うとは考えてもいないようだ。もちろん、そんなことはしない。


丘の頂を越えて下って行く。町の入り口が丘に遮られて見えなくなったところでキーファーが立ち止まった。こちらを振り返る。キーファーは何故か槍を3本ほど手に持ち、背中にも一本背負っている。2本の槍を足下に突き立てると、残りの一本の槍を構えた。

「ここらでよかろう」

僕は黙って剣を抜き、足下に振り下ろす。偽装の鉄剣が砕け散り、柄だけが残ったように見える。キーファーには正体をあかしてある。見えない剣を隠す必要は無い。そもそも剣で戦うつもりはない。キーファーから見れば素人も同然だろう。超能力全開で戦わせてもらうつもりだ。僕はいつも通り障壁で身体全体を覆った。


キーファーの得物は槍。そして腰にショートソードを下げている。背中の槍と、地面に突き立ててある槍も忘れてはいけない。おそらくダガーなどの投擲武器も持っているだろう。投擲武器では僕の障壁は破れない。問題は槍とショートソードだ。エンダーの一撃は障壁でも防げなかった。あの女騎士の一撃も危なかった。キーファーも油断はできない。障壁に頼るのは危険だ。ドラゴンのように、宇宙まで一緒にテレポートするか…。しかし、一瞬の間で相打ちにされる恐れもある。いざとなったら周囲一帯、この丘もろとも奴を消し飛ばすつもりで行く必要がありそうだ。ノアに言った通り、手加減する気はない。とりあえず、いつもどおりテレポートでの奇襲から入ることにしよう。


僕は見えない剣を構えて、少し後ろに下がり、距離をとってキーファーと向かい合った。

「では始めようか」

言い終わると同時に、キーファーの右後方にテレポートした。



★★ 101話は2月12日00時に投稿


外伝を投稿中です

https://ncode.syosetu.com/n3559hz/

王女と皇女の旅  ~魔術師は魔法が使えない 外伝~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ