97 魔術師、心配する
干渉魔法が効かないという、あり得ない現象を見せられたせいで、物的証拠があるという、はったりとしか思えない主張を否定しきれなくなったに違いない。干渉魔法無効という事実を見せなければ、交換などに応じることはなかっただろう。
ゾンデルは、この屋敷での交換を主張した。奇襲用にテレポートの基準点を設けておくなどの準備は封じられてしまった…。
時間は明日にでも連絡するという。やはり、こちらの宿は承知しているようだ。僕たちは宿に戻って連絡を待つことにした。
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「なんだ、あいつらは。干渉魔法がどうして効かない。どんなトリックなんだ」
「何か我々のしらない魔道具でも使っているのかもしれません」
「魔法無効の魔道具など、帝都の城を守っているとの噂の代物なんぞ巨大なもので、とても持って歩けるような代物じゃぁないぞ」
「まてよ、あいつら、魔術師はひとりだけと思ったが、全員が魔術師で、単に鎮静状態にしていただけじゃないのか」
「いえ、それはありません。仲間が干渉魔法を発動するのに紛れて魔力感知をして見ました。ノアという小娘は別ですが、それ以外の2人の魔力は微々たるものでした。あの男に至っては感知すらできないほどの量です。絶対に魔術師ではありません」
「そうか、となると、干渉魔法についてはこちらが一方的に不利という訳だな…。そうなると弓などの遠距離武器を揃える必要があるな。あと、例の奴にも連絡を取っておけ。仕事をしてもらうとな」
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「なんで干渉魔法が効かないってバラしたの」
ノアに追求された。
「ありえない事実を見せて相手の動揺を誘ったのさ」
「でも…」
「おかげで交換という結果になっただろう。冷静に考えれば交換など拒否したはずだよ。それに、もしかしたら、僕たちの仲間全員に干渉魔法が効かないと誤解してくれたかもしれない。戦いになったら有利だと思わないか」
「あたしなら、何を言われても、とりあえず使って見るけどな。敵の言うことを信じちゃいけないよ。まず撃ってから考える」
「エンダーの、装備も実力のうちに並ぶ名言だな。撃ってから考えるか…」
「そう、考えるんじゃない、まず撃つんだよ」
16歳の少女の言うことか…
怖い世界だな、ここは…
「アリサ、近くにいるか?」
「ここに」
路地の影からアリサが合流した。
「ターニャちゃんは先日と同じ部屋に。今度は姿も確認しましたから間違いありません」
「すごいな…どうやって底まで忍び込むんだ。もしかして、ターニャを助け出してきてってお願いしたら簡単に解決しちゃう?」
「マスターのご命令でも、不可能なことはございます」
「そりゃ、まぁ、そうだよね…冗談だから忘れてね」
冗談とはっきり言っておかないと、命を捨てる気で助けに行きそうで…
宿に戻ると、トールとソアもギルドから戻っていた。
「ギルドは大騒ぎで大変でした」
「なにかあったのかなー、ソア」
「特設の掲示板が出ていて、冒険者たちが集まっていましたね」
「特設?」
「最近になってドラゴンが帝国のここかしこで騒ぎを起こしているそうです」
「ドラゴンが人里に出てきてるの?」
「なんでも帝都のスラム街が消し飛ばされたとか…」
「それで討伐依頼?」
「いえ、調査ですね。なんでもかんでもドラゴンのせいにされているようで、真偽を確かめる依頼がほとんどですね」
「おもしろそうじゃん、今の問題が解決したら、それ受けてみようよ」
「話が脱線してるぞ。ターニャちゃんを助けなきゃ何もはじまらん」
「そうですね、それで見届け人の件は?」
「なんとかギルマスの確約は得られた。あとは日時を伝えるだけだ」
「その日時ですが、相手の連絡待ちです。証人とターニャの交換です。ただ、場所は奴の屋敷で…」
「奴の屋敷って…罠を張って待ってるぜってことじゃねぇか。それはともかく、良く交換に応じたな」
「ミスターが上手いんだよー」
「かわりにこっちの手の内もひとつ知られたけどね」
「手のうち?」
「ミスターに干渉魔法が効かないってことだよー」
「交換に持ち込むための方策で…。でも、僕に効かないってだけじゃなく、僕たち全員に効かないと勘違いしてくれたかも知れません。相手が干渉魔法を使わなければ多少は有利になるかもしれません」
「俺ならなんと言われようと、機会があればまず使って見るけどな…」
「そうだよねー、考えるんじゃない、撃ってから考えるんだよねー」
「ところで、ゾンデルの屋敷が舞台なのは確定なので、中の様子を確認しておきましょうか。アリサ、たのむぞ」
アリサが見てきた範囲で、ターニャちゃんのいる部屋の位置など、屋敷の間取りなどを報告してもらい、全員で共有した。その後は明日以降にそなえて休むことにした。ギルドにいる捕虜の見張りはトールとゴード、エマが交代でやってくれるという。
その間に作戦を立てておけっていうことかな…
女性たちが部屋にもどり、トールは酒場に出かけた。部屋に残ったアリサに僕は尋ねた。
「屋敷にキーファーはいなかったか?」
「姿は見ません」
「そうか…すまんがキーファーが泊まっていないか、街の宿を調べてくれないか」
「かしこまりました、マスター」
アリサも部屋を去り、僕ひとりが残された。
杞憂であればいいのだが…
★★ 98話は2月6日00時に投稿
外伝を投稿中です
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王女と皇女の旅 ~魔術師は魔法が使えない 外伝~




