0.01章 0.03話-新たな道標-
咲とのやり取りを思い出す桧璃。
諒と話している内に彼の笑顔と咲の笑顔が重なる。
かけがえのない絆、その温かさを感じながら彼女は……。
私と刹那は同じ隊で行動した。彼女の強さを見ながら研究を重ねる。見様見真似だが彼女と同じ動きをしてみせる。彼女ほど速くは無いけど力には自信があった。
咲:「もう……模擬戦くらい手を抜いてくれても良いじゃない。」
12歳の少女にボコボコにされる19歳の女。本当に刹那は強かった、私じゃ10回に3回取れれば良い方だ。彼女の何処にそんな強さが?
刹那:「咲は強い、もっと自信持っても良い。」
最初は嫌がっていた彼女も徐々に私に打ち解けてきていた。そんな彼女が可愛くなって私は刹那を抱きしめる。
咲:「ありがとう、刹那。今日も可愛いね!」
刹那:「やめて、気持ち悪い。」
相変わらず毒舌なのは変わらないけど……それでも態度は少しずつ軟化してきた。
咲:「刹那、髪伸ばしたら?きっともっと可愛くなるよ。」
その言葉に彼女は首を傾げていた。
刹那:「戦うのに邪魔でしょ、このくらいがちょうど良い。」
もう……わかっていないなぁ、この子は。
咲:「髪は女の命なの、私みたいにほら……サラサラだと男も寄ってくるわよ?」
刹那:「咲が男と話す時はいつも戦闘の時だけでしょ、普段は私だけじゃない。」
咲:「……う!」
痛いところを突かれた。どうせ、私に恋人なんて居ませんよ。あーあ、だれかこんな女でも拾ってくれないかな。
咲:「とにかく、髪は女の命だよ!だから、それまで刹那は髪を伸ばすの!絶対にその方が可愛いから。」
興奮して私は刹那に詰め寄った。彼女は心底嫌そうな視線を此方に向ける。
刹那:「可愛いって……私に必要?」
その言葉に私は思わず言葉を失った。
刹那:「私はただアイツらを殺すだけ。殺せばいいだけ……そんなもの、私に必要?」
黒崎:『彼女は“兵器”だよ。』
黒崎さんの言葉が私の頭の中に響き渡る。たぶん、彼女は兵器として育てられた。だからこんなことを言うのだ。違う、あなたは兵器なんかじゃない!
咲:「必要だよ!」
その言葉に刹那はじっと私の目を見つめる。そんな怖い顔したってダメ。
咲:「あなたは女の子だもの、必要なの!絶対に必要、私が絶対って言ったら絶対なの。」
刹那:「なにそれ……ワケわかんない。」
彼女は冷静にそう言ってため息を吐いた。どちらが年上かわらない。だけど、刹那には必要なものだよ。絶対に……あなたには必要なの、こんな“力”なんかよりも絶対に!
刹那:「わかった……わかったから離れて。」
むう……刹那って小学生か中学生くらいの癖に随分と大人っぽい。
刹那:「髪、伸ばせば良いんでしょ?」
少しだけ照れたように彼女が言う。可愛い……本当に自分の娘のように思っていた私はしっかりと刹那を抱きしめた。
咲:「そうそう、刹那はその方が絶対可愛いから。」
刹那:「……。」
刹那は何も言わずに私を受け入れてくれていた。本当に可愛いんだから、もう……。
5年前くらいだろうか……過去の出来事を思い出していた。自分が仲里桧璃ではなく刹那として生きていたあの頃。幸せだったのだろう……私は初めて自分のことを“兵器”として扱わない人間と出会った。過去の私は……彼女と過ごした時間をどう思っていたのだろうか?今の彼と同じく私を普通の女の子として扱う数少ない人間との出会い。
桧璃:「……ふふ。」
彼女を思い出して笑っていた。咲ってば本当に面白いヤツ。私に一生懸命、女の子はこういうものだとかああいうものだのとか……色々教えてくれていたな。
咲:『きっと……いつかあなたのことを理解してくれる素敵な人……出来ると思う。』
彼女の言葉を思い出して私は笑う。咲ってば、エスパーか何かだったの?本当におかしいと思ってしまう。部隊の控室に戻ってくるとテーブルの上に突っ伏して寝ている諒の姿がある。最近頑張っているみたい……あんまり無理しないで欲しいけど。
桧璃:「あんまり無防備だと……襲っちゃうぞ?」
手をワキワキさせながら彼に近づく、気づかれていないみたいだ。
桧璃:「さて、どうしてやろうかな……。」
思いきり悪戯してやろうと思ったけど……。
桧璃:「……可愛すぎなのよ、あなた。」
寝顔を見ているとそんな気は起きなくなってしまった。咲も……こういう気持ちだったのかな?諒に上着をかけてやる。何をやっているのだろう、私は?控室で彼は別に生身の身体になっていない。エーテルボディだから感覚は常に遮断されている……寒さや暑さも感じないというのに。まったく……調子が狂う。私は彼の隣の席に座った。
諒:「あれ……先輩?」
桧璃:「ごめん、起こした?」
彼は背伸びをしてからゆっくり上体を起こす。自分の身体にかけられていた上着に気づいた諒。私の方をじっと見つめてくる。
諒:「あぁ、すみません気を遣ってもらって。」
桧璃:「いいわよ、別に……どうせ意味ないでしょ。」
諒:「いえ……とても温かいですよ。桧璃先輩の気遣い。」
私は一瞬、不覚にも照れてしまった。ナマイキ……可愛い後輩くんの癖に……。
桧璃:「明日、たまにつき合いなさい。もう二度と私にナマイキなこと言えないようにしてあげるから。」
私は彼からスーツの上着を奪い取ると素早くその上着に袖を通した。最近、忙しくてまったく2人きりの時間がとれなかったから……たまにはご褒美、あげないとね。
諒:「ナマイキ言ってすみません、でも……本当のことですから。」
桧璃:「……。」
私は彼の表情にときめいてしまった。その笑顔があの人と重なる。何よ、後輩の癖に……私、これじゃ本当に……普通の女の子じゃない……。
諒:「先輩……俺、もっと強くなってあなたが戦わなくて済むようにしますから。」
私の後輩はナマイキにそんなことを言うと此方の身体を引き寄せてしっかりと抱きしめてきた。私を勝手に抱きしめたのは……あなたで2人目……。
桧璃:「期待している……私の愛しい、諒。」
彼の背中に腕を回す。そうだ……今の私は兵器じゃない。彼にとっては普通の“女の子”。本当にそんな生き方が出来るなら……私は……。
咲と刹那は徐々に打ち解けはじめて……?
少しずつ変化していく刹那、咲は刹那の心を救えるのだろうか。