0.01章 0.01話-命を刈り取る者-
仲里咲は戦場で少女と邂逅する。
その少女はたった1人でその場を支配する。
まるで生命を刈り取る死神のように……。
それは突然現れた、人類の敵として。街を呑み込み、人の生命を弄ぶ。誰がそう呼んだかわからないけれど、それらをレプリカントと呼んだ。人工的な生命体。まるで何処かの国がこの国を亡ぼす為に造った兵器のよう。何処から沸いて出てきたのかわからないけれど私たちはソレと戦争していた。ある日を境にガーディアンフォースが発足される。そこに私の憧れの先輩は居た。みんなを奮い立たせ、戦場へと駆り立てる。彼女は嫌だと言っていた。自分がみんなを死地へ連れて行くことに……だけど、他に彼女の代わりはいない。代わりは居ない筈なのに……いつの間にか彼女も居なくなってしまった。
瑠璃:「……流石に生身じゃしんどいわね……罰が当たったかな……。」
咲:「瑠璃……どうして私なんかの為に……どうして!」
彼女の黒く長い髪が揺れる。身を挺して私を守ってくれた先輩であり戦友。今では彼女のことを名前で呼び合うほどの間柄。
瑠璃:「あなたに生きていて欲しかったから……。」
意味が……わからない。私と違って瑠璃には恋人も居るのに……どうしてこんな何も無い私を守って?
瑠璃:「たまには……先輩らしいこともしてあげたいじゃない?」
私は涙を流して彼女を抱きしめる。ごめんなさい、私の為に命を捨てさせて……。
瑠璃:「可愛い後輩の為に死ねるなら……本望よ。あなたになら……私が見られなかった明日をきっと……。」
もう喋らないで瑠璃……。
瑠璃:「これ……あなたに……。」
彼女は最期の力を振り絞って私にエーテルウエポンの端末を握らせる。これは彼女の愛用していた武器タイプ。なんでも器用に扱える彼女だけど、これがしっくり来ると言っていたことを思い出す。
咲:「瑠璃?ねぇ……嘘でしょ……。」
瑠璃は返事をしない。私の腕の中で息を引き取ったのだった。泣きたいけど……ここは戦場だ。私は最強と呼び声の高いAラウンダー隊員、瑠璃と同じ肩書でもある。戦場で泣いて戦いに参加しないなんてことは許されない。
咲:「あなたの想い……受け取ったよ……ありがとう。」
彼女から意志を引き継ぐ。いつか私もこの人のように死ぬのだろう。決して安らかには生きられないかもしれない。でも、きっとその時までは……。
咲:「私があなたの想いを引き継ぐ……この生命に賭けて。」
己を奮い立たせて立ち上がり、エーテルウエポンを起動させる。自分の身の丈ほどある大斧だ。バトルアックス型のエーテルウエポン。
咲:「私、先輩って柄じゃないから……あなたみたいに上手く出来るかわからないけど……頑張って生きて……私もあなたのように……。」
かっこよく死にたい。どうせこんな地獄のような世界で何も出来ずに死ぬくらいなら……私はあなたのようにかっこよく死にたい、そう思った。
咲:「……夢?」
ゆっくりと目を開けると光が眩しい。朝みたいだ。いつの間にか昨日は寝てしまったのだろう。瑠璃……私は頑張って生きている。あなたに救われたこの生命にはあなたの意志が宿っている。だから私も必死に戦って、生きて……誰かにこの意志を引き継いで貰いたい。
咲:「Sラウンダー?」
黒崎:「あぁ、Aラウンダーよりも上の名誉なラウンダーに与えられる称号だ。」
瑠璃の恋人だった黒崎さん……随分と変わってしまった。最近では何かと忙しそうに研究ばかり夢中になって……瑠璃が死ぬ前までは優秀なラウンダーだったのに。どうして彼は研究部門に転属してしまったのだろうか……戦場が嫌になったのだろうか?わからないことでも無い、2人はとても息が合っていた。私生活でも戦場でも……。
黒崎:「君が一番相応しい……彼女の意志を引き継ぐ者として……。」
私は……その申し出を受けることにした。瑠璃……見ていて、私も必ずあなたのように生きて見せる。
Bラウンダー:「仲里さん、この先にレプリカントが……もうこっちは手一杯です!」
咲:「わかった、今から行くからもう少しだけ持ちこたえて。」
私は敵をなぎ倒して、前へ進む。
少女:「お兄ちゃん!いやぁああああ!」
咲:「……!」
誰かの悲鳴、私は悲鳴のする方へ駆けつける。小さい女の子が……泣いている。
咲:「ごめんなさい……助けてあげられなくて……ッ!」
自分の無力さを嘆く。レプリカントを討伐する際に小さく声を漏らす。私は彼女のお兄さんを救ってあげられなかった。でも……この娘だけは何とか生き延びて欲しい。すぐに救助を要請する。早く……早く敵地に向かわなければ……ダメだ、間に合わない。このままじゃ全滅してしまう。マズい……こんな状況初めてだ。
黒崎:「刹那を出せ!」
通信に彼の声。刹那?なんのことだろう。ええい、今は考えている暇も惜しい。私は戦地へと向かう。そして……私は出会ったのだ。この世の“不条理”と言うものに。目的地へ辿り着くと……。
咲:「なんなの……これ!?」
私は思わず声を上げてしまった。大量のレプリカント残骸。まるでこれじゃ……殺戮だ。圧倒的な力の差。まるで引きちぎられたような無残なものまである。今まで応援を要請していた仲間も唖然とそこに立ち尽くしている。
咲:「どうしたの……何があった?」
Cラウンダー:「バケモノです……あれは……人間じゃない!」
咲:「……しっかりしなさい!死ぬわよ!」
私は彼の頬を少しだけ強く引っぱたく。こんな戦場の真ん中で立ち尽くしたら間違いなく死んでしまう。私は他の隊員たちにも呼び掛けるがまったく彼らは動こうとしない。どうしたというの?すると奥の方で戦闘の音が聞こえる。私はその音のする方へ駆けていく。そして……ソレを私は見た。
咲:「……!」
歳にして10代前半、小柄で身の軽そうな暗めの短い茶色い髪の少女。少女なんてものじゃない、とんでもなく美しい。可愛いというか……息を呑むほどの美しさ。まるで絵画や彫刻のように美しい。そしてそれとは逆に目の前で行われている“狩り”は戦闘じゃない。相手をいたぶるように彼女は最後の一体を討伐した後だった。
咲:「これ全部……あの娘が1人で?」
嘘でしょう、ものの10分程度……1人で捌ける数じゃない。だって100体以上は居たのよ?こんな小さく華奢で子供の彼女が?
少女:「……?」
少女が静かに私の方に視線を向ける何も喋らない。私はその視線から不思議と目を離せなかった。なんて不思議な目だ……表情を一切読み取れなかった。声をかけようとすると彼女は無言で私の横を通り過ぎる。もう仕事は終わりだというように……これが、私と刹那の初めての出会いだった……。
咲は刹那という少女と邂逅する。
この出会いが互いの運命を大きく変えていくことになろうとは……。