0.01章 0.09話-明日を生きる-
諒と桧璃の初めての出逢い。
咲と出逢った時のような大きな運命の変化を感じる桧璃。
そして再び時は動き出す。
私は狙いを定めて屋根を突き破った。そこには……私と同じくらいの歳の男の子とレプリカントが対峙していた。どうしてかその光景を見て不思議な感覚にとらわれた。既視感というか……なんというか。説明し難い。男の子が此方に気づいて視線だけを私に向ける。随分と冷静な表情だ。
桧璃:「伏せて。」
彼は咄嗟に私の言葉に合わせて身体を伏せる。よし、良い子。私は壁を蹴り上げて思いきり大鎌を振るった。横一閃、綺麗にレプリカントの上半身と下半身が分かれる。彼は起き上がるとズボンの埃を叩いて落とした。
桧璃:「大丈夫、怪我は無い?」
不思議な目……アレを前にして随分と余裕があるものだ。あのCラウンダーにも見習わせてあげたいくらい。
???:「大丈夫です、ありがとうございました。」
なんだろう……この子、何処かで会ったことが?不思議な感覚にとらわれる。
桧璃:「……。」
???:「……?」
彼を見つめると不思議そうに彼も此方を見つめる。彼からは不思議と他の人間と違って私を畏怖するような視線を感じない。いや、レプリカントを前にしてあの余裕……何か不思議な感じがする。まさか……今回私が出撃になった理由は彼?
桧璃:「あなた……。」
不思議な縁は続いた。アトラス製薬の任務を請け、敵地へと赴く。Cラウンダーの1人と戦闘に入る。スーツの頭を守る防具を斬り伏せた。その顔はこの間の不思議な少年。
桧璃:「……つくづく不思議な縁ね。」
私は彼と戦闘に入る。この男……間違いなく強い。それに……この私を相手に手加減をしている?舐められたものね!彼に向って必殺の一撃を与えようとして……。
桧璃:「……!」
急いで後方へと跳び、距離をとる。首が……とられそうになった。ハラリと束ねていた髪が風に吹かれて、私の長く自慢の髪は飛び去っていく。
桧璃:「……。」
私は彼を思わず睨みつけた。よくも私の髪を……髪は女の命だ。そう教わっていたから。本気を出して彼とぶつかった。戦闘後、玲に声をかけられる。
玲:「桧璃、髪修復するね。」
エーテルボディの斬られた髪を玲が修復してくれるらしい。斬られた髪を撫でる。昔の出来事を思い出した。私と……咲が初めて出会った時のことを……。
桧璃:「別にいい……このままで。」
玲:「どうして?その髪型も似合うけど……。」
桧璃:「この方が戦いやすいでしょ。」
嘘を吐く。本当は彼のことが気になって仕方が無い。
桧璃:「女に髪を切らせた悪い男には……ちゃんと責任をとって貰うから。」
本音が思わず口からこぼれた。これが私と彼の出会い、不思議な運命。今になって咲の言葉を理解する。私にも素敵な人が出来ると。その頃の私はまだそんな実感など沸いていなくて彼の“強さ”に純粋に惹かれていただけ。でも……。
諒:「桧璃先輩?」
桧璃:「ちゃんと聞いている。少し……昔のことを思い出していたの。」
目を開けて彼の瞳を見つめる。綺麗で真っすぐな瞳。私はこの純粋で真っすぐな彼が好きだ。彼も私のことを大好きと言ってくれた。先輩であり、女でもある私は彼に複雑な想いを寄せている。今は彼とデートに来ているのだった。
桧璃:「ねぇ、好きって言ってよ。」
諒:「……急ですね。」
彼は照れつつ、視線を逸らす。
桧璃:「へぇ……それじゃ、普通の先輩と後輩で良いの?」
悪戯っぽい笑みを浮かべる。こんな風に男の子に甘える日が来るなんて思いもしなかった。
諒:「好きです、愛していますよ。もちろん。」
彼が私の手をしっかりと握る。合格上げてもいいかも。
桧璃:「……ねぇ、私の過去……刹那の記憶。あなたに話しても良い?」
なんとなく話したくなった。あの頃の出来事を。私と咲の出会いの話。そして悲しい最期の結末まで。私は……彼に全部知って欲しかった。
諒:「先輩が話してくれるなら。」
私は彼にあの日の出来事を話した。
諒:「……そんなことが。」
彼は複雑な表情を浮かべていた。今までは彼もこんなに表情を表に出してくれることも無かったというのに……。
桧璃:「なんだか、似ているね……私たち。」
テーブルの上のストローが包まれていた紙でボールを作りながら私はそれを人差し指でころころ転がす。私が刹那から桧璃になった記憶。もし刹那としてあのまま生きていれば私は……こんなにも彼のことを好きになれたのだろうか。
桧璃:「前にも言ったでしょ?私は桧璃でもあり、刹那でもある。咲との出会いが無ければ……今の私はどうなっていたのかな?」
指で丸めたストローの紙をピンと弾く、その紙は彼の手にコツンと当たった。
諒:「きっと……変わることはなかったと思います。」
彼はそう断言する。どうして?私が刹那として生きていれば……あなたとこうして話をしていることも無かったかもしれない。
諒:「咲さんが桧璃先輩の言うとおりの人なら……先輩を放っておくことなんて出来ないでしょ。きっと……偶然じゃなくて必然だったんですよ。」
必然か……確かに、咲って本当にあんな感じだったから……。
桧璃:「良いこと言うね……後輩くん。とってもナマイキ。」
私は彼の額をつんと突いた。
桧璃:「それじゃ、私たちの出会いも必然だったってこと?」
今、私はとても女らしい表情をしているだろう。自分でもわかる。だって……こんなにも胸がときめいているのだから。
諒:「そうなるべくしてこうなった。きっとそういうことだと思います。“もしも”なんてことは今の俺たちにとって無意味ですから。」
彼は私に微笑みかける。私たちはこうなるべくしてこの道を歩んだ。もしそんなことがあったのならば、と過去を思い悩むことをせず前を見て歩いていこう。そんな風に言われた気がした。
桧璃:「そっか……諒がそう言うなら、そうなのかもね。」
空を見上げる。とても綺麗な青空が広がっていた。咲、私は今とっても幸せだよ。私は明日の向こう側をちゃんと彼と歩んでいく。だから……見守っていてね。
以上で物語は完結です。
ここから本編に続いていきます。
読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!