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ラッキーベル  作者: ふじ ゆきと
第二章 ダンスコンテスト
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ダンスコンテスト その8

 火曜日の夕方、四人は最初に打ち合わせをしたあの喫茶店に集まっていた。

「なんだか今でも夢みたい」

 沙友里はいつものお洒落しゃれな名前の飲み物をストローでかき混ぜながら、予選当日の事を思い浮かべ微笑んでいる。

「確かに。それに数週間の出来事とは思えないよ」

 今日の徹はブラックコーヒーではなく、クリームソーダだ。

『なんで俺の飲み物もクリームソーダなんだよ』

 ちょっと遅れて喫茶店に来た俊介はそう思いながら、クリームソーダに入っているアイスを長いスプーンですくおうとしていた。

 夏樹が決勝の案内用紙を皆の方に見せながら、

「次はいよいよ決勝。テレビに出るのよ」

 喜びを強調した。

「もう二週間をきっているな。曲は今まで通りだから、さらに踊りを仕上げよう」

 俊介の言葉に三人は頷いた。店内にあるテレビでは夕方のニュースが流れている。アナウンサーは少し興奮気味だ。店員もお盆を抱えながら、テレビに見入っていた。どうやらココットの出身国と日本との関係がさらに悪化する問題が起きているようだったが、俊介達は全く気にかけることなく今後の練習の話をしていた。二国間の問題が自分たちに関係してくるとは誰も思っていない……。


 次の日からいつもの空き店舗で練習を再開した。練習内容は主に通しのダンスを繰り返しながら、動きのチェックをするというものだ。

 何回か通しで踊ると動きにもますます余裕が出てきて、クールさが増していく。しかし練習を再開して数日たった時、俊介はわずかな違和感が気になった。

「踊りに余裕が出てきて、ますますクールさが出てきたのは良いんだけど、それによる弊害へいがいも出てきたみたいだ」

「どういう弊害?」

 夏樹は順調な流れを妨げられ、苛立つように問いただした。

「クールさだけではなく、雑味ざつみが出てきてしまっている」

「相変わらず頭が……」

 夏樹の言葉をさえぎるように、

「頭が良すぎて言ってる意味がわからん。とか言わなくていいから」

 自分が言おうとしていたことを俊介に言われ、夏樹は顔をそむけた。

「慣れて余裕が出てきたから、所どころにオリジナルな動きが混ざってきてしまっているんだよ」

 俊介が分かりやすく説明すると、

「良いじゃない、より良い動きを考えて踊っているんだから」

 夏樹は顔を突き出して反論した。

「新しい動きを全員でマスターして踊るのなら良いんだけど、それぞれが自分なりにオリジナルの動きをしてしまうと、自分では良いと思っていても綺麗じゃなくなる」

 沙友里は素直に相槌あいづちを打ちながら聞いていたが、夏樹は自分が責められているような気持ちになり、さらに反発した。

「それじゃ、同じ振り付けばかりでつまらないじゃない」

「振り付けを変えちゃいけないとは言ってないよ。夏樹さんが考えた振り付けを皆で練習して、ポイントに気を付けながら忠実に踊るんだ」

 夏樹は理論的に話してくる俊介の言葉が少ししゃくだったが、言っていることは納得できた。

「夏樹さんが考えた振り付けを教えてよ」

 俊介は何の悪気もなく聞いたが、

「急にそう言われても、出来ないわよ。ちょっと休憩するね」

 と俊介に背を向け、カバンの中からペットボトルを取り出して飲みだした。

「なに怒ってるんだよ……」

 そうぼやいている俊介に、

「相変わらずお前は鈍感だな」

 徹がささやくと、横でそれを聞いていた沙友里も苦笑にがわらいしている。

 気持ちを落ち着かせた夏樹は俊介と目を合わせず自分の考えた振り付けを説明しはじめた。

『どうせまた考えた振り付けにダメ出しをするんでしょ』

 夏樹はそう思ったが、俊介は全ての振り付けを組み込むため手足をゆっくりと動かしながら考えている。ふと、目が合った。

「あとどんな振り付けだったっけ?」

「えっ、あとはこうかな」

 俊介は夏樹の動きを真剣にみている。

『私は誤解していたのかな。いつも私がやりたいって言うことを、真剣に考えてくれているだけなのかも……』

 今回も一生懸命な夏樹の希望を聞き入れてくれる。それは俊介の性格というか基からくる行動だった。ありふれた言葉で言えば、俊介らしさと言うのが近いかもしれない。


つづく……

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