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溢れる生活感

 カイルから魔道具を貰ってからしばらくが経った。


 魔道具はとても便利で、私がそのお礼を言うと、彼はとても喜び、それとともに魔道具をどんどんと作っていった。もちろん、全て生活用のものを。



 風を巻き上げ、埃や塵を吸い込む魔道具。


 浄化の魔法を組み込んで水を使用せずに洗濯できる魔道具。


 

 どこからその発想が出てくるのかというほど次々に彼は作り上げていく。

 

 それに、作って終わりではなく、改良も同時にやっているようで、動作は徐々に安定していくうえ、大きさも小さくなるものがほとんどだった。



 

 カイルは魔法具に関してまさしく天賦の才を持っているだろう。

 いくら父親から教えて貰ったとはいえ、初めて作る戦闘用の魔道具も凄まじいスピードで作り上げていた。おそらく、設計図が頭の中で描けてしまうのだろう。それも、かなり精密に。

 

 

 これらの生活用の魔道具はサイズも小さいから一見作るのが簡単そうに思える。

 だが、一度中を見せて貰った時はかなり緻密な設計になっていた。

 

 彼は何でもないように言っていたが、正直常識が覆されてもいいほどに衝撃を受けたのだ。衝撃的すぎて、その時のことを昨日のことのように思い出せる。




◆  




「カイル、この魔道具とても便利よ。本当にありがとう」


 そう言うと、彼は満面の笑みで喜ぶ。


「本当かい?それはよかった」


 声も弾んでいる。こちらまで嬉しくなってきた。

 だが、一つ疑問に思ったことがあったので聞いてみる。

 


「けど、これって魔法で動いてるのよね。魔方陣って複雑にすればするほど魔力の消費が大きくなるはずなんだけど。

 この魔道具は火の大小を操作もできて、こんなにも小さいのになぜ長い時間動かせるの?」



 魔方陣は複雑にすればするほど魔力を消費する。ロスが大きくなるともいう。

 


 例えば、火の玉を放つだけでも『火』、『大きさ』、『形』、『距離』といったように複数のルーン文字を魔方陣に書き込み、魔法を定義する必要がある。

  

 この文字が多くなればなるほど、難解な言葉になればなるほど力のロスは増え、魔力の消費が大きくなる。


 

 故に、いかに綺麗に合理的な魔方陣をかけるかが貴族の腕の見せ所になり、その家固有の魔法にも繋がっていく。

 


 だからこそ不思議だ、この魔道具のように火を多くしたり、小さくしたりというのは一見簡単に見えてかなり複雑な構成になり、その魔力消費量故にすぐに消えてしまうはずなのだ。


 しかし、一回の補充で一日の全ての料理を簡単にできるほどに燃費がいい。



「ああ。これまでの魔道具では貴族と同じように、いかに効率的に一つの魔方陣にルーン文字を刻めるかを大事にしてきた。でも今回のは違うんだ。これはね、複数の魔方陣に文字を一つずつ刻んであるんだよ。そうするとね、最小限のロスで魔力を起こせるんだ。」



「それは……有形魔方陣だからこその逆転の発想ね」



「そうだ、貴族が魔法を使うときはほとんどが無形の魔方陣、そして、人が集中してそれを使う必要がある以上一つの魔方陣という制約が大原則だった」



 確かに、無形の魔方陣は維持するのに集中力を必要とするうえ、その上に文字も刻む必要があるため複数を同時になんてのは到底できない。   

 だが、有形の魔方陣がほぼ普及していない状態でその発想ができるのはとても凄いことだ。

 恐らく、常識的すぎて誰もこの答えにたどり着いた人はいないと思う。



「すごいわね、カイルは。前から思ってたけど貴方は天才だと思うわ」



「いや、最初は作りたいものはあってもこの問題を解決する手段が思いつかなくて途方に暮れていたんだよ。

 でも、ふと君が料理をする姿が浮かんでね。材料を組み合わせて作るというところからこの考えに至ったんだ。だから、君のおかげだよ」


 彼は、そう言って優しい眼差しでこちらを見る。


 少し照れ臭い。





「そうだ。でも、それだけじゃないんだ。

 君が来てから、一日にできる試験の回数や種類が格段に増えたから分かったんだけど、実は魔力というものは魔方陣から抜け出そうという性質を持っているようでね。

 普通に魔方陣に魔力を注ぐとかなりの量が抜け出てしまう。有形の魔方陣がすぐに壊れてしまうのもこの出て行こうとする力の負荷が主な原因だ」



「だから、その出て行く魔力も取り込めればもっと効率的に魔法を運用できると思ったんだ。

 この魔道具は主となる動力に魔力を蓄える性質を持つリチウス鉱石を使っている。

 そこから魔方陣に魔力が供給されるんだけど、魔方陣から魔力を逃がさないために魔方陣の外縁部をまたリチウス鉱石で覆っているんだ。

 そして、そこで蓄えた魔力は再び主の動力に戻るようにしている」



「こういった構造だから、これまでとは遥かに効率よく魔法を使用できるんだ。

 それこそ、貴族じゃない俺でもこの魔道具は十分使えるくらいに」





「…………それって歴史を揺るがすくらいの大発見なんじゃないの?」



「そうなのか?よくわからないけど、君が喜んでくれているならそれでいいんだ」


 唖然とする私。相変わらずのカイル節にしばらくの静寂が続いたのは言うまでもない。





◆  





 彼はそれからも同じような仕組みでたくさんの魔道具を作っている。

 だが、私が魔力を供給する量はその数に全く比例しておらず、最近ではかなり余るくらいだった。


 生活が便利になるのはいいが、ちょっと革新的すぎてこんな家事用品に使っていていいのだろうかとだんだんと不安になる。



 ただ、彼は今はそれしか作る気が無いらしい。というか、戦闘用の魔道具を作ろうとしたら何をしていいか浮かんでこず、手が動かなかったらしい。

 

 

 天才というのはこういう人のことを言うんだなと改めて思わされた。


 

≪家は再び魔道具で溢れていく≫


≪だが、それは以前のように生活感が無いということを意味しない≫ 


≪逆にそれは、二人の生活の証を示すものとなっていたのだから≫ 



まだ終わりじゃないです。そこまで結末は遠くないですが。


というより話が進まな過ぎて総文字数見てびっくりしました(笑)

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