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全てを失った日

この作品について。

少し文章校正の変更及び分量の増加による丁寧な心理描写に挑戦しようとする実験的な意味合いのある作品になる予定です。

※プロットは作ってあるので完結はさせます。

『あの日、私はそれまで持っていたものを全て失った』


『でも、貴方は心すらも持っていなかった』


『だから、私は貴方が人間になるための手伝いをしてあげようと思ったんだ』














 それは突然の出来事だった。

 父が王宮に呼ばれ、参内した後、兵士達が国王の印璽の入った命令書を携えて屋敷に入ってきた。


「クラウディア・ジ・ローゼリア。よく聞け!本日、ローゼリア侯爵家の爵位剥奪及び財産没収が陛下より命ぜられた。ついては、すみやかに屋敷から退去せよ」


 何を言っているのだろうこの男は。爵位剥奪?財産没収?なんだそれは?


「…………どうゆうことでしょうか?」


「お前の父、ジルコニアは本日謀反を企てた罪で捕縛された。後日、処刑が行われるだろう。本来はお前も同罪だが、長年の侯爵家の功を鑑み、死罪は免れることとなった。陛下のご厚情に感謝するのだな」


 父が、処刑?なぜ?頭の中が混乱し、何も考えられなくなる。


「どうか、どうかお待ちを!父が謀反など何かの間違いでございます」


「ええい、うるさい!既に決まったことだ。

 お前たち、こいつを外に放り出せ。今着ている服だけは見逃してやる。他は全て没収だ」


 そのまま、兵士たちは私の身に着けていた貴金属等を無理やり引きはがすと、私の言葉を無視して屋敷の外へ放り出した。そして、何度も戻ろうとすると頭を殴られ気絶させられた。



 

 目を覚ますと道の端に転がされていた。ここはどこだろう?床が硬かったからか、体が痛い。

 

 何が起きたのだろう。何もわからない。

 けど、殴ることなんてないじゃない少し腹が立ってきた。

 しかし、怒りを覚えると同時にどうやら空腹も思い出してしまったようだ。

 お腹から食料を催促する音が聞こえてきた。


 

 ローゼリア侯爵家は建国時から代々王国の財務を担ってきた歴史ある貴族だった。

 私の父は少し頑固で偏屈なところはあったが、謀反を企てるような人では無い。

 おそらく、何かの間違いだ。すぐに解放されると信じよう。

 

 とりあえず、私は私で何か食べ物を確保しよう。そう思って慣れない町並みを歩き出した。 

 


 金品は何も持っていない。酒場や食堂、最後には民家に至るまで訪問し、食事を恵んでもらえないか頼んでみたが、誰も取り合ってくれなかった。


 とぼとぼと夜の街を歩く、いつもは馬車の移動が常で、歩き慣れないためか足が痛くなってきた。

 それに空腹も加わり、もう今にでも座り込んでしまいそうだった。



 そうやって歩いていると、何やらトラブルなのだろうか、男が怒鳴っているような声が聞こえてくる。

 なんだろうと思って近づいてみると、一人の男がすぐ目の前の男に怒鳴っていた。

 その男は顔が赤らんでおり、どうやら酒に酔っているようだった。



「さっきからなんだその目は!お前、俺に喧嘩売ってんだろう。」


「いや。そのつもりは無い」


「嘘つきやがれ!ぶっとばしてやる」


「…………」


 絡まれている側は何を言っても無駄だと思ったのか、息を吐くと、背中に背負った何か大きめの筒のようなものを持つ。

 そして、その直後、様々な大きさの火の玉が揺らめき、酔っぱらいの足元で小さく破裂する。

 

 離れたところからだと闇夜に輝いてとても綺麗に見えるが、目の前でそれを見せられた酔っぱらいの男は恐怖を感じたらしい。

 その顔を蒼白とさせると、そのまま走って逃げだした。


 先ほど絡まれていた男は追うつもりはないようで、筒のようなものを再び背負うと歩き出そうと体の向きを変えた。

 丁度そこにいた私と彼の目がばっちり合う。

 

「なんだ?」


「いっ…いえ。特に意味は無くて」


 突然目が合ったので戸惑っていると、空気を読まない私のお腹がまたその音を響かせた。

 顔に熱が集まる。恐らく、顔は真っ赤になっているだろう。

 男性の前でお腹を鳴らすなんて、貴族の令嬢としてとても恥ずかしい。


 少しの間お互いに沈黙する。


「…………いつのかは分からないが。食べれるだろう」


 男はしばらく沈黙すると持っていたらしい干し肉を分けてくれる。


「どうもありがとうございます。今は手持ちが無いので、このお礼は必ず」


「……必要ない」


「いえ、そういうわけには」


「……なら、この魔道具に魔力を貯めてくれないか?今ので空になってしまった。

 容量が大きいので貯めれるだけでいい。」


 背中に背負っているのは魔道具らしい。あまり見ない大きさだが、特殊なものなのだろうか。


「それくらいなら喜んで」




 

 人は必ず、その身に魔力を宿して産まれてくる。ただ、その内包する量は人それぞれで、遺伝によるところが極めて大きい。極まれに突然膨大な魔力を持って産まれてくることがあるが、本当に極端な例で基本的には両親に左右される。


 そして、この国の貴族はそのほとんどが平民とは比べ物にならないほどの魔力量を持つ。いや、そもそもその魔力量故に、国が興った時に自然と敬われ貴族となったという方が正しいかもしれない。


 特に戦争では魔法戦が主であり、魔法をどれだけ多く使えるかが勝敗を分けることが多い。平民はその内包する魔力が少なく、生活で得る恩恵はそこまで大きくないが、国防という点では無くてはならない重要な要素となっている。





 魔力を魔道具に注いでいく。

 

 当然、私も歴史ある貴族出身であるので、そこそこの魔力を持つ。財務を司る家系なので、貴族の中では落ちこぼれの方だが。

 しかし、魔力を入れ始めた感じからすると、これくらいの容量であれば簡単に満たすことができるだろう。

 

 想像したとおり、魔力が満ちた感覚があったので、男性に返した。

 

「どうぞ。魔力は最大まで貯めれているはずです」


「なに?…………本当だ。これはちょうどいい。

 俺は、カイル。魔道具師をやっているものだ。これを容易に満たすことのできるあなたの力を貸してくれないだろうか。手持ちがないのだろう?住む場所を始めある程度のものなら提供できるはずだ」



 男性、カイルはそう伝えてくる。

 その態度は淡々としており、一切下心があるようには感じられなかった。

 少し迷う。だが、今日、たくさんの人に声をかけたが、助けてくれたのはこの人だけだった。

 あまり知らない男性ということで不安はあるが、私も自衛できる程度の魔法を使えるし、最悪の場合相手が力づくできたもなんとかなる。

 正直、無一文で宿も確保できていないのはかなり痛い。



「いいですよ。でも、短い間しか協力できないかもしれないですが、それでもいいですか?」


「ああ、それでかまわない」


 彼は特に嬉しくもなさそうに淡々とそう言った。


「それではカイル様。私は、クラウディア……いえ、ただのクラウディアです。どうかよろしくお願いいたします」


「様付けはいらない。それに気やすい口調でいい。俺も丁寧な言葉遣いはできないしな」


「そうしま……そうするわ」


「ああ。それじゃあ俺の工房兼自宅に案内するからついてきてくれ」


 彼の後をついていく。とりあえず宿が確保できそうで本当によかった。








 大きな家だ。作りは古く、さらに管理が行き届いていないのか草や蔓が伸び放題のようだが、それでも普通の家に比べてかなり大きい。


「これは……カイルの家は大きいのね。もしかして、地元の名士とかなのかしら?」


「いや、ただ古い家系ってだけだ。元々は貴族だったらしいが、よくは知らない。

 まあ、汚いところで悪いが入ってくれ」


 中に入る。家の中は試作品だろうか。魔道具で溢れていた。

 これほどの数の魔道具は見たことがない。


「ここが台所で、ここがトイレ、ここが浴室だ。

 浴室は地下にある魔道具作成用の炉とつながっている。俺が起きている間はその炉の熱で温かいお湯がでるようになっているからそのまま使ってくれていい。

 それと、部屋はここを使ってくれ。去年までは父が使っていたし、死んだときに一度掃除したから使える状態のはずだ」


 カイルが家財の位置を含め、その他もろもろを補足しながら説明してくれる。

 それと、どうやら父親は既に亡くなっているようだった。



「ここには一人で?」


「そうだ」


「この広い家に一人ってのは寂しくないの?」


「そう感じたことは無いな」


「そう……」


「とりあえず今日は何もしなくていい。ゆっくり休んでくれ。家財も好きに使ってくれてかまわない」


「ありがとう」


「問題ない。俺はほとんど地下室にいる。廊下の突き当りにあるあの扉を開けると階段があるから何かあるようなら呼んでくれ」


「わかったわ」


 カイルが地下に降りていく。いろいろあって少し疲れた。今日はお風呂に入ってすぐ休もう。


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