三章 : 無
何にもない、虚無空間。
僕には、魔法を出して時間を潰すしかない。
炎を出してみたり、風を吹かせてみたり。
また、水を生成したり。
様々な魔法を撃ち続けた。
そこへ1人。全身白の服を着た幼い少女がやってきた。
誰だ?
この虚無空間には、僕しか入れないはず。
となると、この少女はそれを無視して入ってきたことになる。
「こんにちは」
少女は律儀に挨拶をした。僕も挨拶を帰す。
「こんにちは」
少女は笑みを浮かべた。
こんな所で何をしているのか。そう尋ねた。
「なんで…だろう?気づいたらここにいたのかな。」
ますますわからない。気づいたら居たということは、誰かに転送魔法をかけれられたか、あるいは…
「あの、なまえはなんていうんですか?」
僕の名前。唐突に聞かれた質問に答えようとするが、僕は名前を思い出せなかった。
「ごめん…思い出せないんだ。」
そう言うと、少女は笑って、
「だいじょうぶ!」
そっか。と、生返事で返した。
僕は再び、魔法を撃ち始める。
横で少女は「すごーい!」とか、「がんばれー!」と、歓喜の声を上げている。
自分の魔法はすごいと思うけど、これまでそんなに褒められたことがなかったので、あまり実感がない。
と、突然、虚無空間から灯りが消えた。
少女を心配したが、声も聞こえなければ気配もない。
…いや、僅かに気配が感じ取れる。
この、少し先…
「たすけて!」
声が聞こえた。無我夢中で走る。
少女は助けを求め続けている。
「今行くから!待ってて!」
僕もそう叫んだ。
灯りが戻る。
少女は倒れていた。
「大丈夫?!」
必死に少女のそばで呼びかけた。
しかし、反応がない。
「大丈夫?!起きて!」
呼びかけた。時間さえも忘れ、僕はかなり長い間、呼びかけた。
そうして、呼び続けること2時間。
少女は、起きた。
「…ん」
良かった、起きた。そう思っていたのに。
「えっと、だれ…ですか?」
記憶を失った少女。よく見るとその服は、すこし黒い部分が見られる。
何をしても分かってもらえない。そう悟ってしまった。
僕は、「なんでもないよ。人違いだっただけ。」
と言って、その場から立ち去ろうとして、後ろを向いた。
その時、少女に腕を掴まれた。
振り返ると、全身黒の少女。
彼女は光となって消えていっている。
「一緒に、行こうね。」
笑いながら、そう発した。
僕は本能的に、この現実を受け入れた。
そして僕も、光となって消えていく。
やっと、抜け出せる。
僕は、■を失った。