零章ノ壱 : 聲の歌
『聲よ、哀の華は陽だまりの耀へ。無情は残虐、殺戮、凄惨の限りを。天へ、この言の葉を。』
そう歌うように唱えると、依世界は顕現した。正と負の『コトノハ』は依世界を包み、12の魂が顕現。
───こと旧世界に置いては、突然変異の連続によるDNAウィルスが発生し、数多の死者が出た。
世界からは、神に転生するものが選ばれ始め、次々と別の依世界が顕現している。
本来、呼び出せる魂は2つまでだ。最低限の数の魂で、依世界を繁栄させる事が目標だからだ。
しかし、私『歌宮 華』に限っては、魂を12も呼び出せるチート能力を持っている。
12もあれば、世界の繁栄速度は異常なものに達し、200年で過去の中世ほどの文明が栄えるらしい。
『スタッツ。』
【歌宮 華】
『Lv』 : 120/99999
『HP』: 500000/999999
『耐久』 : 352000/999999
『魔素』 : 3000/3000
『種族』 : 神、歌姫、人間
『攻撃』 : 20/99999
『魔法攻撃』 : 10000/99999
『スキル』: 転移Ⅱ、光魔法Ⅴ、神聖Ⅶ、審判Ⅲ、次元門Ⅲ、神耐久Ⅹ、加速Ⅵ、自己蘇生Ⅱ、蘇生Ⅲ、吸収Ⅲ、魔素軽減Ⅳ、詠唱短縮Ⅳ、重複Ⅲ、浮遊Ⅰ、浄化Ⅱ
『エクストラスキル』: 歌姫のコトノハⅡ、顕現Ⅰ、拡張Ⅺ
『肩書』: 神、顕現神、歌姫
「変わってないか…。」
特に変わったこともない。仕方ない。
『アクセラ。』
〘加速Ⅳを発動。倍率が4xに変化します。〙
時の流れる速度は4倍になり、文明の繁栄を見守る。
徐々に建設される街や、商人が市を開くのを見て、安心していた。
しかし、何か障るものがあるのを感じる。
「あれは…!?」
──突然、ドス黒い瘴気が集まり、物語は黒く滲んでしまう。
『解除。』
倍率は元に戻り、普通の速度で時が進む。
『転移。』
林道に降り立った私。瘴気の出る方へと飛び、止まる。
黒い服を着た少女。その目は赤色へと変化している。
『透視。』
【Ωα■■©■】状態異常 : 暴走、オーバーライト
『Lv』 : 500/99999
『HP』: 100000/100000
『耐久』 : 50000/999999
『種族』 : オートマタ
『攻撃』 : 20000+/99999
『スキル』: スキャンⅢ、オーバロードⅣ、スピードⅣ、ダガーⅤⅩ、
『エクストラスキル』: EMP Ⅱ
『肩書』: 顕現された魂《聲》
「強い…」
《聲》の魂。機械少女で、無機質。
可愛い見た目をしているが、表情は豊かではない。感情を感じられないその顔は、どこか狂気を感じる。
──突然少女は距離を詰め、逆手に持ったダガーで、首の根を掻き切ろうとしてきた。咄嗟に『光、瞬閃。』と歌い、その死から回避した。
──と思いきや、予測していたのか先回りをされ、斬られる。
「あうっ!」
とてつもない痛みが走り、その場でうずくまり悶えた。
〚HP 75200/100000〛
───一発で8割以上…
『光、治癒。』
〚HP 99000/100000〛
回復。しかし痛すぎる。
「skill2.」
休む間もなくそう少女が言った途端、一瞬で周りに無数の棘が生え、遅延もなく私に飛来してくる。
『光、瞬閃。』
『光、彗星。』
2つの詩を歌い、そこから抜け出すとともに光速の彗星で反撃する。
少女に当たり、苦しそうにしている。
──今だ。
『浄化。』
少女の暴走状態の解除を試みる。
〘失敗。〙
──ダメか…
「EMP Activate.」
当たる…!
そう感じたときには、歌わず、反射で後ろに引いていた。
攻撃は…当たった…?のか…?
痛みも感じなければ、HPが減った様子もない。
チャンス。そう思い詩を歌う。
『光、閃光麻痺』
…しかし、魔法は発動しない。
──その隙を突かれ、少女の目は血の色のような赤に染まり、「Execution」と唱えた。
地面に叩きのめされ、絶命の一突きを食らう。
「がはっ…!」
吐血。危機的状況に瀕した私は、痛みと痛みで頭が真っ白になった。
〚HP : 199/100000
状態異常 : 麻痺(60s)〛
──もう、死ぬんだな。長くはなかったよ…
正直、もう諦めたかった。
右も左も分からないこの空間で、生き続けなければいけない苦痛に、うんざりだった。
…その時、発動することのないはずのスキルが、発動した。
〘神聖Ⅶを発動。状態異常軽減を適用。〙
〘神聖Ⅶを発動。自動回復を適用。〙
〘神耐性Ⅹを発動。拒絶を適用。〙
〚HP : 2199/100000
耐久 : 999999/999999
追加効果 : 自動回復(1000HP/s 10s)
拒絶(10s)
状態異常 : 麻痺(2s)〛
麻痺の時間が軽減され、残り2秒。
そして、解除された。
『光、閃光麻痺。』
まだ、死ねないか。でもいい。楽しもう。
詩を歌い、少女は身動きが取れなくなる。
そして、あの日顕現したときのように、詩を歌う。
『万物を浄化せよ。天へ、この言の葉を。』
少女は苦しそうにもがき、最後にひと暴れしたが、被害は出なかった。
少女から瘴気が抜け出し、物語から出ていった。
少女はその場に倒れ込み、寝ている。
残った瘴気の一部が、欠片となって落ちる。
割れないように、そっと大切にキャッチし、神界へと戻る。
『神界転移。』
物語は守られ、平和は訪れた。
『聲の物語』が、顕現される。
これは─────
ログを再生。
少女は、瞼を開ける。
その左右には、同型と思われる量産が、無数に確認できた。
戦争をするために量産された決戦兵器。
彼らは【ルース】と名付けた。
彼女たちは、特に感情をプログラムされることもなく、皆一定の音程を保ち、喋っている。
「システムの起動を確認。機体への異常は確認できませんでした。
─戦闘データファイルを確認。
─中央システムファイルを確認。
システム、オールグリーン。」
合成された機械音声がそう告げると、少女たちは歩きはじめ、背中にあるそれぞれの武器を取り出すと、歩き始めた。
──敵国の街に出た少女たちは、早速ダガーを使い、高速で走り、兵士たちを次々と殺害していく。
それはまるで、歩く死。
兵士の横を通ったと認識する頃には死んでいる。
決戦兵器。名前の通りの仕事を淡々とこなしている。
しかし、突然横にいた同型は打ち砕かれた。
原因を1秒で突き止め、0.5秒で加速、0.2秒で敵のスナイパーに到達、0.3秒で瞬殺。計2秒。
人々はこの業を見逃すはずもなく、いつしか恐れていた。
「終わった…のか…?」──兵士
その決戦はそれまでの死や苦労が嘘のように終結し、結果は言うまでもない。
国民は喜んだが、少女たちは感情を持ち合わせていないため、無表情で眠りについた。特異点を除いては。
ログ終了。
特異点は、あの少女。
シンギュラリティは起こっていたはず。
つまり感情も、芽生えていた。
でもなぜ、あんなに無表情だったの?
聞こえるはずもない疑問を投げかける。
〘ステータスの変化を確認。ステータスを表示します。〙
そこまで考えて、思考がシャットダウンされた。もやもやするところはあるが、とりあえず自分のステータスを見る。
【歌宮 華】
『Lv』 : 121/99999
『HP』: 506000/999999
『耐久』 : 355000/999999
『魔素』 : 4000/4000
『種族』 : 神、歌姫、人間
『攻撃』 : 21/99999
『魔法攻撃』 : 10000/99999
『エクストラスキル』: 歌姫のコトノハⅡ、顕現Ⅰ、拡張Ⅺ、機械の聲Ⅰ
『スキル』: 転移Ⅱ、光魔法Ⅴ、神聖Ⅶ、審判Ⅲ、次元門Ⅲ、神耐久Ⅹ、加速Ⅵ、自己蘇生Ⅱ、蘇生Ⅲ、吸収Ⅲ、魔素軽減Ⅳ、詠唱短縮Ⅳ、重複Ⅲ、浮遊、浄化Ⅱ
『隠しスキル』: 状態異常軽減Ⅱ(神聖Ⅶ)自動回復Ⅱ(神聖Ⅶ)、拒絶(神耐久Ⅹ)
『肩書』: 神、顕現神、歌姫
Lv : 120→121
HP : 500000→506000
耐久 : 352000→355000
魔素 : 3000/3000→4000/4000
攻撃 : 20/99999→21/99999
エクストラスキル : 《機械の聲》追加。
隠しスキル : 状態異常軽減(神聖Ⅶ)自動回復(神聖Ⅶ)、拒絶(神耐久Ⅹ)の詳細表示。
攻撃は絶望的なので最初から諦めている。
魔法に攻撃力は寄っているので、まあいい。第一、私は近接攻撃なんてしないしできない。
気になるのは、追加されたスキル《機械の聲》と、隠しスキル各種だ。
どんなスキルなのか…?
『詳細、《機械の聲》』
スキル : 《機械の聲》
無言詠唱が可能になり、末尾に『機械の言の葉よ、提唱せよ。』と付けると、魔法攻撃力が『1.5×スキルレベル』の数だけ倍になり、機械属性を持つ攻撃になる。
機械属性は、他の魔法で相殺されない
「…強くね?」
正直、予想外だった。ここまで強いとは思いもしなかった。他のも見る。
『詳細、状態異常軽減。』
『詳細、自動回復。』
『詳細、拒絶。』
隠しスキル : 状態異常軽減
自分に適用された状態異常を
魔素値50÷(スキルレベル×10)につき1秒短縮。(時限ではない場合は、一律で魔素値500÷(スキルレベル×10))
隠しスキル : 自動回復
スキルレベル×10秒の間、1秒間に1000HPを回復する。
隠しスキル : 拒絶
スキルレベル×10秒間、耐久を最大値まで上昇させるかわりに、攻撃力・魔法攻撃力が0になる。
しかし、こんな力があっても、突然この世界に飛ばされた私には、繁栄させる以外の目的がないし、そもそもそれが目的かもわからない。
先のように戦闘があるのは理解したが、痛みでそのうち病みそうだ。
「…なるようになるか。」
難しいことは考えるのをやめ、私はまた物語を見守り始めた。