7:追憶~出会い~
サヨは、天界にある自室のベッドにダイブし、枕を抱きしめ身を小さくして横になった。
わかんない。どうして、あんなことが言えるの。
「希は、あんなこと言わなかった。」
そう呟き、サヨはハッとした。
イズミの言うとおりだ。私は、彼を忘れられなくて、望を彼に重ねて、同じ過ちを犯すところだった。
「君、僕のモデルになってよ。」
あの日、私は普通に街を歩いていた。
そんな私に、黒髪のあまり目立たないが綺麗な男の子が声をかけてきた。
これが、例のナンパかと私は心の中で頷いていた。
私が何か言う前に、彼は私の腕を掴んで走り出した。
私と希の出会いは、こんな慌ただしくよくわからないものだった。
彼は古ぼけて散らかっている、アトリエへ私を連れて行った。
「ちょっと、そこに座って待ってて。」
希は器用に床に散らかっているものを踏まずに、奥へと歩いていった。
私は不思議と、逃げようという気がしなかった。
座ってと言われても、イスの上もソファーの上も、ものであふれかえっていて座れない。だからといって、どけるのもちょっと図々しい気がした。
「サヨ、逃げねぇのかよ。」
ユキゲは、低い声で私に耳打ちした。
私は、少し首を傾げた。
「う~ん。いいんじゃない?逃げなくても。」
「はぁ!?」
ホントは、逃げる気なんてさらさらなかった。
アトリエにモデル。ここから連想されるのは、絵のモデル。
つまり、私は絵のモデルにスカウトされた。外見がいいってことでしょ。
まんざらじゃなかったから、私の頬は緩んでいた。
隣でユキゲのため息が聞こえたが、気にする気はない。
しばらくして、彼がスケッチブックを持って私の前に現れた。
「散らかっててごめん。」
そう言って、三脚イスにおいてあった物をはらうように床に落とし、私に座るように促した。
私は、緩んでいた頬を引き締めて、イスに座った。
彼は、目の前にあるソファーに座ってスケッチブックを開いた。
「そんなに、堅くならないで。そのままの君を書きたいんだ。」
なんてきざな台詞。
私は、心の中で笑ってしまった。
「いい表情。」
彼がそう呟いた。私は、何を言われたのかわからなくて、首を傾けた。
彼はかまわず、何枚もさらさらと書いていった。
どんどんスケッチブックから切り取られた紙が、床に散らかっていく。
最初のうちは、緊張で自然にするので精一杯だったが、時間が経つにつれてなれていき、暇になった。
思わず、欠伸が出てきた。
それに気がついたのか、彼は少し微笑んでで顔を上げた。
「暇なら、そこら辺のもの見ててもいいよ」
それだけ言うと、彼はまた絵に没頭しだした。
「サヨ~。オレもう飽きた~」
「じゃ、どっか行ってれば?」
私はそれどころではなかった。
いろんなところに散らかっている紙を拾い上げ、じっくりそれを見て、うっとりする。
どれも上手で、独創的で、綺麗な色で、ずっと見ていたらその世界に吸い込まれそうだった。
「どう?」
突然上から振ってきた声に、しゃがんででいた私は思わず尻餅をついた。
私はマヌケな格好と顔のまま彼を見上げる。
彼はクスリと子供のように笑う。
私は思わずそのかわいらしさに見惚れてしまった。
「僕の顔に何かついてる?」
「いや、可愛いなって」
私は意識と別にそんな言葉が口から出た。
「え?」
「え?」
彼が虚を突かれたような顔をしたから、私も首を傾げた。
そこで、さっき自分が言ったことを思い出した。
「あっ!」
両手で口をふさぐ。恥ずかしいせいで体中が熱い。
「いやっ、その、違うの。いや、可愛くないって訳じゃ無くて…。無意識で言っちゃって、その、えっと」
何言ってるのか自分でもわからなくなっている。
彼が首を傾げたの納得ができる。
「おかしい」
彼はクスクスと手の甲を口に当てて笑った。
私はますます熱くなった。
おかしい。変な子に思われちゃったよ、絶対。
「今日、なんか調子がおかしくて、変なこと言っちゃうの。いつもは、こんなんじゃないんだよ。変な子じゃないんだよ。」
私は立ち上がり背伸びをして、彼の顔に自分の顔を近づけて主張した。
こっちの方が変な子に思われる行動だとあとになって気がついた。
「別に僕、変な子なんて言ってないし、思ってもいないよ。面白いなって思っただけだよ。」
「そ、う」
私はゆっくり地面にかかとをつけた。
この時私と彼の身長差に気がついた。
カワイイ顔をしていたから小柄なのかと思っていたけど、そんなこと無かった。私より頭一つは大きい。
なんか負けた感じがして悔しくなった。自慢だけど、私は身長は高い方で普通の男の子ぐらいで、こんな差をつけられたことはなかった。
「ねぇ、このあと時間ある?」
時間ならある。今日はもう仕事が入っていない。
けど、なんで?
「あるけど」
「じゃ、食事に行こうよ」
今はおやつ時だろうか、甘いものが食べたい気がした。
私がそんなどうでもいいことを考えていたら、彼はいつの間にかポケットに財布を突っ込んでいて、私の手首を掴んでいた。
私は彼に引っ張られるようにアトリエをあとにした。