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4:過去のようには、しない

「サヨ!」

天界に帰って来たサヨを迎えてのは、険しい顔をしている同期の天使のイズミとその肩でおろおろしている見習いのシミズだった。

 短い赤毛の髪と着物の袖を揺らして、サヨの側まで来る。

 肩に乗っていたシミズはあまりにも強い振動で、そこから落ちた。

 それに気づいたユキゲは、一目散に助けに行った。

 肩口で切りそろえられている赤毛の髪と、チャイナドレスの裾を揺らして落ちていた彼女は、下で待機していたユキゲの腕にすっぽりと収まった。

「ありがと…です。」

腕の中で、顔を真っ赤に染めてか細い声で弱々しく言う。

「別に、ど〜ってことねぇよ。」

ユキゲは、シミズが立つのを手伝いながらそう言う。

 それを見ていたサヨは、かがみ込みユキゲに耳打ちする。

「何、格好付けてるのさ。」

「サヨ!まだ話しは終わってない!」

「始まってたっけ…」

「口答えは許さん!」

イズミが険しい顔を、ずいっと近づけてくる。

「わかった、わかった。」

サヨは、イズミの肩に手を置いて離れるように押す。

 腕を組んだイズミは、苛立たしげに足をならした。

「あんた、眼を持った少年に会ってたよな。」

サヨは、ぎくっと肩を揺らした。

「まさか。そんなこと無いよ。」

「嘘つき。見たんだから。」

サヨは、気づかれないようにため息をついた。

 一番知られたくないやつに、知られてしまった。

 「サヨ、親しくなってないだろうね。」

またぎくっと、肩を揺らす。

「もちろん。当たり前じゃない。」

と、携帯が軽快な音楽を流した。

 イズミが誰?という眼差しを、私におくってくる。

「せ、セイメイよ。まったく、しつこいの。」

私はそう言って、携帯を開けた。画面に『雨宮望』と表示されていた。

 そう、彼に電話番号とアドレスを教えたのだ。

 私がボタンを押そうとしたとき、イズミが携帯を取り上げた。

「セイメイって言ったよな。」

「それは、その…」

イズミが力強く、バタンと携帯を閉じる。

 私は思わず、肩を震わす。

「サヨ!十年前のこと、忘れた訳じゃ無いよな?」

「忘れるわけ、無いよ。」

サヨの顔が暗くなる。

 心配したユキゲは、サヨの肩まで飛んでいって、頬を撫でる。

 サヨは、ありがとうというように指で頭を撫でた。

 十年前の、あのことは今でも鮮明に思い出せる。

 あのことを知っているのは、サヨとユキゲ、イズミに大天使のヒナガだけだった。

「だったら…!」

「イズミ、そのくらいにして差し上げなさい。」

凛と澄んだきれいな声で、激しい剣幕のイズミが押し黙った。

「ヒナガ。」

後ろを振り返ったイズミの目に、純白のドレスを揺らしながらゆっくり歩いてくる、優しいオーラを身にまとう女性だった。

「イズミ、サヨをあまり責めないでください。」

「だけど!」

「サヨと、ふたりで話しをさせてください。」

色素の薄い金の目が、じっとイズミを見据える。

 イズミは仕方ないというようにため息をついて、きびす返した。

「シミズ、おいで!」

話の内容がまったくわからず、あたふたしていたシミズは一礼して飛んでいった。

 それを見送ったヒナガは、ふんわりウェーブのかかった金髪を揺らし、サヨを見た。

「ありがとう。助けてくれて。」

「サヨ。私も、イズミと同じ気持ちです。

 あなたはまた、同じ過ちを犯すのです?」

「それは…。」

「あなたが、私の友だから言うのですよ。」

サヨは俯き加減のまま、小さく頷いた。

「わかってるよ。のぞむの時みたいには、しない。」


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