39:エピローグ
賑やかな教会。華やかな人。明るい世界。
いつもと違う装いのサヨは、きょろきょろと一緒に来た人の姿を探していた。しかし、この人混みの中見つけるのは難しいかもしれない。サヨはあきらめて、することがなく自分の足下を見た。
かかとが高くバランスがとりづらい靴。膝までの長さの黒いドレス。珍しくおろした髪。普段滅多にしない格好だから、サヨは人の視線が気になっていた。実際、ここにいる人のいくつばかりかの視線が、サヨの方に向けられていた。
確かにサヨの容姿は目立つものだった。金髪の碧眼。この国の人間ではないことは明らかで、目立つ。たびたび、よくわからない呪文のような言葉で話しかけられる。「何いってるの?」と聞くと、驚かれる。そして、今日の主役ぐらいにきれいな容姿。つまり、美人と言うことだ。
注目される理由は、それだけではない。ここにいる九割はサヨのことを知らない。テレビで見たことがあるかもしれないが、もう記憶に薄いだろう。見ない顔だと言うことでも、注目を集めていた。
サヨは一人でいることが、居心地悪くて早く帰ってこないかと苛ついていた。いじいじと胸元にあるネックレスをいじる。最近の癖であった。
今日のコーディネートをしてくれたゆずちゃんは他のアクセサリーをすすめたが、サヨがこれだと聞かなかったのだ。仕方ない。そのネックレスは、大切な人がくれたものだから。
「あれ?一人なの?」
「マスター」
目の前に現れたいつもと違いすぎる星司。頭のバンダナもないし、無精ひげもきれいに剃られている。着ているものも着ているものだった。このためにクリーニングに出したのか、きれいなスーツに、ぱりっとしたシャツ。しかし、そこはやはり星司で、スーツのボタンは全開。シャツはズボンから出ているし、ネクタイは緩い。
「いい加減、星司と呼びなさいよ」
照れくさそうに星司は頭をかいた。
「昔からマスターって呼んでたから、慣れなくて」
サヨはいまだにネックレスをいじっていた。
「望は?」
「トイレ」
不機嫌そうにサヨは口をとがらせた。トイレなら仕方ないけど、こんなところに一人おいていくことないと、不満だった。トイレに連れていけって訳じゃないんだけど、せめて気の許せる人と一緒にしてくれても罰は当たらないと思う。
「そんなむくれないでよ。あいつならすぐに帰ってくるって」
「当たり前よ」
トイレなんかで、そんなたくさんの時間を待たせられたくないもの。
「っと。ゆずが探してたぞ」
「ゆずちゃんが?」
サヨは一段と人の多い場所に目を向けた。その隙間から、純白が見える。
何だろうとサヨは、ふらふらな足取りでそちらに向かう。時折、ヒールのせいで足首がぐきっとなり、転びそうになっていた。
心配そうに見ていた星司は、ふらっと人混みから離れていった。別に帰るわけでもないし、ここにいるのがいやなわけではない。ただ、ふとここから離れようかなと思っただけだった。
「ゆずちゃん、やっぱり綺麗だよ~」
ゆずのところにきたサヨは、顔をゆるませていた。
目の前にいる、純白のドレスに身を包んでいる今日の主役は、照れて目を伏せてしまった。
「ありがとう」
かわいいなぁと、サヨの顔はもっとゆるんだ。
あんなに小さかったゆずちゃんが結婚かと、サヨはまるで母親になったかのように嬉しくなった。
今日はゆずの結婚式にサヨは出席していた。
お相手は言わなくてもわかると思う。まさか、こんなに早くだとは思わなかったけど。
「サヨさんもすてきっスよ」
白いスーツ。燕尾服だっけ?それを着たいつもよりまともそうな了介は、いつものナンパで使うような営業スマイルをしていた。肯定はしたくないが、かっこいい。だからなのだろうか?今までろくに仕事に就けなかった了介が、カフェも店員になれたのは。まぁ、家庭をもつのだから、定職に就いてもらわなくては。いつまでも、ゆずの給料で生活されては困る。
「こら。今日だけでもそれを言う相手はゆずちゃんだけにしなさい」
「大丈夫ッスよ。ゆずは俺が女たらしだってよく知ってますから」
「あんた、結婚するんだよ」
なんか、こんなやつとゆずが結婚するのだと改めて認識すると、不安になる。
了介は友達にサヨのことを話していたゆずの肩に手を回し、自分の方に引き寄せた。もちろん、ゆずは驚いていた。しかし、お構いなしに、営業スマイルじゃない笑顔でピースをする。
「大丈夫ッス。俺はゆずが一番ですから」
「ちょっと…!」
一気にゆずの顔が真っ赤になる。周りで両方の友達の冷やかす声が聞こえる。
なぜだか、サヨも恥ずかしくなった。しかし、安心した。
「おめでとう。二人とも」
サヨは心から、その言葉を二人に贈った。
教会を背にした星司は、その場に固まっていた。
目に映る、長い金色の髪が柔らかく風に揺れていた。いつもと違う格好をしているけれど、いつもの彼女らしさのある服。星司を見る愛おしそうな瞳。女神のような優しい顔。
星司はすべて知っていた。その人を。待っていたけれど、もう会えないかもしれないと思っていた人。苦しくても待つと決めた人。ずっとそばにいて欲しいと願った人。
駆け出さずにはいられなかった。デジャブだと言われようと別にいい。
強く強く、別れの時も再会の時もしたように抱きしめた。存在を確かめ合うように離れてしまわないように。
「ただいま。星司」
その言葉に、星司は目を見開いた。そして、言い表せないくらいの幸せと安心と喜びがあふれ出した。
「おかえり。ヒナガ」
もう、離れることはないんだ。
それなのに、不安はないのに、昔以上に強く抱きしめた。
探していた人をサヨはやっと見つけた。しかし、おかしい。一人じゃない。サヨは振ろうとした手を下ろした。
「ごめんサヨ。ちょっと二人を発見して」
望が説明する前に、サヨは望の後ろにいた二人に抱きついた。姿は以前より少し変わったけれど、見間違えるわけない。大切な友達に再会できて、とても嬉しかった。
「ユキゲ!ウスイ!」
抱きつかれた二人も嬉しそうに、サヨのことを抱きしめ返した。いったい何週間ぶりの再会だろう。まさか、天使になっているなんて。
思う存分抱きしめあった三人は、お互いいろいろな世間話に花を咲かせていた。
その後天界はどうなったのか。今はどうしているのか。その後望とはどうなっているのか。三人はとにかく話が尽きるまで、望の存在を忘れて話し込んだ。
別に、望は早く話が終われと思ったわけではない。ずっと一緒だったいわば親友と久しぶりの再会。つもる話はあるだろう。でも、少し寂しい気がする。嫉妬ってやつかな?
「幸せそうでなによりですわ」
「ああ。一時はどうなることかと思ったぜ」
なんか、申し訳ないなとサヨは改めて今までのことを思い起こす。
たくさんのことがあって、たくさんのことを考えて、たくさんの人に迷惑をかけて支えられて。本当にこれでもかってくらいたくさんのことがあった。
この幸せが嘘のように辛かった。あの辛さが嘘のように幸せだ。違う。どれも嘘ではなく本当のこと。
全部が私。
「あ、そうでしたわね」
「ああ、わ~ってるって」
二人とも、何もないところに話しかけていた。なるほど、昔のサヨ達に当たり前だった光景は、普通の人にはこう見えていたのかと、サヨは一人笑っていた。
「申し訳ありませんわ。仕事がありますの」
「オレも。悪いな」
二人は忙しそうに去っていった。昔の自分がこうだったんだと、サヨは懐かしくなった。
今は人と同じものになって、今はHEARTで働いている。昔のだたの手伝いと違い、お給料をもらっている。
今はアパートで暮らしているけれど、いつかは望のアトリエを買い取ろうと思っていた。
勘違いしないでよ。いまだに希が忘れられないとか、未練があるという訳じゃない。ただ、彼が生きた証のあのアトリエをなくしてしまいたくはなかったから。それまでは、ゆずちゃんに残してもらおうと思っていた。思っていたけれども、その心配はなくなってしまった。ゆずちゃんが、あそこを新居にするのだと決めていた。希の絵は一つも捨てずに大切に保管してくれるって。欲しいならくれるそうだし。希のあの部屋はそのままにしてくれるって言ってくれた。それなら、大丈夫だ。
教会の入り口前に、ドレスの人だかりができていた。ということは、ゆずちゃんの言っていたブーケトス始まるんだ。
サヨと望はそれを遠目に眺めていた。
「なんか、怖いぐらいすべてがうまく収まったね」
サヨの隣で、望がぽつりとつぶやいた。
そうだとしても、サヨは今の幸せを疑えなかった。
今隣に、望がいる。サヨには、それだけで満足だった。他には、何もいらない。
私は人間に恋をした愚かな天使だったのかもしれない。さっき、ウスイから聞いた話では、私は『ブラッティ・エンジェル』と呼ばれているらしい。人に恋をし、禁忌を犯し、翼を落とされた天使。
他の天使はそれを聞いて何を思ったのだろう?しかし、それは私にはわからないこと。心はそんなに簡単なものじゃないから。
ただ私は、恋をした。
その人が隣にいる幸せをかみしめながら、私は老いていこう。
あなたがそばにいれば、私は心を確かめられるから、どうか離れるようなことをしないでね。
私には、あなたが必要で、あなたが苦しいほどに愛おしいのです。
どうも、RISAですw
長かったこの物語も完結しました。
思い浮かんだのが、小6の頃。本当に長い。
テーマは心でしたが、うまくずれた気がします。
しかし、やりきった感がありますね。本当に、もう書くことはないという感じがします。
ちょっと、まだうちは未熟で心や恋とかがわからないので、ちょっと読んでいてきつかったかもしれませんが
読んでいただきありがとうございます
そして、ごめんなさい。うちの文才がなくて…。あったら、もう少しおもしろかったと思います。本当に。
え~、うちのサイトにφ( ̄∇ ̄o)という項目があります。
そこに、この物語の秘話を載せておくので、みたかったらみてください
パスはhotaruですので