34:カプチーノ~エピローグ~
話を聞き終えたサヨは、唇をかんだ。
遠くを見ている星司の顔は悲しさと愛しさに溢れていた。
ヒナガは勝手だ。そう思ったけれど、正しいとサヨは更に強く唇をかんだ。
天使と人間。一緒に歳を重ねることも、同じようにふけることも、一緒に暮らすことも出来ない。
ヒナガのしたことは残酷そうに聞こえた。
しかし、サヨの方が残酷な事をしているんじゃないか。そんなことが頭をよぎった。
「それでいいの?来世だなんて、本気で期待する気なの?」
「…アイツが決めた事だ。俺は、なにも言えないさ」
「そんなのって…!」
あんまりだよ。
そう言おうとしたのに言葉は喉を通っていかなかった。
それが無性にいらついて、サヨはなにも言わずに店を去った。
星司もなにも言わなかった。一人残されて、今更になっていろいろな感情が押し寄せてきた。
おもむろに立ち上がると、店の看板をひっくり返した。今日は、もう店じまいだ。
外を遮断するように、窓という窓を閉め切った。日の光が入ってこない店内は寂しい明るさだった。
来世。
そんなものあるのだろうか?期待するに値するのか?
「言われなくったってわかってんだよ」
ずるずると、星司はその場に座り込んだ。ぐしゃっとバンダナごと髪を握りつぶす。
言われなくったって、わかってるつもりだ。
でも、どうしろと?俺にはなにも出来ない。無力なんだ。無力な人間なんだ。
翼もなければ、特別な力もないし、知識もない。そんな俺がなにを言える?
来世なんか知ったこっちゃないんだ。今を一緒にいたいのに…。それだけなのに。