表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/39

32:カプチーノ~満開の桜~

 ヒナガがいつ来るかいつ来るか、毎日毎日そわそわして待っていた。

 そのくせ、いざ来ると態度が素っ気なくなる。

 それでも最後にヒナガは「また来ます。次もカプチーノお願いしますね」っと、可愛く微笑んでくれた。

 さすがに知り合いも俺たちの仲を怪しんで、からかってくる。別に、そうゆう気持ちがない訳じゃなかったけど、なんか言われると否定したくなる。

「この前、そのお店のケーキがとってもおいしいって聞いたんです」

「へー。今、人気だよな、その店」

「はい。コーヒーもおいしいそうですよ」

「ふーん」

俺はカップをカチャカチャといじっていた。何の意味もなく。

 落ち着かないときの俺の癖だって、言われなくともわかってる。てか、言うな。

 わかってるんだって、アイツを気にしてるって。でも、どうしてもそれを口には出来なかった。そうすることで気持ちが伝わる。でも、どうしてか取り返しがつかないことになる。それも、悪い方向に。

 そんな予感ばかりがよぎって、俺はいつも何も出来なかった。

 話は途切れてしまった。気まずそうにヒナガがコップに口をつける。何かを待っているように。それがなかなか来なくて、残念がっているように。顔が仕草が態度がオーラが、とにかく全てがそう語っていた。俺の勘だが。でも、俺の勘はなかなか当たる。

「……その店、行ったことあるの?」

「あります。でも、店には入ったことが無くて…」

「は?そんなの、行ったことないのと一緒じゃないのさ」

彼女は少し驚いて見せた後、恥ずかしそうに笑った。

 カプチーノはすっかりぬるくなってしまった。

 熱々がうまいのに、コイツは何をしてんだ。なんて、悪態をついてたな。心の中で。

「一人で行くのが恥ずかしくて…。みんな、友達とか恋人とかと、一緒のようで」

「友達誘わないの?」

とたん、ヒナガの顔は真っ赤になった。茹で上がったたこみたい。

 失礼。リンゴみたいに頬が赤くなってかわいらしかった。といった方が、ロマンチックだろうか。

 そわそわ。あたふたあたふた。あきらかに動揺していた。

 もしかしての、もしかして!?

 俺は内心無茶苦茶期待した。今まで無いぐらいドキドキしたしキラキラわくわくした。

「その…」

 きた!

 俺は心の中で絶叫した。

「一緒いく友達はいるんですけど、行けなくて」

へ?

「というか、行ってるんだけど行ってることにならないのですよ」

俺の完全なる勘違いか?え、期待損?

「嘘でしょ~」

頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。

 アイツは知らないにしろ、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。しかも、期待が大きかっただけにショックも予想以上にでかい。

 もう、立ち上がれない。起き上がれない。再起不可能だ。

 あぁ、俺の人生はもう終わってしまった。

「だから…」

いや、星司。お前は男だろ。女から誘われんの待ってんじゃねぇよ。男だろうが。

 俺は勇気を振り出して立ち上がった。

「俺と…」

「一緒に言ってくれます?」

「へ?」

俺は間の抜けた声をあげた。それが言葉なのかすら怪しい声を。ちょ~かっこわるい声を。

 ヒナガは恥ずかしそうに顔全体をもっと赤くした。茹で上がったカニかエビ。じゃなかった。火?炎?違うな。なんだ?その…、バラ?でいいか。バラみたいだった。

 違う違う。今大事なのはそこじゃないって。

 俺、今、デートに誘われてんの?しかもヒナガに?

 えっと、現実だろうか?夢じゃないの?

 頬をつねってみた。痛い。

 手の甲をつねってみた。痛い。

 髪を引っ張ってみた。痛い。

 コーヒーカップを振り上げた。止められた。

「え?なにやってるんですか?」

「いや、ちょっと、確認?」

コーヒーカップを戻して、首を傾げる。

 現実のようだ。手首を握っている、ヒナガの手が温かいから。

 あぁ。そうか。現実なんだ。そうかそうか。

「って、いつまで握ってんの」

俺は思わず、その手を振り払ってしまった。

 名残惜しい。惜しいことをしたのかも。

「すみません。危なかったので」

ヒナガは心配してくれただけなんだ。俺のことを心配して。

 まぁ、誰でも目の前でコーヒーカップなんか振り上げられれば、止めるよな。

 今度は絶対勘違いしないぞ。

 俺は、さっきのショックが大きすぎて、少し人間不信になっていた。

 しかし、心の奥底、じゃないところでは、脈ありなんじゃないのかと期待が溢れていた。

「あの、そんなに嫌でしたか?」

不安そうに眉毛を下げる彼女に、胸がずきんずきんと痛んだ。

 俺はもちろん慌てた。

「違うって。確認だって言ったでしょうが」

「確認?」

訳がわからないだろう。そりゃあな。俺だってわからないからな。

「なんだ。別に、一緒に行ってやってもいい」

やっぱり、ぶっきらぼうな言い方になってしまう。

 でも、顔が喜んでいるのと赤くなっているのは流石にわかった。

 情けない。見られない様にヒナガの目を覆いたい。

「本当ですか!」

その顔は卑怯だ。

 満開の桜のようなその笑顔は、卑怯だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ