3:哀れみ
「遅かったね。もう、終わっちゃったよ。」
「本当に、あなたたちはのろまですわね。亀並みですわ。」
セイメイの肩の上で、髪の先をいじりながら、ウスイが相変わらずツンとした口調で言う。
サヨの肩に乗っていたユキゲも、相変わらず何にでも突っかかって、目の端をつり上げる。
「女で見習いのくせに、生意気言うな。」
「見習いはあなたも同じですわ。それに、女だからって考え、古くなくって。」
「そうよ。ユキゲ今、世界中の女を敵にまわす発言だよ。」
サヨはそう言って、肩のユキゲを払い落とした。
落とされユキゲは、なすすべ無く地面にべちゃっと落ちた。
それを見たウスイが、鼻で笑う。そして、セイメイの肩から飛び立ち、地面にへばりついているユキゲの元に飛んでいった。
「ま、そう言うことだからかえろ。」
サヨはそう言って、望を振り返る。
すると、そこにいたのはあの底無しの明るさを放つ望が、肩を落とし本当にがっかりしていて暗くなっている姿だった。
サヨは驚くと同時に、かわいそうという哀れみの気持ちが現れた。
その姿から目を外せなくなっているサヨに、セイメイがいつものようにふざけた雰囲気で抱きついた。
「サヨチャン。がんばった僕に、キスして。」
いつのなら、サヨは気持ち悪いとすぐにその手を振り払い、セイメイの頬に平手打ちを食らわせるのに、今はそうはしなかった。
決して、セイメイの行為をよしと思っているわけではない。
ただ今は、望のことで頭がいっぱいでセイメイのことを気にかける余裕がなかったのだ。
ニコニコしていたセイメイの顔が一気に冷たくなり、細い目で望に冷たい眼差しをおくった。
するりとセイメイの腕から抜け、望に近づく。そして、その肩に手をかける。
「ごめんね。今度、私の仕事に連れて行ってあげる。だから、元気だして。」
サヨがそう言うと、望はぱっと顔を明るくした。子供みたいな、無邪気でキラキラした笑顔。
サヨの手を取って、期待の眼差しを向ける。
「ホント?ありがと。」
今回は、サヨは後悔はしなかった。逆にホッと安心した。
「僕も行っていい?」
「はぁ?」
サヨは明らかに嫌そうな顔をして、ニコニコ顔のセイメイを振り返った。
地面にいたふたりも嫌な顔をした。
「そんなの許しませんわ。こんな方とまた会うなんて。」
「こっちだって!お前みたいな、性悪女の顔を見るなんて嫌だぜ!」
「私も、いやよ。断るから。こないでよ。」
自分の意見が全面時に拒絶されたセイメイは、腕を組み困ったような笑みになった。
地面にあぐらをかいてふてくされているユキゲを捕まえた。
「行くよ。ユキゲ、ノゾム。」
そう言って、サヨは来た道を歩き出した。
望がその後を追うように歩き出したとき、ぼそっと冷たい声でセイメイが言った。
「君がサヨといることは、サヨにとって辛いことだよ。」
「え?」
望が振り返ったときには、セイメイ達の陰一つ無かった。
どういうことだろうと、望が首を傾げているとサヨが自分を呼ぶ声が聞こえ、考えるのを止めにして後を追った。