28:望も男
一方、モール内のレディースファッション店。
試着室に入っては出てくるを来る返しているサヨ。それを片っ端から褒める望。次から次へと、サヨに似合いそうな服を渡してくるゆず。サヨが試着し終わった服を戻す役割の了介。
さっき、ばったり会って、いつの間にかWデートになっていた。
いや、今はサヨのファッションショーか。
まあ、実際のところサヨがゆずの着せ替え人形になっていた。
サヨはいい加減疲れていた。
「さよ、次はこれ」
「ゆずちゃん、もうこれでいいんじゃない?」
「ダメよ。やっぱりサヨは、カッコイイ系がいいわ。可愛い系はダメ」
そう言われて、サヨは自分の格好を見る。明るい色がメインの、コーディネート。
ショートパンツははくことはよくあるけど、ミニスカートはいたことがなくて、なんか変な感じがする。
そして、チラッと望を見た。
いつもと違う自分は変じゃないだろうか?
サヨは思わず、自分を隠そうと一歩下がった。
「そうかなぁ?どれも似合ってると思うけど?」
試着室に隠れて聞いたサヨは、一気に真っ赤になった。
とくんっ、とくんっ、という心臓の音が、近くで聞こえる。
「のろけが出ました~」
溜息混じりに呟いた了介の頭をぽかりと叩いた。
なにするんだとでも言いたそうな顔で、ゆずを見上げる。
その手には、さっきまで選んできた服が握られていた。了介にそれを押しつける。
「へいへい、女王様の言うことを聞きますよ~」
なんて愚痴をこぼしながら、ゆずと一緒に違う服を探しに行った。
二人っきりになり、サヨの心臓の音はもっと早く、もっと大きくなった。
「わ、私、一応、元の服に着替えるね」
そういって試着室のカーテンを閉めながら、服に手を掛ける。
ゆずちゃんにも、望にも、あと了介君にも悪いけど、いつもの服が一番いい。
まあ、着せ替え人形にされるのも楽しかったけど。
「え?ちょっと待ってよ。そんなすぐに着替えなくても」
「ちょっ!?」
サヨはいきなり開いたカーテンに、目を丸くした。
それもそのはずだ。さよは、すぐに着替えるつもりだったものだから、上着は脱ぎ捨てていて、スカートに手を掛けていた。
つまり、サヨの格好はブラに脱ぎかけのスカート、下着姿と言っても過言ではないのかもしれない。
サヨは目を白黒させる。
望も驚きのあまり、カーテンを開けたまま身動きがとれないでいた。
幸運な事に、試着室の近くには人の行き来がない。
と、望の後ろからヒューと口笛が聞こえてきた。
「若気の至りってか?」
おかしそうに声を震わせている了介が見えて、サヨはやっと状況が把握できて、その場にしゃがみ込む。脱いだ服で体を隠す。
恥ずかしくて恥ずかしくて、体中が熱くなる。
「え、いや、その、ちが…。ごめん」
慌ててカーテンを閉めた望は、試着室に背を向けてしゃがみ込んだ。たてた膝に額を押しつけて、必死に顔を隠していた。顔だけじゃなくて、感情とか恥ずかしさとか、そう言ったもの全部全部隠すように、身を縮めた。
その横に、おかしそうにしてる了介がしゃがむ。
「望くんも、男だったってわけねぇ」
「了介と一緒にされて可愛そうね。サヨ、大丈夫?」
うんっと小さく、か細い声がカーテン越しから聞こえた。
その中で、サヨがどんな行動して、どんな顔をして、どんなことを思っているのか、わからないけど、恥ずかしくて死んじゃいそうなことぐらいは、女のゆずにはわかる。
「出てこられる?」
と、カーテンがシャッと開き、いつもの格好をしたサヨが出てきた。
うつむいて、もじもじしてはチラリと望を見る。
それに気がついた了介は望の肩を叩く。すると、何事かと顔を上げる望。
視線が合うと、恥ずかしそうに逸らす。二人とも、目の下が真っ赤で、どこか可愛い。
それが、しばらく続いていた。
とんでもないことが起こったのに、なぜか微笑ましい。
幸せに包まれた気がした。なんて、がらになくゆずは微笑んでいた。