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22:回想~審判の時~

 あれからというもの、わたくし達はエンテン達とよく一緒にいた。

 これが友情というのならば、きっと、何でも友情と言えるだろう。

 わたくしから見たエンテンは、その程度の相手だった。

 しかし、ユキゲの場合は違う。

 口が悪くて、しつこくって、何でも直球すぎるし、わたくしの嫌いなタイプだった。

 それなのに、彼を嫌いになれないような気がした。毎日うるさいけれど、それが無くなると、なんか寂しくて、胸のあたりが変な感じがする。

 この感情はなんなんだろう?

 こんなこと、相談できるのはヒナガしかいないのに、彼女は仕事が忙しく、書斎にもう何ヶ月もこもっていた。

 どうせまた、無理をしているのだろう。

 人間の彼が、待ってくれているわけないのに。

「…恋ってなんなのかしら。サヨは知ってます?」

隣を飛んでいるサヨが、信じられないことでも聞いたかのような顔をした。

 なんか、失礼じゃないか?

「もしかして…、ウスイ…」

「違いますわよ。ちょっと、気になっただけですわ」

「だよね~。ウスイが、恋するわけないもん」

これは、明らかに失礼だ。

「それ、どうゆうことですの?」

なんか、腹が立ったから、サヨの頬を両方引っ張った。

 それでも、サヨの減らず口は直らない。

「だって、ウスイは他人に興味なんじゃん」

「確かにそうで…」

「あ!」

わたくしの指から抜け出したサヨは、ひらめいたように人差し指を立てた。

「ユキゲ!そっか、ユキゲがいた!」

急に出てきた、思わぬ名前に、わたくしはドキッとした。

 思いっきり、頭はパニックを起こして、顔も体も熱くなった。

 サヨは、そんなわたくしを見てか、ニヤリと笑った。

「やっぱりね。そうなんだ」

「ち、がいますわよ!そんなこと…!」

「でも、珍しく仲良くやってるじゃない。ウスイがあんなにムキになるの、私、初めて見ちゃった」

「だって、アイツが…!」

「ほら、今だってユキゲのことでムキになってる」

「ちが…!」

違くない。

 今のわたくしは、相当ムキになっている。

 こんなムキになったのなんて、もしかしたら、ヒナガが人間に恋していたと言うことを聞いた日から、なかったかもしれない。

 そう思うと、なんか変な気分。

「まぁ、本人が自覚するのを待つかな」

「そんなんじゃありませんわ」

わたくしが恋するなんて、有り得ない。そんなこと、わかっている。

「そうだね~。たぶん、エンテンは恋してるんじゃないかな?」

「エンテンが?」

わたくしは驚いた。あの体格のわりにはおっとりしていて、虫も殺せないような人が?

 ヒナガみたいなタイプじゃないと思っていたのに。

「意外ですわ」

「そぉ~?エンテンみたいなやつに限って、いろいろと溜め込んでんだよ」

「…」

今度、エンテンを話してみようかな?エンテンなら、いい相談相手にもなりそうだし。

「あ、エンテンだ」

噂をすれば何とやら…。

 タイミング良すぎないか?

「お~い、エンテン!」

サヨが手を大きく振って、呼びかける。

 すると、エンテンはハッと顔をあげた。

 相当考え事をしていたのか、心ここにあらずって感じだった。

 でも、それは一瞬のことで普通は気がつかないぐらいの違いだった。

「あ、サヨとウスイ」

そう微笑みかけたエンテンの顔には、どこか影が見えたような気がした。

 これも、気がしただけなのかも知れないが。

「あのね、ウスイが聞きたいことがあるんだって」

「べ、別に、そんなのありませんわ」

「嘘つけ~。あ、私がいるからか~」

言いたいことを並べて、サヨは爽やかな笑顔で去っていった。それも、何も言わせないとでも言いたそうに、猛スピードで。

 残されたわたくしたちは、しばらくポカンとしていた。

 口火を切ったのは、エンテンだった。

「実は、俺も相談したかったんだよ。ウスイなら、相談しても良さそうだから」

その顔には、いつもの笑顔はなく、迷子の子供のような不安と緊張があった。


「それ、酷すぎますわ」

数分後。わたくしは、自室で眉を寄せていた。

 椅子に座って、握りしめている手を見つめるように、エンテンは項垂れていた。

 彼は今、いったいどんな顔をしているのだろう。

「どうすればいいのか、わからないんだよ。

 彼女の願いを叶えたい。俺はどうなってもいいからさ。

 でも、それが本当に彼女のためになるのかわからない」

「エンテンは、彼女を救いたいんですわね」

「当たり前じゃないか。彼女には、生きて幸せになって欲しい。

 でも…、彼女が望むのなら」

わたくしが言った言葉が、エンテンの運命も彼女の運命も変えてしまう。

 どうしたらいいのだろう。

 わたくしは、愛だとか恋だとか、友情とか、よくわからない。

 だから、正直言うと、エンテンがなんでそんなに他人のために悩まなくてはいけないのかわからない。

 わからないだらけのわたくしに、どうしろと言うのだろうか。

「エンテンが…思うようにやればいいんじゃありませんの」

「それって、俺に…」

「エンテン、人間の魂はどうせ廻りますわ。彼女を、これ以上苦しめたくないのでしょう?」

わたくしはいったい、どんな顔をしていたのだろう。

 能面のような顔だろうか。それとも、答えを見つけた人間のような顔だろうか。

 どっちでもいいが、この言葉がどんな結末になるかはうすうす気がついていた。

 それでも、わたくしにはそれが一番いいと思っていた。


 数日後。エンテンは処罰された。


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