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18:違う日々

 サヨがHEARTへ足を運ぶことはなくなり、望にも会うことはなかった。

 今日はセイメイとのデートの日。ウスイとユキゲはお互い会いたくないと意地を張って、いつも着いてこない。つまり、二人きり。昔のサヨなら、ぞっとして約束なんかすっぽかすだろう。

 でも今は、彼しかサヨを支えるやつはいない。ユキゲとはまた違う、サヨの支え。

 本来なら、その支えは望だったはずなのに…。

「サヨチャン。今日はどこ行く?」

「どこでもいいよ」

サヨはセイメイに、ニッコリと笑ってみせた。

 自分に向かって笑いかけてくれてるのに、セイメイは正直に喜べない。

「じゃあ、ゲームセンターに行かないかい?」

「前も行ったじゃん。セイメイは、本当にゲーセン好きだよね」

「あそこ、すんごく楽しいんだヨ。お金は無くなっちゃうけどネ」

とかなんとか言いながら、セイメイはお金に困ったことがない。

 実をいうと、セイメイの金銭感覚はとんでもなく凄い。さすが、元魔王。金が無くなることを知らない。

 魔王の時からのお金と今の収入を合わせたら、どれだけになるんだろう。

 それより、魔王だったときはお金をどうしてもらっていたんだろう。

 働くのは手下の死神であって、魔王じゃない。

 どちらかというと、魔王が彼らに報酬を払うほうじゃないか。

 てか、今気づいたけど、天使って人間となんらかわりのない生活を送ってる?

「ね、いいヨね」

「セイメイがいきたいなら、いいよ。それに、私も結構ゲーセン好きだから」

親指を立てて見せたサヨの顔には、昔のセイメイを嫌っていた頃の欠片すら残っていない。

 人は、彼女は天使だけど、こんなに変わってしまうものなのか?

 それとも、厚い仮面をかぶってしまっただけなのか。

 後者なら、危険だ。

「あ、あそこのゲーセン行ったことないよ!行ってみよう」

セイメイが悩んでいるのをサヨは知らないようすで、駆け出した。

 こうなることを、望んでいたのだろうか?

 セイメイは思わず、そんなことを考えてしまった。

「もう、はやく~」

セイメイがなかなかこないので、サヨは引き返してきた。腕を絡めて、セイメイを引っ張っていくサヨの姿は、とても愛らしかった。

 微笑まずにはいられない。

 いつも、サヨの愛らしい姿に負けてしまう。

 今さえよければ、表面上でもサヨが楽しそうにしていればそれでいいと思ってしまう、セイメイがいた。

「そんなに慌てなくても、時間はいっぱいあるんだヨ」

この幸せそうな時間が、本当になればいいのに。


 「セイメイとラブラブなのは勝手だケドな、こっちの身にもなれっつーんだ」

ユキゲは自分からついて行かないといったものの、暇だった。

 サヨがいないと人間界に言っても何も出来ないし、かといって、天界にいてもする事がない。

 暇つぶしに散歩をしてみるけど、楽しくなんかない。

 ダチというような奴らは、みんな仕事にいっていて天界にはいない。

「あ゛?」

目の前に、会いたくなかったやつが通り過ぎた。

 ウスイだ。

「アイツも、セイメイといかなかったのかよ。…どこ行くつもりだ?」

ユキゲは思わず首を傾げた。確かあっちは、見習いはもちろん天使も立ち入るのを禁止されてる書庫があったはずだ。

 特殊な鍵がかかっていて、普通は入れない。

 確かそこの書庫には…何があったけ?

 ユキゲは肝心なところをど忘れしてしまった。

「気になるな」

ユキゲはウスイの後を追いかけることにした。

 時間も余ってることだし…。

 よほど、油断しているのか慣れているのか、警戒する様子がない。後ろを振り返ってみたり、キョロキョロとあたりを見渡したりする事はなかった。

 ユキゲにはそれが不思議でしかなかった。

 立ち入り禁止の所に行こうとするのに、少しも警戒していないなんておかしすぎる。

 ただの興味本意だったのに、とんでもないことを知ってしまうような気がした。

 細く長く暗い廊下の突き当たりに、そこはあった。

 とくに特殊な構造に見えない扉。

 誰も近寄らないのか、足跡が残りそうなぐらい汚い床。

 古臭いにおいに顔をしかめずにはいられない。

 外がこんなんだから、中は相当汚いに違いない。

 ウスイは勝手に開いた扉の中に入っていく。中に踏み入れたとたん、扉は音もなく閉じていく。

 慌てて扉に向かうユキゲ。しかし、扉は目の前で閉じてしまった。

 堅くて重い扉は、どんなに力をいれても開くことはなかった。

 ウスイは、どうやって扉を開けたんだろう。

 そして、この中には一体何があるのだろう。

 忘れられた部屋みたいな所に、何が隠されてるんだろう。

「…オレ、初めてバカなのを後悔しちまった」


 「申し訳ありません、お客様!」

らしくなくボーッとしていた望は、運んだコーヒーカップを落としてしまった。

 カップは床に落ちて、割れた。茶色の床に真っ黒い液体が広がった。

 お客には、足に雫が飛び散るぐらいで、被害は小さかった。

「こちらのお席に移っていただけないでしょうか?」

サヨがいなくなってから、店のお客は少し減った。

 決して、100パーセントサヨがいなくなったせいではない。

 確かに、サヨ目的で来てた客は来なくなったが…。

 ただ、なぜか客足が減った。望のミスが増えたせいだろうか?

「今週、これでミス5回目。どうした?考え事でもあんの?」

モップを取りにカウンターの近くに来た望に、マスターが声をかける。

 相変わらず、望はボーッとしていた。最近、多い。心ここにあらずって言うんだろうか。

 明るく振る舞っても、空元気だって事がみえみえ。

 サヨの事だろうとマスターは見当つけていた。

「サヨの事なんでしょ。お前、わかりやすいわ」

「…」

最近望は、サヨの事が出ると黙り込んでしまう。

 サヨの事じゃなくても、サヨに似ていることでも、眉を寄せて唇を噛む。まるで、泣くのを我慢してる子供のように。

 何も答えず、モップを取り出して離れていった。

 最近、ゆずもこなくなった。仕事が忙しくなったとかいってたけど、マスターにはそれが嘘だって事を見抜いていた。

 サヨとゆず、そして望の間に何があったんだろう?

 別に詮索したいわけじゃないが、昔からの仲だから知る権利はあるはずだ。

 それに、このままじゃ非常に困るし、参ってしまう。

 どうしたものか…。

 マスターの頭痛は止まらない。


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