16:仲直り
「どうしたらいいんだろう」
帰ってきてから自室のベッドでサヨは、ずっと考えていた。
自分が何をしてしまったか、自分がこれからどうすればいいか。等々。
考えれば考える度、自分が嫌になっていく。後悔が積み重なって、身動きが出来なくなってしまいそうになる。
「どうしたらいいの」
サヨは、枕を顔に押しつけた。
ゆずのあの姿。きっと、サヨのマネをしたんだろう。サヨに似れば、ノゾムが振り向くと思ったのかもしれない。
やっぱり、私は望にあうべきじゃなかったんだ。
サヨの中の、たくさんのものにヒビが入っていくようだった。
翌日、サヨは何事も無かったかのように振る舞った。
仕事をして、ユキゲと話して。
いつもの生活。彼と会う前は。
「サヨじゃん」
アイツはいつもサヨの前に現れる。いっつも、いっつも。
望が、HEARTの前で手を振っていた。HEARTというプリントのしてあるエプロンを着ているから、バイト中だろう。手に持っているのは、ほうきとちりとり。掃除中か。
「本当にバイトしてたんだ」
近づいてよく見ると、エプロンが少し小さそうだった。
「失礼だな。俺は嘘つかないんだよ」
「本当かなぁ」
サヨがからかってやると、望は子供みたいに唇をとがらせた。
昨日の事が夢のように、サヨ達は普通に話し合った。
カランッカランッ
「直ったわよ」
その声をきいた瞬間、望の顔がまずいという顔になった。
しかし、時すでに遅し。
サヨは、店から出てきたゆずとご対面した。
両者とも、目を丸くした。
はさまれた望は、困ったというように肩をすくめた。
「ゆずちゃん…あの…」
「サヨ、逃げよ~ぜ」
耳元でささやかれたユキゲの声に、サヨは小さく頷いた。
ゆずには悪いけれど、それが一番いいと思う。
逃げ続けていれば、これ以上何も起こらない。
サヨは一歩また一歩と、歩を後ろへと…。
「サヨ、あたし、あんたに謝りたくて」
「へ?」
サヨの歩が止まる。ユキゲと望の丸くなった目が、気まずそうな顔のゆずに向けられる。
サヨの頭は、まだ今の状況を理解していない。
「頭冷やして、考えたの。サヨは、悪くないもんね。自分の気持ちは、おさえられないもん。仕方なかったんだよね」
「ごめん、ゆずちゃん」
サヨの頬に、一筋の雫が滑り落ちた。
ゆずの前まで行くと、サヨは流れた涙をそのままに微笑んだ。素の笑顔。
「これで、昔に戻れるよね」
サヨの差し出した手を一回じっと見た後、ゆずはニッコリと笑った。
「うん。仲直りしよう」
ゆずはそれに手を重ねた。
ニッコリ笑いあっている二人は、仲が良い昔に戻ったようだった。
「こんなベタな事って、ありかよ」
こういう場面が苦手なユキゲは、完全に無視された望の所に飛んでいった。
「いいんじゃない?女の子って、わかんないから」
「でも、これはねぇって」
「よかったじゃなの。仲直りして」
カウンターに座っているマスターはいつもながらいい加減だった。
「でね、サヨ他に仕事やってるんだけど、暇があったら手伝いに来たいんだって」
「また、お願いします」
サヨは、深々と頭を下げる。
「いや、まだいいって言ってないんだけど」
「いいわよね」
ゆずの怖い顔が近づいてきて、マスターは焦った。
「別に、ダメっていったわけじゃないでしょうよ。サヨが仕事熱心なのは知ってるから、こっちとしては大助かりだから」
マスターも、顔をのぞかせて親指を立てた。
本当は、サヨがお願いしたわけじゃなくてゆずが一緒に仕事をしようといったのだ。
人間と関わらないようにしてきたけど、ゆず達は特別だから、断る理由がない。
今度は、取り合うものがないから、きっとうまくいく。
サヨは、そう確信していたのに…。