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11:追憶~恋バナ~

 「希!遅刻しちゃうよ!早く!」

私は玄関でのんびりしているだろう希に叫んだ。

 これから一緒にバイトなのに希は例によってのんびりしていた。

「今行くよ~」

のんびりとした眠たそうな声が返ってきて、私は溜息をつきたい気持ちになった。

 しばらくして現れた希はぐちゃぐちゃのしわだらけの服を着て、眠たそうに欠伸をしていた。

 髪の毛がはねてるのを見る限り、どうやら寝ていたみたいだ。

「また寝てたの?」

私が呆れたように言うと、当たり前だと言わないばかりに眩しい笑顔で頷いた。


「ねぇねぇ、サヨちゃんって希君と付き合ってるの?」

私はバイト先の休憩室みたいなところで一休みしていたとき、突然バイトの先輩がそんなことを聞いてきた。

 私は思わず、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。

 私が動揺しているのがわかったのか、先輩はにっと唇をゆがめた。

「マジで付き合ってるわけ?」

隣の椅子にどかっと座り込んできた。

 私はコーヒーをグッと飲み込んだ。

「そんなわけないですよ。てか、なんでそんなこと聞くんですか?先輩」

「いや~ね~。ほら、アイツが気になってるらしくてさ」

先輩は面白そうに出入り口の方を指差した。

 そこにいたのは、マスターの親戚で店のお手伝いしている子だった。まだ、小学六年生だとか。

  ふわふわな髪で子犬みたいに可愛いゆずちゃん。一番の仲良し。

「ゆずちゃんが?」

「そだよ。ゆずち~ん」

 扉に隠れるようにして立っていたゆずちゃんは、一瞬驚いたように肩をふるわせ、おずおずと顔をのぞかせ入ってきた。

「ひどいッス。言わないって言ったじゃないッスか」

「そだっけ?ごめんごめん」

ゆずちゃんの泣きそうな声を明るさ100%の声で返した先輩は、後はお若いものでと言って出て行った。

 残された私たちの間にはしばらく沈黙が続いた。

 それを破ったのは私だった。

「あれってホントにゆずちゃんが気になってたの?」

ゆずちゃんは棒付きキャンディーをなめながら、小さく頷いた。

「どうして?」

「だって、サヨ、希君と仲良しだし、一緒に暮らしてるって言うし、よく一緒にいるし。」

「仲良しってだけだよ。付き合ってなんかないって」

「ホント?」

ゆずちゃんが上目遣いで聞いてくる。

 私は少し言葉を詰まらせてしまった。

 付き合ってはいないが、私は希が好きで…。

「ゆずちゃんって、もしかして、希のこと好きなの?」

ふと思ったことを言ってみたら、どうやら図星みたいでゆずちゃんは顔を一瞬で赤くした。

 私は可愛いなぁと思った反面、少し驚いた。最初から、希を見る目が他の人を見る目とぜんぜん違うことには気づいてはいたけれど、まさかそうゆう目で見ていたとは。

「そうだったんだぁ。でも、希とゆずちゃんって7も違うじゃん」

「年の差なんて、関係ないッス。好きならいいッスよ」

「ゆずちゃんはすごいねぇ」

そんなことが言えるゆずちゃんは本当にすごいと思う。

 私はずっと迷っているばかりで、どれの気持ちにも決着がついていない。

 希への気持ちにも、天使の使命を放棄したことにも。全然決着がついていない。

 グルグルと考えが回りに回って、円を描いている。出口の見えないトンネルの中を走っているみたい。

「希君あたしのこと何か言ってたりしてないッスか?」

「そうだねぇ」

考えてみると、私ってあんまり希とそうゆう話しをしてないかも。

 いっつも、絵の話しとか、日常生活の話しとか、絵の話しとか絵の話しとか…。

 そう言えば、私の絵って書き終わったのかな?

 全然あの絵の話ししてくれないよなぁ。

「なんか、言いずらいことでもことでも言ってたんッスか?」

ゆずちゃんが心配そうにこっちを見ていた。

「えっと、いい子だって言ってたよ。可愛いとか」

ゆずちゃんの目がすごく輝いた。

 私がバイトを始めたばっかしのころ、ゆずちゃんのことを紹介してくれるときにそんなことをいっていた。

「可愛いッスか~」

ゆずちゃんは頬を押さえて嬉しそうに笑った。

 すごく嬉しそうで、見ているこっちも嬉しくなってきた。

 でも、心の中は複雑だった。

 私は希が好き。ゆずちゃんも希のことが好き。私のことを好きになってほしいけど、ゆずちゃんとくっついた方が希にも幸せなんじゃないかって、なんだか思えてきた。

「サヨ。帰るよ~」

そんなとき、何も知らない希が出入り口から顔をひょいっと出した。

 ゆずちゃんはびくっと肩を大きくふるわせて驚いた。ぼっと、さっきとは比にならないくらい顔が真っ赤になった。

 私も表には出さないが、内心ビックリした。心臓がギューッてなって、どんどんとうるさく鳴った。

「う、うん。じゃぁね、ゆずちゃん」

私はテーブルに置いておいたバッグを取り、希のほうに駆け足で向かった。

 ゆずちゃんがこっちを羨ましそうに見ているのを、少し優越感に浸って見ていた。

「そう言えばゆずちゃん、マスターが呼んでたよ。あ、マスター」

「ゆず、ちょっと手伝ってくれ」

希の上に無精ひげを生やしたマスターが現れた。

 まだ25らしいんだけど、無精ひげのせいかもっと年をとっているように見える。このカフェのマスターとしての苦労が顔に出ているのかも。

 家はお金持ちらしいんだけど、あんまり仲良くないらしい。ゆずちゃんのことは大好きらしい。

「わかったッスよ。セージ」

「違うっつーの。星司(せいじ)だっつーの」

マスターは休憩室に入っていってゆずちゃんの手をつかんで、連れて行った。

 扉のところに来たときゆずちゃんは口を開いてなにか言いたそうにしていた。

 しかし、それはかなわずマスターに連れて行かれた。

「痛いッス。セージ、痛い!」

「星司だっつーの。うるさいっつーの」

マスターがなかば強引にゆずちゃんを連れて行くのを、私たちは無言で見つめていた。

 マスター達の声が聞こえなくなると、希は私の腕をつかんだ。

「さ、帰ろ」

「うん」

少し心臓がどきどきしている。いつもはこんなことないのに。


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