8話 策
攻撃してきたのは、死んだはずのクラスメイトだった。しかも、さっきまでなかったはずの包丁を持っている。
なぜ? 殺した人数は増えていたから、死んでいることは間違いないはずなのに。
しかし、攻撃の仕方が乱雑だ。そのせいで、逆に時間のずれが意味を成していない。
「とりあえず、殺そう。念のため、比奈がやって!」
相手の攻撃を避けながら叫ぶ。
「分かった」
比奈の飲み込みが早いのはいいのだが、なんとなく申し訳なさが勝ってしまう。
比奈が柄だけのナイフを取り出した。すると、突然ナイフの柄のほうからだんだんと赤い刃が形成されていく。
おそらく、微生物で生成しているのだろうが、なんかずるい。
それを持って、比奈は斬りかかる。クラスメイトのナイフを持っている右腕がドサっと落ちる。強い。ただ強い。語彙力を失うほど強い。
あれ? クラスメイトから一滴の血も流れない。
目の前でさらに不可解な現象が起こった。切り落とされたはずの右腕が、浮遊しているのだ。そして、それがまたぼくを攻撃してくる。ただ、さっきと違うのは、右腕は正確に10秒前のぼくを攻撃しているようだ。正確さが仇になったようだ。残念でした。
さらに、本体の方も相変わらず動いたままである。まるで分裂したかのようだ。
誰かが能力を使っているのは間違いないだろう。
問題は相手の能力を把握することだ。死体を動かす能力だろうか。もし、そうだとすれば、さらに死体が動いてもいいはずだ。いや、流石に能力の限界があるのか。
「比奈、左腕を落としてみて」
本体の方の攻撃手段をなくしにかかるとともに、同時に操作できる個数の限界を確かめにいくことにした。
比奈が、右腕を落とした時と同じように左腕をサクッと切る。やはり、血は出ない。
ドサっと落ちた左腕が再び浮遊する。しかし、その代わりなのだろうか、本体が倒れた。操作可能なのは見ている限り二つまでのようだ。
とにかく、操作主を探さねばならない。操り人形に成り下がったクラスメイトを切ったとしても、また動くだけだからだ。
比奈なら、おそらく索敵もできるだろう。けれど、負担をかけすぎるのは良くない。これ以上あんな痛い思いをさせるわけにはいかない。
操作主は、出てこない。それは、操作中動けないから。動けるのならば、操り人形と一緒に攻撃しにくる。そして、そんなに遠くからは操作できないように設定されているはずだ。このゲームの能力者はメリットも、デメリットも抱えるようにできているようだからだ。あくまでも推測の範疇だが。
そして、身を隠しやすく、また、逃げ出しやすい場所にいるはずだ。襲われた時のために。しかし、どれもこれもただの予想であり、怪しいため、手当たり次第探すしかなさそうだ。
どの家にもすでに所有権など関係ない。持ち主はたいてい死んでいるからだ。だから、近くの家から一つずつ潰していくことにした。
「比奈、一緒に操作主を探しに行こう」
「分かった」
一つ目の家。一階を回る。しかし、いない。二階に上がろうとすると、後ろから操り人形が襲ってくる。この感じは......
「たぶん、操作主は二階にいるから、比奈に頼んでもいい?」
操作主は、あえて、操り人形を家まで入れる必要はないはずだ。それよりも外で待ち伏せした方が効果的だからだ。それなのに入ってきた。ぼくらが二階に行こうとした途端に。
追いつかれないように、急いで二階に上がる。すると、操作主は一直線の廊下の奥にいた。
見た目は普通の高校生だ。眠っているように見える。おそらく、能力をこうしておかないと使えないのだろう。
階段をすごい速度で操り人形が上がってくる気配がした。
「急いで」
比奈が走って、操作主の息の根を止めに行こうとしたその時。
銃声が聞こえた。と同時にぼくは、お腹に違和感を覚えた。
血が出てる?
途端に足元がおぼつかなくなる。
ぼくは倒れかかりながら前を見る。
見えたのは比奈から流れた血だった。