57話 終演
ぼくと比奈は移動を始める。
風下の方に向かって歩いていく。先ほどの花びらの影響がどれほどなのかを知りたい。
比奈がこちらを結構な頻度で見てくる。
「どうかしたの?」
聞いてみる。何も返事は来ない。10秒待ってみる。やっぱり何も返ってこない。能力を解除して、もう一度聞いてみる同じだ。
歩いていると、所々おかしな花が咲いている。花びらが届いたのはここから先なのだろう。
ぼくの左手に生えた花は枯れてしまったのだが、何を基準で残っているのだろうか。
花を日本刀でなぞるように斬る。黒い血が切断した茎の部分からゆっくりと流れ落ちる。
プロフィール画面を開く。そういえば、左手がないのに何で開いてるんだろ。この前開いたときもそうだし。
一回画面を閉じて、右手の人差し指を空中で振ってみる。
プロフィール画面が開いた。もしかして、正直何でもよかった......ってことなのだろう。
気を取り直して、見てみると殺した人数が増えている。
やっぱり人間も花に変わってしまうということだったらしい。しかも、死んでなかったし。花のまま生き残っても困るし、本当に勝ててよかった。
「あの、凛......言いたいことがあるんだけど......」
「どうしたの?」
「能力、もう使わない」
「なんで?」
「えっと......」
前の方から騒ぎながら誰か走ってくる。
「そこのリア充、撃滅してやるうう!」
ぼくは能力を発動して、走ってきた男の横に入り、ナイフを走った勢いで刺さるように持っておく。
カーン
金属を打ち付けたような高い音がして、ナイフが弾き飛ばされた。
「お前、騙したな? リア充のくせに。正々堂々戦わないと俺は倒せないぞ。なんたって俺の能力は騙された数だけ攻撃を無効化する能力だからな。あ、言い過ぎたか」
この勢いで能力を偽っていたらすごいと思うが、きっと純粋なアホだ。
一応、能力を解除して、嘘をつきつつ攻撃してみよう。
「あ、あそこに空飛ぶイギリスが!」
男が振り向く。
ナイフをその隙に叩き込む。
カーン
やはり弾かれる。
それよりも、比奈が能力を使えないのは何故だろう。そういえば、真奈と戦っていたとき時も能力を使っていない時があった。
何か理由があるはずだが、それを聞く前に男が来てしまった。
「比奈、さっきの続き教えて」
比奈はキョロキョロとしていて、ぼくの声が聞こえていないように見える。
「どこ? どこだ? イギリスは」
「あるわけないじゃん」
「騙したな?」
純製のアホだ。こんな感じだとあらゆる詐欺に引っかかっていそうだ。だから、たくさん無効化できているのかもしれないが。
男の能力には裏が取れた。さて、どうすればいいかな。ぼくの能力はきっと騙していることになる。正直言ってずるい能力だとは自分でも思っているけど。
ピストルを取り出し、男に撃つ。一回撃つごとに少しの間ができるが、大した問題ではない。男の能力ははずれの部類に入る能力だ。正々堂々戦われたらただの人間と同等だ。
銃弾は全部弾かれているようだが、もうじき無効化もできなくなるだろう。
「どれだけ撃てば気が済むんだ! リア充は滅びるべき!」
そう言いながら男は比奈を狙いにかかる。
男は武器を持っていないが、どうやって殺してきたのだろう。
男は素手で比奈に挑みに行く。拳を振るが、比奈は平然と軽いステップで後退したり、しゃがんだりとしている。
男を狙ってピストルを使うがまだ弾かれる。残弾がゼロになった。
男が尖った石を取り出す。打製石器だろうか。石器時代レベルの武器だ。
比奈がライフルを取り出し、爆発する弾を放つ。男は無傷だが、地面は抉れ、コンクリートが粉々になって転がっている。
あれ? 男の頬から血が流れている。今ので無効化を使い切ったのだろうか。ライフルを受けたにしてはダメージが少ないが。
ちょうどいい。横からナイフを持って襲撃する。しかしやはり弾かれる。横からの攻撃もだまし討ちカウントらしい。
比奈が一瞬こっちを見る。男もぼくを見、狙いをこっちに変えてくる。時間のずれを復活させたり、解除させた理を繰り返す。きっと、ぼくが二人に見えていることだろう。
「それは騙しだ。低能め」
それはどうかな。ぼくには比奈がいるから。
ナイフを男に刺す。男は何か言いたげだったが、話すこともなく口からは血だけが出てきた。
「ありがとう、比奈」
比奈からはやはり返事がない。
比奈が手に持っていたのは小さな紙きれで、そこに凛の能力は10秒ずれること、と書いてある。
これなら、嘘はついていないし、騙していることにはならない、ということだろう。
後、今気づいたが、男の無効化能力を使い切らせるために、比奈はコンクリートの破片をたくさんぶつけたのだと思う。破片一つ一つが攻撃判定になるのだろう。
そういえば、これで二人殺したことになるが、やはり死ぬことはないみたいだ。
比奈にさっきの件を聞かないと。そう思った時、例の音が鳴る。マスターがアナウンスをしてくる。
「やあ、ここまで残った君たちに悪いお知らせだよ! いいお知らせは残念ながら無いんだ。もう、このゲームの勝者は確定したようなものだから、勝てる希望のない人たちには消えてもらうことにしました! 死に方は、こう!」
頭の中に流れてきたのは黒い血に飲み込まれて、全身をへし折られるように殺される様子。ちょうど、リーザの記憶で見た少年と同じ死に方。
「はい、というわけで、じゃあね!」
ピー
超高音が聞こえ、プロフィール画面が勝手に開く。
生存者数 2人