55話 花
「いや、死んでないのって言われても勝ってるから死ぬわけないと思うんだけど......」
「そういうことじゃなくて、攻撃受けなかったの? っていうこと」
「避けたはずだよ」
「右わき腹を斬られてたのに?」
シラを切り通せないようだ。比奈にもあの見えない刀が見えているらしい。
「分かった、話すよ」
不死のことをバレないようにそれっぽい事を言わないと。
「この前のイベントでの報酬が、疲労回復じゃなくて、1回だけ攻撃を無効化してくれるようにしてくれるってやつだったからさ」
「そう、じゃあ、私の攻撃は攻撃じゃなかったんだね」
「え?」
どういうことだろう。
「私、凛が私を残して1人になると思ってなかったから、びっくりしたの。それで、何かしら分からないかなぁと思って、ピストルに血を吸う微生物付けといたの。きっと凛ならこれを取ると思って」
比奈は隠す気もなく説明してくれる。
「凛は嘘に気づくんでしょ? それは私もだから」
そう言われると弱い。心配にさせることと、嫌われることの二択ならまだ前者がましか。
「ぼく、不死になったらしいんだ......」
「うん。それなら納得いった」
呑み込みが思っていたよりも数万倍早い。
「えっと、それで終わり?」
「それ以上にどうしようもないけど、逆にどんな反応を想像してたの?」
「別に......」
「私は凛が生き残るんだったらそれでもいいんだけどね。どうせ二人で生き残れはしないし」
比奈が珍しく自分から心の内を話し始める。
「いいんだよ、私に気を使わなくても。どれだけ人のためだとか言っても、それは難しいことだし、できないことなんだよ。私もそうだし、凛もそう。ここまで、守ってきてくれただけでも十分だよ。後何日かだけ一緒に戦おうね。今の凛なら私一人くらいなんてことないと思うし」
プロフィール画面を見るといつの間にか生存者数は10万人を切っている。
「分かった。でも、まだ比奈が生き残る方法は探すよ」
「凛はぶれないね」
「多分、ぶれ方を知らないだけだと思うけど」
二人で小さく笑い合う。
その日、その後は何事もなく、比奈が一人殺して終わった。ぼくが不死だから、相手が強かろうと、抑え込むことができる。そこに比奈がとどめを刺すだけだ。
次の日、生存者数は2万人になった。
一気に人が減ったのは殺す相手が見つからなかった人が多かったからだろう。
リーザの能力は前よりも使いこなせるようになった気がする。それと共に頭の中が一層ぐちゃぐちゃだ。
今日は東京のど真ん中、誰も訪れることのなくなったスカイツリーのところに来た。
スカイツリーは変わらず白いままそびえ立っている。朽ちていても良さそうな気がちょっとしたがまだ2週間と経ってないからそんなもんか。
いや、ちょっと待てよ? スカイツリーのてっぺんに花が咲いている。下から見ているのに、はっきりと見えているから、相当でかい花だ。
ぼくは時間のずれを復活させる。
特にそうする必要はないのだが、より楽に戦うために。
不意に周囲に花が咲き乱れる。
あれ? おかしいな......
なんでここにいるんだっけ?
「そこにいる人を殺すためだよ」
甘い声が聞こえる。
そっか、分かった。
ぼくは誰かを振り向きざまに刺す。
「え、凛......?」
誰かが倒れる音がした。