54話 不死
能力が不死......?
それは普通なら嬉しい能力。でも、ぼくの中では世界一のはずれだ。
「どうかな? 1位にふさわしいでしょ?」
ぼくのことをゲームが始まった時から見えているはずだから、わざとなのかもしれない。もしそうなら許さない。とかなんだとか言っていられるほどの余裕はない。
じゃあどうしようか。
「凛、武器がいろいろもらえたよ。なんかイベント100位以内だったんだって」
比奈はアイスピックから日本刀まで、ピストルからスコープ付きのライフルまでありとあらゆる武器を床に並べて見せてくる。
「これ、どうしようか?」
「持てる量にも限りがあるし、何個か選んでいこう」
半分脊髄反射のように返す。
「じゃあ、とりあえずライフルは欲しいかな。後、爆弾は持ってて困ることはなさそう」
「ピストルもあった方がいいんじゃないかなぁ」
遠距離武器が今までなかったのが結構つらかった。でもそんな武器を100人分も配布したらそれ以下の順位だった人に勝ち目はなくなりそうなものだけれど。
ん? いや、そんなこともないか。どうせぼくだけが生き残ってしまう。これからの時間は消化試合だとぼくだけが知っている。
どうにかして比奈に殺されることはできないかな。
「じゃあ、ピストルとライフルと爆弾だけでいい?」
「ほかの武器もちょっと外で使ってきてみるよ。ぼくも何か使えるの持っていきたいし。比奈も銃もう一つくらい選んだらどう?」
ぼくは日本刀などの刃物系統を持ってファミレスの下の駐車場に向かう。
こうすれば一人になれる。
日本刀を右手でもって、左腹部に刃を向ける。一瞬躊躇して、日本刀を左腹部に差し込む。微弱な痛みを感じるが、刺さっているとは思えないくらいに痛くない。
日本刀を心臓まで移動させるが、切れているというより、水の中を動かしているという感覚に近い。
これは本格的に死ねないらしい。
一旦、誰かと戦った時に攻撃を受けてみよう。そう決めて、比奈のところに戻る。
「日本刀、いい感じ。これとピストルを持っておこうかな」
別にそんなことは思ってないけど、一応言っておく。
「そういえば、凛はイベントの報酬なんだった?」
一番嫌な質問だ。
「なかなかにポイントが伸びなかったっぽくて、疲労を取ってくれただけみたい」
「でも、疲労回復もいいんじゃない? みんな疲れてる中で有利だし」
よく分からない言い訳で乗り切った。まだ不死だなんて伝えられない。
未解決の問題を、いきなり押しつけるのは迷惑を固めて押しつけるようなもの。それに、まだ死ねないと決まりきったわけじゃない。
「よし、じゃあ殺しに行く相手を探しに出ようか」
そういえば、ぼくが2人以上殺したらそれはやはり死ぬのだろうか。どっちにしろ、そういうリスクは冒さないようにしよう。
ぼくと比奈はファミレスから出ようとする。
「あ、ちょっと待って」
比奈がファミレスを出たところで引き返す。
1分経って、比奈が戻ってくる。
「オリーブオイル、あった方がいいと思ってさ」
「なんで?」
「能力を使う妨げになるんだ、ってマスターが言ってた」
「それはいつ聞いた話?」
「ついさっき終わったイベントが始まったとき」
辻褄が合わない。
比奈はイベントが始まったときの有益な情報として、ぼくの能力を知った、と言っていた。でもその時も話がおかしかった。でも、今の発言と比べると、昔の発言のほうが怪しいと思う。
オリーブオイルが有効だ、という話は嘘をつく素材としては不自然すぎる。そこまで考えてあえて嘘をついてくることもなくはないかもしれないが、やっぱり、そんな必要もないだろうし。
もしかしたら、リーザたちがゲームを開始するのが遅くなったのはオリーブが妨げていたのかもしれない。それで、めんどくさいと思ったマスターが白いだけの部屋に隔離して処分しようとした、ということかもしれない。
詳しいことは分からないけれどそんなところだとしたら、リーザと戦った時に周りの黒い血が消えたのもオリーブオイルのおかげの可能性がある。
考えながら歩いていると、黒い霧が濃くなっているところが道の奥の方にある。国道沿いに歩いているから、見通しが良い。
「比奈、そのライフル一回使ってみよう。4キロ先かな、そこに人がいるから」
地平線の見える距離は4キロほど。それならライフルの射程圏内だ。
比奈が肩から掛けていたライフルを構える。右手一本で射的をするような持ち方だ。
「ちょっとそれじゃ反動に耐えられないと思うけど......」
流石に突っ込んでしまった。
「いや、この方が私は好きなの」
比奈の右手から微生物が現れてツタのように右腕とライフルを絡めるように巻き付く。
銃声が鳴り、弾が放たれる。
すると、地平線上に一瞬太陽が生まれたかのような大爆発が起きる。
「ほらね?」
得意顔でこっちを見てくる。
「というか、なんで爆発してるのさ」
「ライフル弾に湿らせた爆薬詰めてみたら、上手いこといったよ」
普通はそんなことにはならないと思うがまぁいいか。
「来るよ」
ほんわかした雰囲気から一転して、比奈はさっき爆撃した方を見つめる。
確かに黒い霧が見えている。
でも、黒い霧はそこまで濃くない。ということは、そこまで強くはない。といっても、ここまで生き残れているのだから、弱いわけではないが。
こっちから行ってやろう。ただ使ってみたいだけではあるけど、日本刀も持っていく。
向かってくる相手は全身を黒いコートに包んでおり、本体が見えない。
相手の周りの黒い霧が変形し、ぼくのと似たような形の刀に変形する。
きっと、これは見えない刀を作る能力だろう。でも、ぼくには見えてしまう。これに当たってみたらわかるだろう。刀がもしダメージを与えてきたとしても死なないように少しだけ避けて、右わき腹をかすめるくらいの位置に動いてみる。
刀が当たった感触はある。しかし痛くない。先ほどと何も変わりない。
じゃあ、もうこいつは用済みだな。
日本刀を相手の首に合わせて振りぬく。後ろで、相手が倒れた音が聞こえる。首が吹っ飛ぶとまではいかなかったっぽいが、初めて使うにしては上出来な振りだったと思う。
「よし、何とかなったよ」
比奈に話しかける。
「ねぇ、凛、何で今さ、死ななかったの?」