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50話 ケジメ


「比奈を殺す」


 真奈がそう言い、比奈の方を見ると、比奈の右手にぼくのナイフが刺さっていた。比奈が直接攻撃を受けるのは珍しい。けれど、すぐに微生物で治せるはず。


「凛、さっき比奈とよさげな雰囲気だったけど、私の方についてくれるよね?」


「真奈がずっと前からついてきてたことは知ってた。だって、GPS入れてたでしょ?」


 真奈も比奈も一気に理解できない発言をしているため、処理が追い付かない。

比奈はポケットから小さい機械を、きっとGPSだけど、出しつつそのまま話を続ける。


「ほら、凛、潔と出会った日の夜覚えてる? なんかガサガサって聞こえてきたから、チェックしたらこれが出てきたの」


 比奈が潔の話題を自分から持ち掛けてきた。そういえば、潔を殺した理由もまだ知らないままだけど、まったく後悔や躊躇がなかったことだけがうかがえる。


 というか、GPS、ぼくにも入ってるのかな。ちょっと探してみるが、見つからない。


「私、GPSわざと持ってたし、倉庫に火をつけれそうなもの沢山用意しておいたから結局上手いこと言ったんだけどね」


 比奈は全てを見通していたように話す。


 比奈は刺さっているナイフを静かに抜こうとするが、刃の部分が欠けていたせいか、抜くのに少し手間取る。


 赤黒い血のせいか、刃が怪しく光っているように見える。


 比奈の傷口はまだ塞がらないままで、左手で傷口を押さえている。


 真奈がぼくに近づいてくる。


「はい、これ返すね」


 そう言って、糸のついたナイフをぼくに差し出す。


「凛、悪いのは全部比奈だから、凛は関係がないの。私ね、凛のことは嫌いじゃないの。むしろ好きな方」


 真奈がよく分からないことを言いだす。


「いや、そういうわけではなくて、つまり、そこをどいて欲しいってことなんだけど......」


 ぼくが黙っていると、真奈が付け加える。


 ぼくは、右に2歩、気づいたら動いていた。


「ありがと」


 真奈が小さく言って、ぼくの隣を通ろうとする。


 不思議なくらい、真奈はゆっくりと歩く。比奈はそれを見極めようとしているのか、じっと止まったままで、不思議な均衡状態が保たれている。


 その均衡状態は突然に破られていた。


 一番その状況を把握できていないのはぼく自身なのだ。ぼくに覚えはないのに、いつの間にか真奈の脇腹にぼくがナイフを刃が見えなくなるまで差し込んでいる。


「え......?」


 真奈が驚きを隠しきれずに声を漏らす。その口の右端から血が滴る。しかし、


「凛は私に、もっとはやく比奈のところに向かえって言ってるのね! 分かった!」


 真奈のテンションが明らかに異常だ。


 真奈はぼくのナイフが刺さったまま、走っていく。比奈は、戦う気がないのか、怖がっているのか、真奈と同じ速度で後退する。


 っていうか、比奈は何の武器も持っていないし、微生物を出そうともしない。それに、刺された右手もそのまま血が流れている。


 助けに行かないといけない、その感情があるのは確かだが、ぼくはもう今日は殺してしまったから、ミスって死んでしまうのは避けたい。


 比奈の後退速度が遅くなっているように見える。比奈の加勢をしないと。


 ぼくは重たい足を動かして、真奈と比奈の距離が1メートルを切ったあたりでやっとその間に割って入り、真奈の喉の手前にナイフを止める。


 しかし、真奈に止まる素振りがない。

危ない。ぼくはナイフを急いで下げる。


「あれ? 私を殺しにきたんじゃないのー? いいよ、凛がそうしたいなら、そうしてくれても」


 ぼくはこの言葉を全力で疑いたかった。だけど、どうしても嘘が感じられない。


「じゃあ、今すぐ比奈を攻撃するの、やめてくれる?」


「それはやだ」


 比奈をチラリと見るが、戦う意思がなさそうだ。


「だって、比奈を殺すことは私に残された2つのうちの1つだから」


 問い返すのが分かったのだろうか、真奈は自分から話し始める。


「私の弟を殺したのが比奈だから」


 ぼくは急いで記憶を遡る。すると、一つ思い当たる節があった。


 違う血液型の血を入れられて殺されたあの少年のことではないだろうか。あんな小さい子が普通一人で生き残れるはずがないのだ。


 それを見ていたのだろう。

でも、その場で攻撃してこない辺り、やはり頭が回るのだと思う。


「私、大切なものをもう無くしたくない。比奈に凛が殺されるっていうのなら、その原因を断つだけ」


 つまり、真奈の行動理由はぼくを生かすこと。

ただ不意打ちで真奈を殺すのは簡単だけど、ぼくの中でそれは違うという感情が大きく現れる。


 比奈と重ねているのかと言われれば重ねているし、そのままスッと殺すのは躊躇われる。だけど、戦って勝ったならそれがケジメだと思う。


 多分それがぼくの心に傷を残さない。


「ね、比奈、ナイフ持って」


 ぼくは自分のナイフを渡す。


「こっち向けて」


 比奈は言った通りにナイフを構える。


「真奈、ぼくは真奈の思惑は知らない。だから、死んじゃうね。バイバイ」


 ぼくは比奈の持つナイフの方に倒れる。


「ダメ!」


 真奈がぼくを押し飛ばす。

ぼくは床に打ちつけられる。


「いたたたた、まったく。死なせないってことは真奈が殺してくれるってことだよね?」


 ちょっと棒読みになった。いや、めっちゃ棒読みになった。セリフが痛い気がする。


「分かった。正々堂々、凛と戦いつつ、比奈を倒すよ」


「こっちも本気でいくからね」


 よし、これで真奈と心残りなく戦える。




 でも、それより心配なのは比奈の方だけど。

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