47話 必殺
私は火を後ろに見ながら、ファミレスのドアの方にゆっくりと向かう。集中して戦っていたからあんまり気づいていなかったけど、傷がさっきよりも開いている気がする。心なしか、頭もフワフワとしているような......
「あなた、どこに行くつもりなの?」
比奈が話しかけてくる。
「どこって、外だけど」
「殺した人数、見てみたら?」
言われた通りに見てやることにした。
左手を触って画面を出してみると、殺した人数が増えていない。
おかしいな。あの火の中だったらもう死んでてもいい頃だと思うんだけど。
目を閉じて、能力に集中する。抵抗の大きさを感覚で判別してみると、火の中から2つの立っている人間と1人の座っている人間の反応があった。後は、沢山の地に伏している死体。
火の中にも関わらず立っている奴らは火が無いみたいに普通に動いてるっぽい。何が起きているかは能力では把握できない。
そだ。油を使って火力を増してみよう。
油はドア横に置いてきているから、さっさと取って戻ってこよう。
戻ってきた。
ごま油を2本ほど持ってきて、瓶ごと火の中に投げ込む。1本は奥まで、もう一本は火を通りすぎて少しのところに届くようにする。
そろそろ地面に着いて割れるはず。
一つ割れた音が聞こえてくる。けれど、中の液体が地面にそのままこぼれたような音が聞こえる。おかしい。もしかすると、火が消えてる?
不意に火に穴が開き、その火をまといながら風が飛んでくる。すると、緑色の壁が目の前に現れ、その風を食い止め、球体に変化する。
比奈が私の近くに来て、その球体を回収する。
「今から、しばらく守ってあげられないから、頑張っといて」
何か上から目線な感じが気に食わないが、確かに私は負傷者だから妥当と言えば妥当かもしれない。
男の本体は何やら、比奈の方を見ている。それはいいとして、分身2の処理をしなければいけない。本体は、分身2の能力のせいで攻撃できないし。どうして、分身2は動かないのかな。あいつが私とかに近づいてきたら、どうしようもないのに。
というか、本体と分身とで全員中身が違うような印象があるが、それはどうしてなんだろ。普通、分身しても、同一人物になるが自然だと思うんだけど。私は、そこに能力の、特に分身の秘密が眠っている気がしてきた。
私の横を風が通り抜ける。今、考え事中なのに。
分身1が通り過ぎる。
あれ?
右手に切り傷がついている。
分身1が蹴りを二回連続でしてくるが、さっきよりも遅い。一回目を避け、二回目を右足で受けようとするが、第六感がそうすべきでないと言っている気がしたから、足をそらして避ける。
男の蹴りはそのまま地面に着く。すると、タイルであるはずなのに結構深めにチェーンソーで軽く触れたような傷がつく。
きっと攻撃を右足で受けていたら、右足は私の制御を失っていただろう。
風を移動に使うのではなく、攻撃に使えるようになっている。それにしても、なぜ比奈のほうを攻撃しないのかが疑問だ。隙だらけなのだから、普通に考えたらそっちを狙うはずなのに。
でも、分身1と長期戦をしていると、競り負ける。さっきの攻撃も避けていても、右足に切り傷がついてるし。
じゃあ、無茶するしかないよね。
分身1の攻撃をすれすれで避ける。腹部を狙った攻撃は私の傷をさらに深くする。けれど、こうでもしないと私への負荷がもっと大きくなる。
何も持っていない左手で弱々しく分身1の胸の中心に触れる。すかさず、男の胸から受ける抗力を0にする。すると、ずぶずぶと左手が男の体に入っていく。ただ、これだけでは私が幽霊になったみたいにすり抜けてしまうだけ。
左手が分身1の背中から出てきたのが見えた。今。
私は能力を解除する。その瞬間左腕がプレス機で潰されるよりもはやい速度で潰れたことが分かると同時に頭の中に、痛い、という感覚だけがものすごい速度で回り始める。
その痛覚に上書きするように、黒い血が生臭く私にかかる。
黒い血が目に入らないように目をつむり、再び開けると、そこには死体はなく、見渡しても分身1は消えていた。
それで安堵するとともに、私の視界が一瞬暗転する。そして、次に視界が開けたときに見えてきたのは、学校でイキリ散らす、分身1の姿だった。