45話 有効打
私は吹き飛ばされた。が、能力で風から受ける空気の抵抗をすぐに下げて、近くに降り立った。そして、今はファミレスの下にいる。
凛のところに今すぐ戻ったとしても、きっと事態は好転しない。そう判断した。
ファミレスの一階は駐車場になっていて、厨房の真下のあたりには倉庫がある。倉庫になら何か便利なものを見つけられるはず。スタンガンがなぜか効かないあの男に有効なものがあればいいのだけれど。
倉庫のドアノブの少し上に右手を当て、能力を使用して穴を作り、ドアの鍵を開ける。
中に入ってみると、主に食料が置いてある。ファミレスに不可欠なチーズから、ソフトドリンクの素やら、ごま油など調味料。
油系統は使いやすいから、とりあえずもらっておくとして、あの男を凛が倒すのを手助けするためには、どうすればいいかな。
そういえば、さっき外にプロパンガス大量に置いてあったな......
そだ。それを倉庫に充満させて、倉庫の天井に穴を開けておけば、不意打ち攻撃ができる。
倉庫から油類を取り出して、天井に能力を使って、小さく穴を開ける。
プロパンガスの入った容器の栓を開けて、ドアを閉めようとした時に小麦粉の袋が目に入ったけれど、敢えて触れないことにした。
こっちでやることは終わったかな。
それじゃあ、店内に戻って凛の援護をしよう。
倉庫からもらった油類は、店のドア横に置いて、使いたくなったら取りに来ようかな。
ドアを音をたてないように慎重に開けるとともに思っていたよりもずっとずっとずっとずっと悪い状況であることが分かった。
比奈とかいうのが凛を刺しているのだ。倒れた凛からはトロトロと血が流れ、タイル状になっている地面の凹みに沿って放射状に流れ出ており、左手には、大砲でも受けたのかというくらいにぽっかり穴が開いている。
まただ。
私は静かに、近くに転がっている多数の死体にたかっているハエやらが飛べなくなるくらい、氷の魔導士にでもなったかというくらいに殺気を放ちながら、比奈に近づいていく。
比奈まで後1メートル。そこで私は凛の手から零れ落ちたナイフを手に取り、振り下ろそうとする。その時、奥にいる男からの視線を感じた。
私はナイフをピタッと止めて、男に向かって投げる。
いとも簡単に弾かれてしまったが、こうするべきのはず。きっと凛ならこうするよね。
一瞬目が湿りかけたけれど、目を腕でこすって再び乾かす。
「比奈、だったっけ。共闘しましょ」
比奈にそう持ち掛ける。今、感情に任せて比奈を殺したら、男にその後でやられるのは間違いのないことだ。それでは何もうまくいっていない。
それに、比奈は今日、殺せないのだから、男の方に着くか、私の方に着くかの二択のはずだ。
どちらに脅威があるかと比奈が考えたとき、きっと男を脅威に思うはず。
「ええ、そうね」
その後に比奈は少し付け加えてきた。
「裏切られても知らないけど」
怖いジョークだと澄ますことはできないが、どうしようもできないから、聞き流そう。
「比奈、私が前に出るから、後ろから援護お願いね」
男にも聞こえるように言いながら、地面の摩擦力を下げ、近くにある机を蹴って滑り、反対側の机に向かって滑っていく。再び、机を蹴り、それを繰り返しながら加速していく。
そろそろいけそうかな。
私は手で机を掴んで向きを変え、高速状態のままで男の方に直線的に向かっていく。途中にある椅子とかは能力で通り抜けられる。椅子に触れた瞬間に、分子の結合力を小さくしてやれば、一瞬液体のようになる。
後ろから比奈が、緑色の矢を班ったのが見えた。ちょうど私の右上を同じ速度で飛んでいる。
なるほど。約0.5秒後に男を攻撃するが、スタンガンよりよっぽど強そうだ。
瞬時に私は持っていたスタンガンを捨て、矢を握り、姿勢を少し変えて回転する。
そして、その矢は男を貫通し、男からたくさんの血が飛んできて、私は血まみれになった。
......あれ?
なんかぼんやりとするな......
男から浴びたはずの血の半分は私のものだった。