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44話 嘘まみれ

 比奈が元から殺人鬼?


「比奈? こんなのただの出まかせだよね?」


「う、うん......」


 明らかに動揺している。となると、本当にそうなのだろうか。


「その女は殺すことを楽しんでしかいない。生粋の殺人狂でしかない」


 先程よりもさらに強い言葉で男は断言する。


「きっかけは6年前の時、その女は公園で遊んでいた時に突然誘拐犯に連れ去られた。そして、連れ去られた先で隙を突いて、誘拐犯を縄跳びで絞め殺したこと」


 詳しめに男が話し始める。


「やめなかったら、今すぐ殺すから」


 比奈は臨戦体制に見えるが、いつもの冷静さを欠いていると感じられて仕方ない。


「その事件以降、その女は正当防衛を装って......」


「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて」


 比奈がやめてという言葉を叫び続けながら、微生物の矢を乱射し始める。


 しかし、冷静さを欠いた矢が当たるはずもなく、男に軽々とかわされる。


「比奈、一旦打つのストップ」


 比奈の方を向いて、優しい口調で話しかけるが、比奈に止まる気配は全く感じられない。


「もう一回言うけど、ストップ!」


 聞こえなかった可能性も含めて声を張り上げる。


 比奈は未だに「やめて」を繰り返しながら矢を放っている。


 仕方がない。これで止まらなかった場合はもうどうしようもないが、とりあえずやるか。


 ぼくは左腕を飛んできている矢に向かって伸ばし、比奈の矢を骨まではやられないように、少し調整しつつ肘の関節近くに当てる。

それと同時に、ナイフで切られたり、銃で撃たれたり、高いところから落とされたりといった痛みを全て上書きしてしまうくらいの激しい痛みに襲われた。


 ぼくにそれを堪えられるほどの忍耐力は備わっていないため、50キロ先の人にも聞こえそうなくらいに大きく叫ぶ。


 もちろん、それを想定しての行動だ。


 すると、比奈の声がぼくの叫び声で上書きされたかのようにして、止んだ。


 左手にずっと電流が流れているかのように、ピクピクと腕全体が痙攣している。抉れた部分は骨が薄らと見え、血がダラッと垂れた腕をつたい、指先から途切れることなく流れ落ちる。


「え......!?」


 比奈が珍しく驚きの反応を見せる。


「なんで......!?」


「なんでもなにも、撃ったのは比奈でしょ?」


 冷たく言う。


 風を切る音が聞こえて来る。


 すぐさま右手でナイフを逆さ持ちして、男の攻撃を弾き返す。


「あのさぁ、今大事な話してるわけよ。常識ないの?」


「常識があったら生き残ってないという話をしてやろうか?」


 男が切り返して来る。


「で、比奈が嘘をついてたのは知ってたわけなんだけど、どこまでが嘘だったのかだけ教えてくれないかな? 見当はついてるんだけどね」


 男は連続でナイフを死角から振って来るのだが、なぜか攻撃が来る方向が見えてもいないのに分かる。


 今は右上。次はまっすぐ。ノールックでぼくは比奈に喋りかけながら全ての攻撃をいなしている。


「ねぇ、比奈、後10秒待つからそれまでに言って」


 比奈は何を考えているのかもわからないくらいに放心しているように見える。


 急に背後の攻撃の気配が変わった。左から右に水平な攻撃だということは分かったが、認識とほぼ同刻にすでに負傷している左腕に男の包丁がガキンと音を立てて当たる。

ぼくのむき出しになっている骨が悲鳴をあげるかのように震える。

流石に骨は切られなかったため、表向きな負傷はないが、左腕を中心として石化が波及するかのように全身が一瞬硬直する。


「おいおい、後ろ向きで俺をあしらえるとか、世界一になったつもりか?」


「どうせ、ぼくが生き残るだけなんだから、世界一で何か間違ってるか? ただ、最後に戦うかどうかの話だろ?」


 そう言いつつ、流石に後ろ向きで戦うのはリスクが高い。


「ほら、これで満足だろ?」


 男の方を向いて見下すような目で男を見る。


「比奈、もう10秒経ったから言うけど、ぼくに守って欲しいっていう辺りの言葉が全部、完全に嘘なんでしょ? それに、その後も嘘だらけ。友達なんてほど遠い。あまりにも遠い」


 比奈は何も発する様子がない。

ぼくはさらに続ける。


「もう少し待っといてくれたら、相手になってあげるさ」


「だから、俺を無視すんなって言ってるだろ?」


 語尾が少し高くなっており、怒り具合がうかがえる。


「ああ、そうだったな。今はお前を殺す番だったよ。順番抜かしは気に食わない?」


 さっきと同じ攻撃の気配がする。ということは、早めに構えておくべきだということになる。

ナイフを左手近くで鉛直下向きに構える。


 ゴオッと風の音がして、見えるか見えないかのギリギリの速度で包丁が僕の左手めがけて振られる。


 構えていたナイフと包丁がぶつかって、何とか包丁をはじき返すが、こちらのナイフは右手から離れ、宙を舞う。目の前をちらっと通ったナイフを見ると、ナイフが深く欠けているのが分かった。


 さらにぼくはバランスを崩し、受けた攻撃の反動で少し回転する。その時、まず初めに男がにやりと笑みを浮かべているのが見えた。そして、その後、比奈が視界に入る。比奈はぼくに近づいてきている。赤い微生物のナイフを持って。


「そう、全部全部嘘嘘嘘嘘。待ってなんてあげないから。殺してあげる」


 そして、比奈はぼくにナイフを振り下ろした。

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