40話 究極奥義
なのだ......?
そんな言葉遣いをしたことは当たり前だが、ない。
「え? どうしたの?」
真奈が心配そうに聞いてくる。
「いや、なんでもないよ」
今は普通に話せている。
「何かの夢でも見てたのかな? 目覚めてすぐだったし」
真奈は話を続ける。
「そうだ。こっちは契約守ったから次は凛が私の頼み聞いてよ」
「誰か殺したい相手がいるんだっけ?」
「そだよ〜」
「それは誰?」
真奈はぼくを指差して、
「君」
もし、真奈が比奈なのであれば、あり得るかもしれない。ぼくはナイフを構える。
「なんてね」
真奈は小さく笑う。
「まったく......なのだ」
まただ。もしかして、リーザが精神を少し侵食してる?
「あははは......」
真奈は呆れ笑いをしている。
「で、本当に殺したい相手は? 冗談は無しで」
「長身で、髪は長め。目つきが少し悪くてメガネをかけてる」
「それだけ?」
「後、めちゃくちゃ強い」
「情報少ないけど、探せるの?」
本当にそいつを殺したいのか疑わしいレベルの情報の少なさにただのでっちあげではないのかと思っている。
「もちろん。あいつは、全く移動しないから、前見た場所にいる」
移動しなくても殺し続けられるというのは、何かしら裏があるはずだ。
「じゃあ、今からそこに向かおうか」
「案内するからついてきてー」
真奈の言う通りに後をゆっくりとついていく。
10分くらい歩くと、二階建てのファミレスの前で真奈が立ち止まった。そのファミレスは周囲の建物と比べて異様に外観がきれいだ。基本、どの建物にも赤、もしくは黒い血がついているのだが。
「ここだよ」
まぁ、そうだろう。
ぼくはファミレスの中が見えないかと観察していると、一瞬ファミレス全体に黒い霧がかかったように見えた。がすぐにすぐにその霧は消える。
間違いない。今までで一番強いことが会ってもいないのに感じられる。
まっすぐとファミレスに入っていくのには抵抗がある。
「もしかして、入るかどうかで戸惑ってる?」
真奈がさっさと入ればいいのにと態度で表してくる。
しかし、やはり入る前に少しだけ様子を把握したい。
どうにかして窓を割ろうと考えるが、近くに窓を割れそうなものは転がっていない。ナイフを投げれば割ることはできるが、いろんな家を漁って集めてきたナイフも残りが多いわけではないため窓を割るためだけに消費するわけにはいかない。
そうだ。長い糸を用意すればいいのだ。
「真奈、はいてるズボン少しだけ切ってもいい?」
「分かった」
真奈は右足側のズボンを10センチほど破って、渡してくれる。
ズボンの生地が合成繊維でなくてよかった。もらったズボンの破られているほうからは何本か糸が出ている。これを引っ張ってほどきながら糸を伸ばしていく。そして、糸が切れたら別のほどけているところから糸を取る。それを繰り返していくと、少し太い3メートルほどの糸ができた。
結局、10センチのズボンでは足りず、真奈のズボンが長ズボンから七分丈になってしまった。
作った糸の片方をナイフにきつく結びつけ、もう片方をぼくの腕に巻き付ける。そして、やっとナイフを投げて窓を割ることに成功した。
投げたナイフを回収すると刃に黒い血がついている。いったんふき取って、もう一度別の窓を割ると、また黒い血がついている。どうやらファミレス内には多く黒い血が流れているらしい。
黒い血に気を取られていたが、中から小さく戦っている音が聞こえてきている。すでに目的の人物と誰かが戦っているのかもしれない。
混乱に乗じて戦いに行けば、交戦中の人を含め、3対1で目的の相手を倒せるかもしれない。と思った矢先、戦闘音が止んだ。
ぼくは状況を把握すべく急いで外階段を登り、ファミレスに入る。
店内は暗かったが、厨房の方は明るかった。厨房には立っている男と、追いつめられている女がいるのが分かった。
厨房に近づこうと2歩ほど進んだところで気づく。
追い詰められているのは比奈だ。
今しかない。
ぼくは究極奥義を発動した。