4話 違和感
「比奈?」
「大丈夫」
「そんなはずないよ」
だって、右足がなくなってるじゃないか。しかも、女にはたくさんの返り血がかかっている。
そんなことを思っていると、
「な、なにこれ......」
女の声だ。女の体の一部、返り血を浴びた部分が、白く変色している。
「明日には死ぬけど、これからどうしたい?」
見間違いか、比奈がニコニコしているように見えた。
女の先程まで白く変色していた部分が黒ずんできている。どうやら、嘘ではなさそうだ。
それを悟ったのか、女は壊れた。
「あははは。それなら、殺し放題なわけね。今日は。もちろん、最初はあな......た......」
女が倒れ、動かなくなる。おそらく気を失ったのだろう。
「あなたって誰でしょう?」
比奈は倒れた女をさらっと煽る。
「さぁ、あなたたちはどうする? 今なら逃がしてあげてもいいけど」
他の奴らは一目散に逃げていった。そんなにすぐに死にたくないのだろう。ま、当然か。
「ふぅ」
比奈が取れた右足を拾い上げる。
「よいしょ」
「え?」
比奈の右足が何事もなかったかのように元通りになる。
「な、なんで?」
「能力を使ったの。微生物で、血を止めて、一旦右足を切り離しておいたから」
何を言ってるんだろうか。脳の処理が追い付かない。
「それじゃあ、あの女についた血は?」
「あれは、カビ。くっついた所を腐らせる。というか、あの女の能力だったら、足は破裂してるでしょ? まさか、能力把握できなかったわけじゃないだろうから、分かってると思うけど」
冷静な状態で推察してみる。気圧を下げていることはわかった。女が触れたら死体が弾け飛んだ。なぜ弾け飛んだのか。それは簡単だ。女は、自分に近い所ほど気圧を下げられるのだろう。比奈が能力を使っていなければ、右足は弾け飛んでいた。気圧を下げれば、体の内部の気体の圧力、力として数値にすると、10トンもの力を受ける。結果、弾け飛ぶ。こういったところだろう。
たしかに、比奈の右足は、右足だと認識できた。その時点で気づかなければいけなかったのだ。なるほど。
「その顔はわかった感じ?」
「あ、うん」
「なら良かった。これからも頑張ろうね」
こんな会話をしている時に、ふいに疑問が浮かんでくる。比奈ってこんなに饒舌だっただろうかということ。
そして、もう一つ。10秒ずれているはずなのに、会話が連続していることに。
「ねぇ、比奈?」
「なーに?」