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39話 融合

「おじ、おはなのだー!」


 間違いなくリーザの話し方だ。こんな話し方、戦っていた時は一回もしていなかったが。


「リーザちゃん、今日も元気やねぇ」


 優しそうなおじさんがオリーブを取る手を止めて、リーザの方に向く。


「今日はサーフと鬼ごっこ!」


「ほんとに仲いいねぇ。それなら、早くサーフ君のところに行ってきなさい」


「んー。サーフ来るの早いからなぁ。それじゃあ行ってくるのだ!」


 リーザは走ってオリーブ畑を抜ける。

しばらく走っていると、畑の端っこまで来たところで、周りの家と同じくらい真っ白な服を着ているサーフがいる。強い日光を浴びている服から、サーフの性格に一点の汚れも無いことを表しているように感じられる。

今更になるが、オリーブ畑と石造の真っ白で豆腐のような見た目の家があるというところから、地中海の村なのだろう。


「サーフ、やっぱはやいのだー」


 リーザは走ったにも関わらず、息を切らす様子もなくサーフに話しかける。


「いや、リーザが遅れてきてるだけだよ」


「なのだー」


「どゆことさ」


「なのだーなのだー」


 リーザはただのアホの子らしい。


「とりあえず、今日は何しよっか」


「鬼ごっこなのだ!」


「じゃあ、ぼくが鬼をするよ」


 その言葉を聞くとすぐにリーザは駆け出し、サーフがカウントを始める声は2、くらいから聞こえなくなってしまった。


 リーザはオリーブ畑を右へ左へと曲がっていくが、ぼくにはずっとオリーブの木が並んでいるだけに見えるくらいに入り組んでいるようだ。


 そのままいつまでもリーザが走り続けているうちに影が伸びていた。


「リーザー? リーザどこー?」


 サーフの声が近くから聞こえてくる。


 しかし、リーザはその声を無視して走り続ける。


「リーザの勝ちだから出てきてー!」


 サーフが大声で叫ぶ。すると、リーザは方向を変えて声の聞こえる方向に走っていく。


 2回ほど角を曲がった先にサーフがいた。

相当疲れているように見える。が、それもそうか。3時間くらいに渡る鬼ごっこで一度もリーザの姿を見ることなく鬼をしていたのだ。正直かくれんぼをしていたのに誰も見つけられなかったのと同じで、精神的に参ってしまうのも無理はない。


「リーザ、よく迷わずにここ走れるよね......」


「1年もここにいたら覚えたのだ!」


「10年住んでてもぼくは覚えられないんだけどなぁ......」


 どうやら、リーザが異常なだけらしい。


「ねぇ、リーザ、明日は何して遊ぼっか?」


 聞いたことがある。やはり、前回見ていたのはサーフの記憶で間違いなさそうだ。


「あたいはね、かくれんぼがしたいのだ!」


 今日もかくれんぼをしていたようなものだったけれど。


「そうしよう! 今日は遅いから、また明日!」


「明日なのだ!」


 サーフの背中に向かってリーザは手を振っている。背中の白い服は透けるくらいに汗で濡れていた。


 リーザはサーフが見えなくなると、その場に寝転び、そのまま目を閉じてしまった。

リーザの記憶を見ているため、何も周りの状況が分からない。


 けれど、そろそろあの声が聞こえてくるはずだ。


「これから、この星で......」


 やはり同じ内容。

説明が終わった後で、白い光に包まれているのかもしれないが、リーザは未だに目を閉じているらしい。


「死せる者よ。我が贄となりて、有うべき力を顕現し、歪めよ」


 小さくリーザが呟く。


 再び周りの光景が見えるようになった時には、視界は真っ白だった。

きっと白い部屋に着いたのだろう。


 リーザは落ち着いた様子で立ち上がる。その時にサーフが話しかけてくる。


「あ、サーフもいたんだ」


 サーフはたどたどとしているが、リーザは先程と打って変わって冷静そうだ。

少しすると、サーフは近くにいた人を殺した。

そのあと、リーザは詠唱を開始する。

サーフの後ろの部屋の隅で少年が黒い塊になった。ということは、9月11日0時なのだろう。さっきまで16時だったから、7時間くらいの時差があるのだろう。


 リーザは黒い塊を確認した後に、サーフの方に近づきつつ詠唱を開始する。


 その時、異変が起こった。塵のようなサイズの黒色物体がリーザの手に集まってくるのが見える。

詠唱が完了すると同時にその塵はサーフの頭に入っていく。

すると、サーフは血が抜けてしまったかのように青っぽくなって倒れてしまった。


 ここから先に何があったのか、それが重要だ。


 ん?

部屋の隅にあったはずの黒い塊がなくなっている。


 リーザは急に上半身を右に傾ける。


「殺す、殺す殺す殺す」


 包丁がリーザの左側を通過する。

リーザは左足を軸にしながら右足を低く半回転させる。


 包丁を振ってきた相手は軽い音で跳び、蹴りを避ける。その相手の顔が見えた。

あの優しそうなおじさんだった。


「殺す殺す」


 リーザは足元に転がっている、首が直角に曲がった死体から流れ出ている血を少し指に付けて、左手の甲に何やら円形の何かを、きっと魔法陣だろうけれど。


 書き終わると左手の甲に黒い霧が集まってくる。前方から霧が飛んできているだけでなく、下方からも飛んできている。その黒い霧は集まってくると凝集して鞭の形に変わる。

鞭を一振りすると、おじさんの腹部がまるでダルマ落としかのようになくなってしまった。

リーザがさらに鞭を二振りほどすると、おじさんのいたところには赤い液体が少し浮遊しているだけになってしまった。


 その後でリーザは近くにいた人間を詠唱によって一人だけサーフと同じように倒し、サーフのところに引きづっていく。そして、サーフにおじさんが持っていた包丁を握らせて倒した人間をその上にのせて刺し殺す。


 もしかして、サーフは生きていて、サーフに殺させている?


 しばらくして、1日が経った。サーフが黒い塊になる様子はない。

そこからはリーザは同じことの繰り返し。一人殺して一人はサーフに刺させる。


 3日ほど経つと部屋にはリーザとサーフしか生きている人がいなくなった。

気づくと視界に少し黒い靄がかかったようになっている。


 リーザはサーフの持っている包丁を取り、それをサーフの方に向ける。そして、刺そうとするが胸の直前で包丁を止めてしまう。それを繰り返し、リーザは立ち上がり、サーフに背を向ける。そして後ろに包丁を投げる。

しかし、包丁を投げた後でリーザはサーフの方を向き、包丁に手を伸ばすがそのまま包丁は勢いよくサーフを殺めた。


 その直後、リーザから涙がこぼれた。


「ごめん......なのだ......」




 ゆさゆさと体をゆすられている。

目を開くと真奈の顔がドアップで見えた。

心臓が高鳴る。


 そうか、現世に戻ってきたのか。


「あ、やっと起きた。動かなくなったからびっくりしたよ」


「大丈夫、なのだ」


 ......え?

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