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38話 勝利


 死を受け入れたぼくにやることはない。それなのに、心臓は少なくなってきた血を送るべくより速く鼓動する。周囲が真っ暗のため、生きてるのかどうなのかも分からないが、まだ死線は越えていない。


 あれ......?

不意に何かを忘れているという感覚だけが訪れる。


 最後まで一緒にいたい。


 そうだ、そんな死亡フラグを立てたことがあった。

そっか。ぼくはまだ死ねないんだ。このフラグが回収されるのは比奈と生き残った時だと決めたはずだったのに、なぜ今諦めかけてしまったのだろう。


 遠くに離れていってしまった比奈を引き戻そうとするように、自分の心の深くに残り続ける自分を呼び起こす。


 思考が今までにないくらいにスッキリとしてきたので、リーザの能力を把握すべく記憶を辿る。


 一つまだ引っかかっていたことを思い出す。リーザが白い部屋で消えた時、詠唱をしていなかったことだ。

あれはきっと白く魔法陣が書いてあったのだろう。そして、魔法陣を使っていた2回とも強大な技が出ていた。

そこから考えるに今も魔法陣を使った後なのだろう。


 記憶を呼び起こしていくうちに黒い血の謎が少し解けたような気がする。黒い血には精神を侵食する作用がある。ぼくが白い部屋で気を失う前に聞こえた言葉、真奈が気を失ったときに発していた言葉は一致している。そして、サーフの記憶が見えたということはきっと黒い血はサーフのものだ。


 さて、今の状況を打破するにはどうすればいいのだろう。黒い血に対抗する何かしらの手段が必要だ。自分の持っているものの中で可能性のあるもの......


 ライター。

いつの間にやらポケットに入っていたやつだ。液体の血に対して火が効くのか、そう考えてみれば微妙だが、これを使えと言われているような気がする。


 ライターを右手に持ち、カチッと銀の部分を回す。

あれ? 火がつかない......


 再び火を点けようとしてみる。銀の部分を回している途中で、銀の部分がライターの内側に落ちてしまった。


 気づくと手にライターの中の液体が付いている。なんかヌメヌメして気持ち悪い感触だ。

どうやらライターが割れているらしい。

その液体が黒い血の上に滴り落ちる。すると、一瞬茶色のタイルが見え、また黒くなった。


 これ、もしかして火を付ける用途じゃなくて、黒い血に対抗する手段......?


 そう思ったぼくはライターのようなものをリーザに向かって投げつける。

投げたライターはリーザに向かって水平に飛んでいく。

水平? どういうことだろうか。先程は液体が滴り落ちていたはずだ。

ライターがリーザの顔にぶつかると同時に割れる。


 しかし、割れたライターからは何の液体も出てこない。

もちろん、黒い血は消えない。


 いや、これで合っているかもしれない。ぼくはナイフを二つ取り出し、その内一つを上空に軽く投げる。そして、もう一つ持っているナイフを空中にあるナイフに打ちつける。


 小さな光の後、その光が一気に広がり、周りが真っ白になったかと思うと、黒以外の色が見えるようになった。


 黒い血を乗り切ったみたいだ。

目の前にはリーザが息を切らせてフラフラとしている。


「死せる者よ。我が贄となり......」


 リーザがまた詠唱を始める。


 しかし、こちらも元気に動けるほどの力は残っていないため、止められない。

リーザの詠唱が終わる。


 ......何も起こらない。

それなら、ただの少女だ。ぼくはナイフでリーザの喉元を掻っ切る。これで詠唱不可能だ。

リーザは両手を前に出してバタバタと暴れる。


 ぼくはナイフを真っ直ぐリーザの胸に刺す。


 なぜかリーザからはほとんど血が飛んでこない。

まだ何か策を隠しているのかと思ったが、リーザはまったく動く気配がない。


 プロフィール画面を開いてみると、


殺した人数 8人


 となっている。

増えてる。ということは......

安堵と共に疲労感が重力が10倍になった時くらいに一気にのしかかってきて、ぼくは地面に倒れ込む。

背中にチクリとした痛みを感じる。右手で触ってみると、無色透明なガラス片が出てきた。

無色? さっき見た時は緑色だったのに。中身が緑色だったのか。なぜ緑色なのだろう。


 緑......

ミドリムシ?


 ほんとにそうなのか? いや、ミドリムシを液体化しても、高速で揮発はしない。

というか、揮発するミドリムシだとしてそんなことが出来るのは比奈しかいない。

けれど、ここに比奈はいない......


 起き上がると、真奈が近くに倒れていた。

真奈? もしかして比奈なのか?

そう考えれば色々なことが自然に繋がる。そもそも、世界中に3人は自分に似た人がいるというが、そんな偶然が起こるはずもなく、手助けをすること自体が無駄なことであるはずの今の状況でぼくを助けてくれるとしても比奈だけだ。


 しかし、比奈はぼくから昨日離れていったところなのだ。そうだ、本人に聞いてみよう。


 近くでうつ伏せに倒れている真奈......比奈の背中を手で揺すって起こす。

起きた直後でぼんやりとしている可能性のある今なら、何か分かるかもしれない。


「ねぇ、フルネームで名前教えて」


 ぼくはゆっくりと上半身を起こそうとしているところに問いかける。


「......みつき真奈」


 クラゲみたいにふにゃふにゃとした声で返答が来た。

かろうじて設定を守ろうとしているのだろうか。ただ、特殊な名字が出ている時点で間違いなく比奈だ。しかし、詮索しまくっていることがバレて嫌われてしまったりするのは困るので、真奈と呼ぶことにしておこう。


「......れで何でいきなり名前なんか?」


「しばらくの間、洗脳されてたみたいだから、記憶がちゃんとあるかなーって」


「え、洗脳されてた? 確かに、あまり何も出来なかったような気がする......」


 真奈の声が起きた直後よりもハッキリとしてきた。


「いや、何とかなったからまぁ大丈夫」


「でも、右手が大変なことになってるよ」


「何で右手?」


 絶対左手の方が酷いことになっていると思うのだが。

そう思いながら左手を真奈に見せる。


「だって、左手全然問題なさそうだけど」


 そういえば、左手は動かないレベルでボロボロになったはずだ。

でも、なぜかボロボロのまま動くようになっている。しかも、痛みはない。

やはり、目の前にいる真奈は比奈なのだろう。


「12時だよ」


 真奈が教えてくれる。

なかなかに危なかったようだ。

ぼくはプロフィール画面を開く。生存者数が125万になり、ポイントは144ポイントになっている。これが多いのか多くないのかはまぁどうでもいいだろう。


 さて、サーフの記憶を見た時に一つ気になることがあった。

9月11日。たしか、カレンダーでそう見たはずだが、テスターを除く人は9月9日からこのゲームは始まったはずなのだ。


 そうだ。そこに倒れているリーザから何か情報が得られるかもしれない。


 ぼくはリーザのところに歩いていく。

リーザからは赤い血が流れているが、それと同時に黒い血も少し混ざっている。


 黒い血を飲めば......


 ぼくの中にそんな考えがよぎった。精神が侵食され、危ないかもしれない。しかし、きっと何か重要なことがあるはずだ。


 ぼくはリスクとリターンを天秤にかけるが、すぐにリターンの方に天秤は傾いた。


 よし。


 ぼくはリーザの近くに流れている黒い血を右手ですくい、グイッと飲み込んだ。


 気づくと、見覚えのあるオリーブ畑が視界にあった。

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