32話 地中
真奈が抱き着いてぼくをしばらく離さなかった。
「ど、どど、どうしたの?」
抱き着かれたままぼくは問いかける。
「えー。いーでしょー」
確かに悪い気はしない。それどころか、比奈に抱きつかれているような気がして照れてしまう。けれど、しばらくすると、妙な罪悪感が押し寄せてきた。
「真奈、そろそろ離れて......」
真奈がぼくから離れる。
「急にどうしたの? 照れちゃった?」
「いや、何でもない」
気づいたら体のだるさやイライラが取れていた。頭がスッキリとしてくる。
そうだ。能力教えないと。
「ぼくの能力は、周りの人から見て10秒ズレる能力だよ。でも、能力がバレると無効化されるんだ」
「なるほど。でも、今は別に何ともないけど」
「あ、それは今能力の効果を発動してないからだと思う。今から能力発動するね」
ぼくはズレを復活させる。
「あれ? 凛、おんなじこと2回言ってるよ?」
「ほんとに?」
「おーい? 凛おかしくなっちゃった?」
おかしいな......見えてないみたいだ。一旦ズレを解除するか。
「おかしくないよ」
「ほんとだ。普通になった」
もしかすると、能力がバレるっていうのにも別の条件があるのかもしれない。
とりあえず誤魔化しておこう。
「ちょっとさっきの説明ミスってたみたい。とりあえず、10秒分くらい先の行動をしてることを考えて動いてくれると助かるかな」
「うーん......難しそうだけどやってみる」
「ありがとう」
さて、ここからが問題だ。相手の能力が全く分からない。
分かっていることとして、ボウガンの矢が消えたこと。そして、たくさん出ては消える人影。後は綺麗に整備された公園。
安易に考えれば、物体を消す能力だが、それだけでは人影が現れた理由が分からない。
もう少し様子を見ながら能力者を探そう。
「真奈、今相手はどこら辺にいるか分かる?」
能力を再び解除して問いかける。
「うーん......人らしき反応が何個かあって、うまく判別できないなぁ......」
「どっちの方に反応が多い?」
「左側の方が多いよ」
「ありがとう」
ぼくはまっすぐ走り出した。木々の奥のまっすぐ目の前に人影が見えたのだ。
きっと、これも本体ではないのだろうが、何かの仕掛けがあることは確かだ。
ボシュ
不意に地面を踏みしめる感覚がなくなった。
落とし穴か......
また落ちる感覚だ。そして、落とし穴なら......
下を見ると、竹槍が10本くらい刺さっていた。急いで近くに手を差し込む。壁が土だったため簡単に刺さった。
そのままの勢いで足も壁に突き刺す。
ザザザザッ
何とか止まることが出来た。危なかった......
下を見ると、竹が光っていた。神々しくというよりはおどろおどろしい感じだ。その光が消えた時、現れたのはかぐや姫ではなく、爆弾だった。
ドカン
あれ......?思ってたより火力出なかったな。
ザラザラ......
まさか......
土が上方からバラバラと落ちてくる。このままだと生き埋めに......
次の瞬間、視界が真っ暗になった。
体ががっちり固定されてるな......
もぞもぞと動いてどこかに出れないかと探ってみると、手が空気に触れた感覚があった。少し飛び出た手を周りに引っ掛けてなんとか生き埋め状態を脱却した。
「ここは何なんだ?」
そこには不思議な光景が広がっていた。