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30話 共闘

「残念ながら、俺の勝ちのようだ」


 男にそう言われたときに気づいた。背後からナイフで心臓の辺りを一突きにされていることを。

しかし、致命傷じゃない。今のぼくならこの程度のダメージであれば動ける。


 背後に手を伸ばし、男の右袖を掴む。


「どこに逃げるつもりだ?」


 男の右足をナイフでズタズタになるまで何度も刺す。男は悲鳴を何度も上げるが何度も刺しているうちに、何の反応も無くなった。神経ごと潰してしまったか......じゃあ、次は左足。

しかし、どれだけ刺しても反応は返ってこない。気づくと、周りが透明ではなくなっていた。

そうか。死んだのか。つまんないの。


 服の心臓の辺りにL字の金具をいっぱいつけといたのが効いたらしい。刺されたときに、L字の金具にあたって少しずれた位置にナイフが刺さったのだろう。そのおかげで致命傷にならず相手をだますことができた。やはり、念には念を入れておくものだな。


 さて、比奈を追いかけないと......


 28階から階段を下りるのは一苦労だ。階段にはたくさんの矢が壁に刺さっている。そして、糸が張られている。あっちも逃がすつもりはなかったってことか。

矢は集めておこう。


 こつこつと降りていると、目の前がぼんやりと滲んできた。なんで滲んでいるんだろう。続いて、体が動かなくなっていた。ぼくはそのまま前のめりに倒れた。





「ふふふ。×××君ってやっぱり面白いよね」


「そうか? まぁ俺も一番比奈が好きだな」


 なんだ......? 何の話だ?

目の前に広がっていた光景には違和感しかなかった。周りにたくさん人がいる。みんな制服を着て、同じ方向に歩いている。というか、人がたくさんいることに違和感しかない。


 ただ、周りの人の声は聞こえない。口パクをしているだけにしか見えないのだ。しかし、2人分だけ声が聞こえる。比奈と、その隣にいる誰かの声だけが。


「比奈、明日はどこに行こうか?」


 比奈を下の名前で呼ぶな。


「そだなぁ。映画館とかどう?」


「今なら恋人割引もしてるしな」


 恋......人......?


 気づいたときにはぼくは真っ赤に染まっていた。

なぜだか胸のモヤモヤが晴れない。


 パシーン


 左頬を激痛が襲う。触ると左頬は熱く、そして、腫れている。


 比奈の右手は赤く、その顔にはほんの少しの怒りと悲しみ、最後に最大限の軽蔑が見て取れる。


「あ......あ......」


 ぼくはこれに似た表情は見たことがある。けれど、こんな表情をされてしまうとは......


 ぼくは右手に持っていたナイフを自分の心臓に向ける。


 その刃が心臓まで到達した時、


「さよなら」


 比奈のそんな声が聞こえた。





「もしもーし」


「え? あ? え?」


 息を切らしながらぼくは困惑した。

すぐ目の前には床があった。

えと......何があったんだっけ......

比奈に叩かれて、自殺したんだっけか。って、夢か。

ぼくは起き上がる。


「あ、起きた?」


 目の前には女の子がいた。けれど、視界がぼんやりとしていてはっきりと顔が見えない。

気づくとポロポロと涙が流れていた。

あれ......なんで泣いてるんだろ......


「おうおう。泣くな泣くな。落ち着きましょ」


「ありがとう」


 右腕で涙を拭いながら答える。

っていうか、誰だ?

涙を拭ったおかげで視界がはっきりした。


「え? 比奈?」


「比奈って? 私は真奈だけど」


「ほ、ほんとに?」


「ほんとのほんと」


 ぼくは今話している女の子が、比奈にしか見えない。長くさらさらとした髪。整った顔立ち。背格好。どれをとってもおんなじだ。


 ふぅ。

一旦落ち着こう。


「なんで攻撃してこないんだ? 真奈は」


「だって、今日の分は殺してるし」


「今、何月何日何時何分だ?」


「変な聞き方だね。えとね、9月15日22時57分だよ」


 9月8日からこのゲームが始まったから、今は8日目......


「え? 後1時間で今日が終わるの?」


「そうだよ」


「やばい......まだ今日の分が......」


「ねぇ、あなた、仲間にならない?」


「もちろん」


 考える前にぼくは答えていた。もしかすると、比奈に繋がる手がかりになるかもしれないと思っているのかもしれない。


 それとも、ただ寂しさを埋めるための糧にしたいだけなのかもしれない。


 後者でないと信じたいが、それを確かめる術はない。

 ただ、進もう。比奈に向かって。


「これからよろしくね!」


 そう真奈が言って、ぼくは真奈と握手を交わす。その時の真奈の手は柔らかかった。比奈と手を繋いだ時と同じくらいに。

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