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26話 ラストアタック

 ゴウンゴウン


 という音がして、爆発が収まったことが分かる。

ぼくは、ちょうど男の方に向かっていて、男の背後の辺りにいることができたため、何事もなかった。

男がきっちりと壁を作って爆風を防いでくれたおかげだ。


 と、そんな分析をしている余裕は無いか。

比奈は死んでいないはずだ。それなのに、なのに......まだ、電気使いの子どもは生き残っている。

比奈は、きっちりと殺すはずなのだ。そのことを認めてしまうのも悲しいのだが、比奈が死んでしまうことと比べれば、そこまででも無いか。

次に、潔がどうなっているのかが問題だ。あちら側で1人爆風を直で受けているかもしれない。ただ、即座に死に至るほどの爆発ではなかった様子だ。今でも電車が走り続けているのだから。


 とりあえず男を攻撃しに行こうかと思ったがやめた。その前に、倒れている電気使いの子どもをもう一回刺しておいた方がいいと思ったのだ。念には念を、というやつだ。

倒れている子どもの方に向かって行くが、左足の損傷のせいでスムーズに進めず、子どものところにたどり着いた頃には、すでに男がぼくが子どもの方に向かっていることに気づいたようで、こちらの方に向かってくる。


 何も子どもに動きがないので、グサッと子どもの頭を頭頂部側からナイフで刺す。

すると、子どもの頭から血が放射状に吹き出し、ぼくの身体にベッタベッタと張り付くかのようにくっついてくる。まるでスライムか何かのようだ。


「ガフッ」


 背中からお腹にかけて激痛が走り、ぼくはボッタボッタと血を子供にかける羽目になった。何かに貫かれたようだ。しかし、その何かが何なのかはわからなかった。貫いたはずのものがどこにも存在しないのだ。

そうか。有機物に触れたから消えたのか。ぼくの体に触れて、消えるまでの間になら貫くことができるのだ。


「潔! お前の能力で、その男をぼくの方に吹っ飛ばしてくれ!」


 潔からの返事が来るより先に男がこちらのほうに向かってくる。

なぜぼくの位置がわかる?


 10秒だけ、いや、20秒だけ時間を稼げれば......そうすれば......


 男のこちらへの歩みが突然止まった。

男が一瞬後ろに下がってから、意を決したかのようにこちらに先ほどよりも速度を上げて走ってくる。

一瞬男が切れたかのように見えたが、そのままこちらに走ってくる。


 体が痛んでそんなに動けないぼくは、倒れこむようにして右側に転がる。すると、それを目で追うようにして、男が時間のずれがないかのようにぼくを見てくる。

あ、なるほど。今理解した。男は能力で変換した空気の粒子が、元に戻る位置を特定しているのだ。


 ドン


 交通事故のような音がして、男がぼくを超えて吹っ飛ぶ。これで10秒か。あと10秒。


 これで、10秒は稼げるだろう。おもちゃのボールにナイフを突き刺して投げる。ボールの中の灯油のせいで、ぶれた飛び方をするこのボールには不用意には近づきにくいだろう。

しかし、そのナイフ付きボールは当てることが目的ではない。

投げられたナイフがボールの表面で少しずつ動き、切れ目を大きくしていく。

そろそろだ。ボールから四方八方に灯油がばらまかれていく。

灯油の量は少ないが、ぼくを探すのの妨害くらいにはなるだろう。


 キキキキー


 よしきた。


 ガリッ


 電車が脱輪した音がする。そのまま電車は2秒ほど宙を舞い、爆発音よりもでかい音で電車は住宅街に突っ込む。


 ぼくはというと、動けないまま電車の外に窓から放り出され、地面に直撃する直前で、比奈が出してくれた微生物に支えられ、無事脱出できた。少しして、潔がぼくの近くに激しめの音を出して落ちてきた。が、無事なようだ。少し痛そうにも見えるけれど。


「大丈夫だった?」


 比奈がぼくに優しく話しかける。久しぶりに比奈を見た気がする。と、それよりも。


「大丈夫。とりあえず、あいつにとどめを刺しに行こう」


「そうしようか」


 ぼくが立ち上がろうとしたとき、お腹のあたりが痛んだ。

大丈夫。これくらいなら耐えられる。自分にそう言い聞かせて、脱線した電車のところに向かう。


 1号車のところで男は、子どもを抱いて泣いている。脱線したときのせいでもう血が完璧に抜けてしまったかというレベルで、しかも骨も粉々で、ほぼ皮と同じような状態の子どもを抱いて。

男の傷も大したものだというのに。きっと、そんなに連続ですべてのものを回避するなり、自分を気体に変えたりといった安全策が取りきれなかったのだ。


 ぼくは左足からトクトクと漏れている灯油を男にかける。こうすることで、気体になって回避されるのを防ぐことができる。しかし、もう戦意を失ったのか、何の行動も移さずに泣いている。先ほどまでの性格、言動、行動力、冷静さが嘘のようだ。本当の姿はもしかしたら、今の泣いている姿なのかもしれない。

ぼくは泣いている男を背中側から、ナイフで一突きにして殺した。あまりのあっけなさだったが、相手が抵抗しなかったのが悪い。



 そうして、イベント2日目は唐突に終わった。

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