19話 不穏
「呼んだか?」
少し低い男の声が聞こえる。
「あ、吹っ飛ばしてしまったか」
今更気づいたのか、と言おうとしたが、間違っていない。
「別にぶっ飛ばそうとか思っているわけじゃないから許せよ」
果たして何がしたいのだろう。こいつは。
「話してくれないと進まないから、話せよ」
少し語気が荒くなっている。
一旦話してみたほうがいいかもしれないと思った。何か弱点を探せるかもしれない。そう思ったぼくは、時間のずれを解除する。
「何を話すんだ?」
ぼくは普通に聞いてみる。
「俺を仲間にしろ」
「は?」
「だから、俺を仲間にしろって言ってんだ」
全く意味不明だ。現状、他人と組む必要なんてまったくない。それどころか自分の秘密を晒すことにもなる。そして、なぜぼくなのか。多々ある疑問を解決すべくぼくは問いかける。
「なぜ仲間になりたがっているんだ?」
「その方が周りの奴らを殺すのに楽だからだ」
「最終的に敵になるんだぞ?」
「まぁな。それより、お前らも2人で行動してるのに人のこと言えんのか?」
それもそうか。
「それじゃあ、契約をしよう。しばらくは仲間として行動しよう。ただ、最後の3人になったら容赦はしない。後、最初の獲物は比奈にゆずってくれ。ぼくは最後でいい。それと、連携を取るために能力を教えて欲しい」
「俺に不公平すぎる条件だろ。それは」
「それもそうだな。それなら、比奈の能力を教えることにするよ」
「なぜお前じゃない?」
「ぼくの能力は、バレると効果なくなるからさ」
「お前、今何日目だ?」
唐突な質問に、驚いたが、
「6日目だ」
「ならおかしい」
「そういえば、君の名前は?」
聞き返そうと思った時に、そういえば呼び方が決まっていなかったことに気づいたのだ。
「俺は、笹田潔。それよりもお前おかしいぞ」
「何がだ?」
「なぜデメリットがある?」
「デメリットはあるもののはずだと思っていたのだけど」
「10万人のテスター。俺もお前もそのうちの一人だ。テスターの能力にデメリットはないはずだ」
「というと? どういうことだ? 例がないとわからない」
「俺の能力は指定した人、場所から半径1メートルに人が入れなくなる能力だが、別にデメリットと言えるような特性はなかった」
「でも、体力とか減ったりしないのか?」
「それは減る。まぁ、人間なら当たり前だろ?」
「というか、根拠はあるのか? デメリットがないっていうさ」
「当たり前だろ。マスターがくれた有益な情報ってのでテスターのことを。そんで、テスター以外の能力にはデメリットがあるって」
「比奈は体力が減るだけだから、デメリットなくて、ぼくにはデメリットがあるんだけども」
「それがおかしいって言ってるんだ」
もしかすると......実はテスターになる予定だったのは比奈だったのかもしれない。そうすると、ぼくと比奈はバグなのだと言ってもいいかもしれない。
果たして、マスターはそんなミスをするだろうか。その真相はまだわからないが、何故だかぼくはマスターの掌の上で転がされているような気がした。
その後も、ぼくと潔とで、しばらく話して、協力関係という形で、一緒に行動することにした。
今日も夜になるまでは行動しないので、ぼくはひととき眠ることにした。
しかし、目をつぶっても、何かがぼくの頭に引っかかって、取れない。
不安なところはいくつもある。潔とは協力関係を結んだのだが、まだ、信頼を置くほどには至っていない。そんな状態で寝ていてもいいものなのだろうか。ただ、潔の能力を知っていることは大きなアドバンテージだ。
短距離戦法のぼくには辛い相手であることは間違いない。
悩んでいて眠れない方が後々、体に響くと思ったので、眠ることにした。
ガサ......ゴソ......