11話 人体実験
彼が起き上がることはなかった。
「さて、行きますか」
比奈は動じていない。それどころか、少年が倒れることが当たり前であるような振る舞いだ。
「あの少年ってどうなったの......?」
ストレートに聞いてみる。
「死んだよ」
「え? なんで? 輸血したのに?」
「逆になんで? 助ける必要がどこにあったの?」
それもそうなのだが、あの流れで輸血をする理由が分からないのだ。
「刺し殺すよりも、ああやって、実験した方がいいじゃない? B型の人にA型の血を入れたら、ほんとに死ぬのかって」
確かに、B型の血とA型の血を混ぜると、凝固すると聞いたことがある。まさか、そんなことを考えながらあの態度接することができるのが不思議だ。言っていることがもろマッドサイエンティストである。
「凛は興味ないの? 人体実験」
今のぼくには比奈が不気味に見える。
「ないかな。まぁ、普通に生きられる世界だったら長生きしたいとは思うけど」
比奈と一緒に。という言葉は胸に秘めておこう。
「そっかぁ。まぁ、とりあえず、後、凛も殺せばいいんだよね」
ん? あ、あー。なるほど。凛も、1人誰かを殺さないといけない。ってことね。ぼくを殺すのかと思った。
こんなふうに考えてしまった自分のことが、比奈を信用していないようで嫌気がさした。
ピコン
また、イベントだろうか。
そこにはこのように書かれている。
ついに、1億人達成!
最近、人が減って、あんまり遭遇できないってのは損だよね。だから、みんなにとびっきりのお知らせだよ!
生存者全員日本の本州に転移するから、人がいない! ってことが減ると思うよ!
やったね!
あ、後、翻訳機能は付けといたから、安心してね!
つくづくうるさいやつだ。
今日は後、ぼくが1人殺すだけだ。
やってくる人たちは各国で生き残ってきた人たちだ。油断はできない。
周りを見ると、光輝いている場所がいくつかある。おそらく、転移されてきてるのだろう。そんな分析をしている暇はない。
ここは今までで最大の乱戦になる。
あの嫌気がさす、東京の満員電車に詰め込まれている人数と同じくらいの殺人鬼がいるのだから。
「隠れよう」
比奈の手をすっと引く。そして、気づく。
比奈の手を握れるだなんて......夢みたい......
ってそうじゃなくて、乱戦になると、最初に殺した人から負けになる。だから、みんなが殺しあった後に、殺しに行くべきなのだ。
外では、激しい戦闘が多発しているようだ。ただ、音が違う。ナイフ同士がぶつかる音、銃声、そういった類の音が全く聞こえない。
みんなが能力ばっかり使っているらしい。乱戦の戦い方をあんまり知らないから、何か対策を考えないと......
あ、そうだ。いいこと思いついた。
「比奈......いい作戦思いついたよ」
さぁ、強者どものお手並み拝見といきますか。