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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十五話 しばしの別れ
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屈辱




 ジャックの同行が決まったその日の夜。

 セナは建物の屋上から夜空を眺めていた。


 電気が普及されたこの大都市は、夜でも明かりがこうこうと灯り、地上を照らしている。

 産業都市と(うた)うだけあって、遠くの工場群の煙突からはもくもくと煙が立ちのぼっていた。

 そのせいか、空に浮かぶ星はなりをひそめてしまって、寂しさを感じさせる。


 屋上に寝そべり数少ない星を数えながら、セナは昼間のことを考えていた。


 決して、生物兵器が自分と無関係だとわかってホッとしているわけではない。

 セナの頭の中には「屈辱」の二文字しか浮かんでいなかった。



 ジャックと一対一で戦闘になった時、かなり劣勢を強いられてしまったこと。

 やり返しはしたが、ジャックは無傷だったのに対し自分は両手に怪我を負った。万が一あのまま戦闘が長引いたら不利なのは自分だっただろう。


 加えて、あの生物兵器。

 聞いた話によればマリアが兵器を倒し、シグルス兵から身を守ってくれたという。それに対し、自分はあっさり被弾し、巨人に押しつぶされてのびていただけ。

 あれだけ守る守ると豪語しておきながら、結局守られたのは自分のほうだ。


 思い出すだけでのたうちまわりそうなほど、かっこ悪くて、恥ずかしかった。


 寝そべったまま「うがぁぁぁ」と叫び出したくなるのを堪え、自身の不名誉に(もだ)えていると、ふっと上に影ができた。



「なーんで誘ってくれないのー?」



 すねた表情で上から覗き込んできたのは、今一番会いたくない相手だった。



「……別にお前に用はねえよ」

「冷たいなぁ。星を見るならあたしを誘ってよ。もう恒例行事でしょ」



 そう言って、マリアはセナの隣に並んで寝転んだ。

 思ったよりも肩が近かったため、セナは体半分ほど横にずれて距離を取る。



「あんまり見えないね、星」

「あー」

「科学都市かあ」



 ぽつりと呟いたあと、沈黙が生まれた。


 星を眺めたまま口を閉ざしたマリアが何を考えているのかは、セナにはわからない。

 ただ、シグルスに到着してからというもの彼女に対する周囲の態度は今までとまったく違った。そのことに関してとくに彼女から言及はなかったが、何も感じないはずはない。



「……ありがとうね」

「は?」



 突然の感謝の言葉に、セナはきょとんとする。



「銃に撃たれてすごく痛そうだったのに……セナ、あたしを庇ってくれたでしょ。嬉しかった。ていうか、あたしのせいでセナは巨人につぶされちゃったんだよね。本当にごめんなさい」

「……」



 セナはこれ以上ないほど情けなさでいっぱいになった。

 今しがた自身の不甲斐なさに打ちのめされたばかりだというのに、彼女の言葉はなけなしのプライドをさらにズタズタにさせてしまうものだった。

 失態を人のせいにするほど、落ちぶれてはいないというのに。



「セナが生きていて、本当によかった」

「……あっそ」



 だが、八つ当たりなんてかっこ悪いマネはできなかった。これ以上惨めになんかなりたくない。


 そっけない返事はいつものことなので、とくに気にすることなく、マリアはそれ以上その会話を広げようとはしなかった。

 星空の少なさに、「やっぱり少ないね」と呟くだけ。


 セナはその横顔をちらりと盗み見た。


 プレミネンス教会でも屈指の実力を誇る聖女様とあって、ここ最近の彼女の成長度合いは目を見張るものがある。

 たしかに以前、「命の危機を乗り越えた時こそ力が蓄えられる」と説明があった。


 そこで思い出されるのは、ゲミア民族の里で悲惨な仕打ちを受けたこと。

 司教に殺されかけたこと。

 今回の出来事。


 彼女はそこらへんの聖女以上にいくつもの危険をかいくぐってきた。

 だからここまで成長できたのも納得である。


 きっと彼女にとっては喜ぶべきことなのだろう。

 だが……自分がそれをおもしろくないと思ってしまうのは、弱い自分が彼女に置いてきぼりをくらいそうで、あせっているからだろうか。


 いや、違う。そんな小難しい話ではない。

 もっと単純なことだ。



「お前、移動の術ってあれから使ったのか」

「え? ううん、あれっきり。やっぱりセナが居ないと不安なんだもん」

「……あーっそ。よし、じゃあ行くか」

「え? どこに?」



 ガバッと起き上がったセナを見上げ、マリアはきょとんとした。

 そんな彼女を見下ろして、セナはにやりと笑った。






 たどり着いた先は無事、セナが指定した場所だった。

 港特有の潮の匂い。少し湿気を含んだ風が二人を撫でる。



「うわー。やった、大成功」

「すげー。なつかしいな」



 ここは二人が初めて出会った港。

 アルバ諸島、クリンとセナの出身地だ。



「スリと勘違いされたよなぁ、どっかのポンコツ聖女に」

「うぐぐ」



 返す言葉もなく、マリアはただ唸る。

 景色を観察していた視線を互いのほうへ向ければ、移動の術の際に繋がれた手はそのままだったことに気づき、セナはパッと手を放した。


 マリアはとくに気にするでもなく、周囲をキョロキョロ見渡している。


 

「南半球を一周しちゃったね」

「そーだな」



 ここ、アルバ諸島は、シグルス大陸からまっすぐ東に進んだ場所にあるのだ。シグルス大陸最東端の岬からアルバ諸島が肉眼で確認できるほど距離も近く、時差は二時間程度である。

 


「セナとクリンの村って、ここからすぐなの?」

「ああ、ひとっとびで行けるよ。でも、さすがにまだ帰れないな」

「じゃあなんでここに?」

「村から少し離れた場所に展望台がある」

「なるほど」



 マリアはすぐに理解した。

 セナはマリアを抱き上げると、お得意の身軽さで展望台へ向かった。



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