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少年たちは、それを探して旅に出る。  作者: イヴの樹
第十四話 聖女と皇女
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情報共有会議


「ミサキは何か思い出したのか?」



 セナが尋ねると、ミサキは顔を曇らせふるふると首を振った。



「いえ、何も」

「生物兵器を見た時は? 記憶の片隅に『止めなきゃ』って思ってたんだろ。何か感じることとかあったのか?」

「いえ。あのときは、別のことで頭がいっぱいだったので……」



 ミサキの言葉で、みんなの頭のなかに一つの名前が思い浮かんだ。



「……ミランシャ皇女、ねぇ」

「やめてください。まだ確定したわけではありません」

「いや、なんか、納得かもなって」

「え?」



 セナはミサキの顔をまじまじと見つめ、一人でうんうんと首を縦に振っている。



「ミサキってお嬢さまっぽいだろ。そこの間の抜けた聖女と違って品があるっつーの?」

「なんですって?」

「いいじゃん、皇女様。記憶が戻ったら城でウマイもん食えるじゃん。招待しろよ」

「……」



 マリアがポカポカとセナの背中を叩くのを見ながら、ミサキはうつむく。



「ミランシャ皇女は聖女撲滅運動の第一人者だと、ジャックさんがおっしゃっていたではありませんか。たしかに帝国は長年、聖女に対して非協力的な態度を貫いております。ミランシャ皇女がそちら側の人間だったとしてもおかしくはありません。でも、私はマリアと敵対なんかしたくありません」

「ミサキ……」



 ミサキの声が震え出したので、マリアはセナをほっといてギュッと彼女の手を握った。

 セナはきょとんとして首を傾げる。



「じゃ、しなきゃいいだろ」

「……えっ?」

「記憶が戻ったって、今のお前が居なくなるわけじゃねえだろ。お前はお前らしく、今までどおりポンコツ聖女のおもりを続ければいいじゃん」



 誰がポンコツよ、とマリアが抗議するのをはた目に見ながら、ミサキはそれでも不安げに瞳を揺らした。



「……でも、記憶が戻ったときに今の私でいられるかなんて、わからないじゃないですか」

「うーん」



 ミサキの言葉にクリンは腕を組んだ。

 みんなが多少の期待をこめた眼差しで、クリンに注目をする。



「この五年間の記憶が消えてしまうわけではないからな。戻ってきた記憶のせいで感情に差違は生じるかもしれないけど、うまく整理することができれば……」

「だーから難しいんだよクリンの説明は」

「つまり、昔の記憶が戻ったせいで聖女に対して否定的な感情も戻ってくるかもしれないけど、今の感情が消えるわけじゃない。そのせいで混乱するかもしれないけど、どっちを選ぶかは結局記憶が戻った時のミサキしだいってこと」

「最初からそう言えよ」

「言ってるよ。お前はすぐ考えるのを放棄するよな、悪い癖だぞ」

「だってわかんねーもーん」



 兄弟がピーチクパーチク騒ぐのを、ミサキは浮かない顔をしたまま眺めていた。

 クリンの言いたいことはわかるが、それでも不安が拭えたわけではない。過去の自分の感情に勝てる確率なんて、わからないではないか。



「まあ、現時点でミサキがミランシャ皇女かどうかなんて確定したわけじゃないからな。生物兵器に関しても得られる手がかりは少なかった。不安かもしれないけど、いったんミサキの記憶喪失の件は様子見にしないか」

「はい、私もそうしていただきたいです」



 クリンがミサキについての話題を締め、ミサキもそれに応じた。



「さて。ここからが重要だ。今後のことについて話そうか。いろいろあったけれど、僕たちの目的は?」

「聖地巡礼!」



 マリアがピッと片手をあげた。



「そうだな。ジャックさんと出会ったことや、生物兵器が暴走したことでごちゃごちゃになりつつあるけれど、僕たちの目的は帝国との同盟うんぬんや、兵器開発の阻止ではない。セナがシグルスの生物兵器と関わりがなかったということがわかっただけで、もうここにとどまる理由はないんだ」

「そうね。一刻も早く北シグルスにいくべきよ」

「……ただ、ここで二つ、問題がある」



 クリンは指を二本立てた。それを見て、ミサキがさっと顔を曇らせた。



「私があの場で名乗りをあげてしまったことですね。勝手なことをして、本当にすみませんでした」

「……」



 クリンはすぐに「いいよ」とは言えなかった。

 正直なところ、得策ではないなと思っていたからだ。


 死亡したか行方不明として扱われているかはわからないが、ジパール帝国の第一皇女が生きていたことを世間に知らしめてしまった。帝国が、シグルスが、血眼になってミサキを探すだろう。

 つまり、もう大手を振って町から町へ移動することができなくなってしまったのだ。



「あの時マリアたちを助けるには、ああするしかなかったっていうのは理解してるよ」

「……はい。本当にすみませんでした」

「起こってしまったことを話しても仕方ないわよ。今後どうするか、考えましょ」



 ミサキに気を遣ってか、マリアは少し声のトーンを上げた。

 セナもそれに同意のようだ。



「幸い、この国はどこもかしこも道が整備されてて夜でも移動はラクそうだしな、歩いて教会を目指そうぜ」

「そうだな。それがいい」

「で、二つ目の問題っていうのはジャックだよな」



 セナの回答に、クリンは「正解」と頷く。

 ジャックのいる組織はミサキの命を狙っている。このまま黙って見逃してくれるとは到底思えない。



「いまだに皇女の命を狙ってるんだろ? で、向こうはミサキが皇女だとほぼ確信してる、と」

「そうだね、セナの命を助けてくれた恩はあるけど……。まだ油断はできない」

「だったら、あいつが戻ってくる前にさっさとここから逃げちまえばいいんじゃねえか」

「それは問題を先延ばしにするだけだろ。きっと追ってくるよ」

「じゃあどうすんだよ。見逃してくれって頼むのか?」

「無理かなぁ?」



 いや、無理だろ。と、セナがツッコミを入れるが、クリンは至って大真面目だ。



「ジャックさんは妹さんを聖女に持っていて、生物兵器を止めるという使命感も抱いている。ギンさんの知り合いだからっていう贔屓目(ひいきめ)もあるけど、……話せばわかる人だと思うんだ」

「……」



 うーん。と、一同が悩むのは、無理もない。

 そんなにうまく事が運ぶとは誰一人として思えなかった。


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